ゆううつ部部長のOB訪問 東藤泰宏 イラスト:ヨシムラマリ

第7回後編 58歳主婦介護うつ

認知症になってしまったお姑さんの介護をするなかで、
徐々に心身のバランスが崩れていってしまった主婦の池田さん。
「献立を考えるのも難しい」という状況から、
どのように回復していったのでしょうか。
介護、家事との向き合い方や、
趣味の時間の持ち方など、
今回も回復のヒントが詰まっています。

池田さん
池田さん
・年齢:58歳
・職業:主婦、たまにパート
・小柄、やせ型
・趣味:俳句
・うつ歴:1年ちょっと

※本連載ではプライバシーを守るため、名前はすべて仮名とさせていただいております。

うつ病と声

東藤:
一番しんどかったのはなんですか? うつ病になっていったなかで。
池田さん:
姑としゃべることです。一番きつかったのは。
東藤:
なるほど。
自分のうつ病の要因になっている当人と、話す必要がある。
池田さん:
ええ。だけど、本人は何も理解できない。
それと、耳が遠いから、余計つらいんです。
理解力の前に聴力がないので、
こっちが声を張り上げないと、っていうのが、
とっても頭が痛くなる。
東藤:
そうですね。
ぼくも疲れると声が張れなくなって、普通に喋れなくなる。
池田さん:
自分の声が小さく低くなってくるんです。
東藤:
ぼくも仕事で疲れて帰ってくると、
発声することができなくて、一番小さい声、吐息だけで、
パートナーに意図を伝えることしかできないこともありました。
吐息で「大丈夫」とか。
大丈夫じゃないだろっていう(苦笑)。
池田さん:
そういう状況で、補聴器はあったんだけれども、
本人が使いこなせないので意味がない。
東藤:
はずしちゃったりとか?
池田さん:
ええ。
東藤:
自分がうつ病の状況で、
声を張りあげて会話しなきゃいけないっていうのは相当つらいですね。
池田さん:
声のことで、誰かにいままでにそう言ってもらえたことは
なかったですね(笑)。
東藤:
いやぁ、それはつらいですよ。自分が喋らなくても、うつ状態の時に大きな声や音を聞くのもつらいですし。
池田さん:
そうなのよね、向こうの発声する声も大きな声で。
高い音で発声されるとそれもつらいのよね。

東藤:
そもそも話す必要があるのはどういうシーンですか?
池田さん:
「ご飯はまだよ!」とか(笑)。
「明日からショートステイだから準備しましょうね」とか。
やっぱり必要な会話ってあるんですね。
東藤:
なるほど。
池田さん:
「その洋服は穴があいてるから着ないでね」とか
いろいろ伝えることはあるんだけども……。
そうすると今度は向こうが反論して、
「これは、隠れるから穴が開いてもいいの」
「この服は色が好きだから、昨日着ていても、今日も着るの」
とか、いろいろ。
東藤:
ちゃんとコミュニケーションになってしまう分、つらいやりとりは長引く。
池田さん:
ええ。でも本当、一番つらかったのは声かもしれませんね。
こうして話しながらいろいろ思い出してくると。
そして姑がいると、家でパジャマを着てはいられない。嫁だから。
東藤:
そういう意識もあるんですね。
本当は寝てばっかりだし、パジャマのほうが楽なんだけど、
あくまで嫁なので、ちゃんとした格好をしてないといけない。
池田さん:
服はきちんと着ていないと、「どうしたの?」ってまた突っ込まれるし。

どうやって回復していったか

東藤:
そんな状態から、どうやって回復していったんですか?
池田さん:
夫がちょっと体調を崩して救急車に乗ることがありました。
そのときに、私も具合が悪い、夫も体調が悪い中で、
「おばあちゃん(姑)のお世話はどうするの?」という話になり、
施設も考えましょう、という共通認識がだんだん生まれてきました。

