ゆううつ部部長のOB訪問 東藤泰宏 イラスト:ヨシムラマリ

第7回前編 58歳主婦介護うつ

今回お話を伺ったのは、
主婦で俳句が趣味の池田さん。
認知症になってしまったお姑さんの介護をするなかで、
徐々に心身のバランスが崩れていってしまったそうです。

池田さん
池田さん
・年齢:58歳
・職業:主婦、たまにパート
・小柄、やせ型
・趣味:俳句
・うつ歴:1年ちょっと

※本連載ではプライバシーを守るため、名前はすべて仮名とさせていただいております。

東藤:
年齢はおいくつですか?
池田さん:
58歳です。
東藤:
回復具合はどれぐらいですか?
池田さん:
8割といったところでしょうか。
東藤:
以前と同じとはいかないけど、
体調に気をつけていれば
割と普通の生活は出来ている感じ?
池田さん:
家事をしたり買い物に行ったり友達と忘年会に行ったりなど、
普通の生活は割と出来ていますね。
東藤:
家族構成は?
池田さん:
今は夫と二人です。
その前は姑が一緒に暮らしていました。
子どもは随分前に家をでています。
東藤:
では最初にどうやってうつ病になっていったのでしょうか?
池田さん:
うーん、姑がだんだん認知がひどくなってきたんですね。
東藤:
認知症が悪化してきた?
池田さん:
はい。

うつ病発症

東藤:
なるほど。
最初にこれうつ病だなと思ったきっかけとかありますか?
メンタルから来たのか、体から来たのか。
池田さん:
些細なことで夫と口論をした時に、
涙が止まらなくなってしまいました。

その5年ぐらい前に、やはり自分の感情をどうしようもなくなって、
精神科医にかかったことがあります。
そのときはうつ病とは診断されませんでしたが、
ちょっとお薬を飲んだら落ち着くことができました。
東藤:
それは短期間で?
池田さん:
3か月ほどです。
東藤:
そのお薬は抗うつ剤だったんですか?
それとも抗不安薬……?
池田さん:
詳しくは見ていなかったのですが、
安定剤に近いものだったんじゃないでしょうか。
当時勤めていたところの看護婦さんが紹介をしてくれました。
東藤:
ちなみにお仕事は何をされていたんでしょうか?
池田さん:
今は介護職のパートです。
一番最初にかかった時は、事務職のパートです。
東藤:
今の介護職はどういうお仕事なんですか?
池田さん:
名目は「介護職」なのですが、
実際は有料の高齢者専用住宅に勤めていまして、
簡単な家事サポートとか、病院の付き添いとか、
割と元気な