それで、ショートステイで使っていたところに、
ケアハウスがあって、そこに入ってもらうことにしたんです。
本当は特養(特別養護老人ホーム)を探していたんですが。
東藤:
特養とケアハウスって何が違うんですか?
池田さん:
特養は最後まで見てもらえるんです。
あと、ちょっと重い感じなのかな?
特養を見学に行ったときに、施設の人に
「ケアハウスというのもありますよ」って言ってもらったんです。
特養だと400人待ちって言われて。
東藤:
特養とケアハウスでいろいろ違うんですね。
池田さん:
はい。
ケアハウスだと、そんなに待たずに入れるということで、
半年ぐらいしてからかな、申し込んで、
それで面接官のところに行きました。
私は認知症が進んでいるから、
自立型のケアハウスは厳しいんじゃないかな、
面接ではねられるかなと思ったんだけれども、
なぜかそのとき、姑はすごくしっかりしていて、
ケアハウスからOKが出たんです。
それでケアハウスにお世話になりましたが、
半年で認知症が進んでしまって、
それからさらに胃潰瘍になってしまいました。
東藤:
お姑さんが?
池田さん:
はい。それでケアハウスのほうからもう無理です、
と言われてしまって、それでグループホームを探して。
東藤:
一回家に戻ったんですか? お姑さんは。
池田さん:
いえ、うちには戻りませんでした。
入院して、一回ケアハウスに戻りました。
そこでもう面倒は看られない、と言われたので、
すぐに探したら、グループホームが近くに見つかったので、
そこに移ることができました。
ケアハウスでは、姑は、うちに帰りたいと言い出したり、
隣の人の部屋に入っちゃったりと、
いろんな問題行動を起こしてしまっていたんです。
周りともコミュニケーションがあまり取れなかったんですけど、
グループホームに入ってからは、とても本人も落ち着いているんです。
それで、私の気持ちもとても楽になりました。
東藤:
施設を移る前はそんなには落ち着いていなかった。
池田さん:
そうですね。すぐに呼び出しがあったから。ホームから。
東藤:
ああ、問題行動があると……
池田さん:
問題行動があるたびに呼び出されていたので。
で、姑にもたぶん心の負担になってるんだろうなっていうのもあって、
自分の中にも葛藤があったんですけど。
東藤:
介護に疲れ切ってはいても、
お姑さんを気遣う気持ちも同時にあったんですね。
週どれぐらい連絡は来ましたか?
池田さん:
1週間に2回ぐらいは電話しました。最後はね。
それで、グループホームに移ってからは本人が落ち着いて、
楽しく暮らせているようなので、それで夫も私も義理の姉も、
とてもほっとしている部分があって、
そこからこちらの気持ちも楽になりました。
東藤:
つ病が発症してから半年間、しんどい時期が続いて。
池田さん:
半年以上かな。
東藤:
で、旦那さんの救急車があって。
池田さん:
搬送の時に、夫が決心をして、施設という選択肢も
必要なんじゃないかっていうことを認めてくれた。
東藤:
やっと二人してあらゆる可能性をさぐって
介護を解決していこうという姿勢が出来上がったっていうことですね。
池田さん:
そんな感じです。
だから、私が落ち着いたのは姑がグループホームに入ってから。
東藤:
わかりやすいですね。
要因がひとつ明確に存在していて、
その要因が外部に移ったので、落ち着いてきた。
そこからは順調に回復した感じですか?
池田さん:
外部要因が全部なくなったはずなのに、
ある日突然霧が晴れたというようなわけにはいかなかったですね。
少しずつでした。

再び俳句をスタート

東藤:
少しずつ、どんなことができるようになったんですか?
池田さん:
少しずつ……買い物ができるようになりました。
街にもそれまでより回数がいけるように。
あ、一番わかりやすいのは、俳句をやっているんですけど、
症状が重いときには本当に俳句を作れなかったんです。
俳句の本を詠みたくもなかった。
だから、俳句の同人誌に投句もしていなかったし、
グループで行く句会にももちろん出席できなかった。
それが、俳句を送れるようになって、
句会に行きたいと思えるようになってきました。
東藤:
行きたくなかったのが、行きたいと思えるように。
池田さん:
うん、俳句を詠みたい、詠んでみたい、作りたい
と思えるようになってきた。
俳句の内容で言うと、景色を描写したりする
写生句は作れるようになりました。
そこから先の、心情を入れた俳句は、今でもまだ作れませんけど。

東藤:
そこはなにかもやもやがありそうですね。
池田さん:
そうなんです。
だから日常生活は問題ないんですが、100%じゃないんですよ。
客観描写はできるけれど、心情を入れる、心象句はつくれないですね。
うつになる直前は、最多で月に4回句会に行っていました。
それがまったくいけなくなっていました。
東藤:
介護とかがあった分、違う活動でちゃんと自分を保とうとして、
句会に行っていたんですね。
池田さん:
そうそう。
だからうつになる直前は月に4回も行ったりして、
がんばっていました。
東藤:
で、うつ病になったらゼロになって。
回復し始めて、最初は句会ですか? 投句ですか?
池田さん:
最初は投句で、それから句会に行って、
今の目標は月に2回は行こうと思っています。
現状は1回だったり2回だったりまちまちだけど、
とりあえず1年半ぐらいは続けて出席することができています。
東藤:
おお~。うつ病になった後の最初の句会の場所はどこでしたか?
池田さん:
横浜で句会がありました。
それもクリスマスの飾りつけをされた西洋館での句会で。
そのときは、「西洋館のクリスマスの飾りつけを見たい」
っていう気持ちもあったので、
やっとの思いで横浜の石川町に行きました。
電車で1時間くらいです。
見たけども、句も作れなくて、もちろん出句しないで、
句会にも出ないで、一時間ぐらいみんなと一緒に
西洋館を歩いて帰りました。
…そっか、そういうこともありましたね。

その次はすごく遠かったんですよ。千葉県です、たぶん。
東藤:
無茶しますねえ(笑)。
池田さん:
無茶するでしょ。
だから行くだけでいいと思ったの。
半年とかじゃないわよ、1年半ぐらいたってから。
東藤:
うつになってから?
池田さん:
はい。乗り換えて千葉県にいくっていうのは
もーのすごいプレッシャー。
東藤:
「長距離移動だ!」というのはすごいプレッシャーですよね。
池田さん:
でも一回そうやって遠くまで行けたことで自信になりました。
ちゃんと乗り換えて電車に乗って。
東藤:
で、句を作れた。
池田さん:
はい。ようやく。でもその間がね、それぞれ半年ずつぐらい。

現在の生活

東藤:
いまは、家事とかも普通にできていて、
日常生活は前と同じ水準ですか?
池田さん:
8割くらいです。でも普通に生活するには充分。
東藤:
生活に、すごい困るとか問題があるとかいうことはない?
池田さん:
ないですね。
夫と二人だから、家事は今日やらなくても、
明日やればいいやって。
東藤:
ゆっくりした生活を送っているんですね。
池田さん:
そうですね。今日洗濯しなくても明日でいいって
思えるようになったのは大きいです。
東藤:
それは、うつ病の時の「やらなきゃいけないのにできない」
っていうのとは違うんですよね。
池田さん:
もっと気の持ち方が楽になってるかな。
東藤:
自分で選択してそうしているだけという。
池田さん:
うん。いまは朝横にならなくてもちゃんと動けるし、
街での買い物で服も買える。
東藤:
主婦でうつ病の人は世の中にいっぱいいると思うんですが、
何かアドバイスをお願いします。
介護で疲れているうつの人でもいいし、
主婦でうつの人でもいいんですが。
池田さん:
では介護をされている方に。
私はしんどかった時期、友達に
「介護は必ず終わりがあるよ」って言われたんです。
その時は、「信じられない、この人はこんなに体が元気なんだから」、
と思ってしまいました。
言葉だけで、これに終わりがあるっていうことが、
胸の中に入ってこなかったんです。

が……今は、物事は何でも終わりがあるんだなと。
どういう結末であろうと、終わりがあるからね、
って言ってあげたい。私も。
東藤:
なるほど。広くうつ病の人に向けてはいかがでしょう。
池田さん:
また人に言われたことなんですが、
たまたま街で、知り合いで年上の、
昔看護婦だったっていう人と会ったの。

「体調はどう? おばあちゃんは大丈夫?」
って声を掛けてくれて。

今は姑とは離れているけど、まだ体調は回復しないと伝えました。
そうしたら
「あなたね、自分の体は自分で守らなくちゃダメなのよ」って。
「お薬でもない。自分よ」って言われたんです。
それで目が覚めたような気がしたの。
それまでは、薬に頼るというか……。
東藤:
「薬をしっかり飲んでいれば治るだろう」という考えだったんですね。
池田さん:
そうなんです。
でもその人に、
「あなたには俳句があるじゃない、
あなたは太極拳もやってたじゃない」
って言ってもらって。
そうしたら、ハッと気づいた。

体もちゃんと動かさなくちゃいけないと思いました。
入会したまま行けなくなっていたスポーツジムに
太極拳の教室があったので、太極拳にもちゃんと行こうかなと。
俳句もあるし、楽しめるもの、興味を引くものがあるじゃん、みたいな。
その人と会ったことで、すごく気が楽になりました。
まぁ、姑もちょっと離れていたっていう状況があった上ですけどね。

東藤:
自分の今までやってきたことを活かして、
少しずつでも行動とか活動の幅を広げていく意思ができた。
今まではできないことに押しつぶされていて
身動きがとれなかったんだけど。
池田さん:
そうそうそう、そのとおりです。
東藤:
同世代の人とはちょっと違うお話を伺うことができて、
とても興味深かったです。今日はありがとうございました。
池田さん:
こちらこそ、普段なかなか話してもわかってもらえないことを、
うまく言葉にしてもらって、うれしかったです。
ありがとうございました。

プロフィール

東藤泰宏(とうどう・やすひろ)
1981年生まれ。
IT業界で働くうち、過労のためにうつ病となる。
1年半のうつ病ニート時代を経て「ゆううつ部」(ブログ)を開設。
2011年にスカイライト社主催の「起業チャレンジ2011」で最優秀賞を獲得。
その賞金300万円で起業。仲間を集め、2012年1月にU2plusを公開。
新たな資金調達にも成功したが、まだ絶賛うつ病中。

「みんなでうつの予防&回復をする認知行動療法サイト」U2plus
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・ とうどうTwitterアカウント @toudou_U2plus
・ イラストレーター:ヨシムラマリ Twitter @coromegane
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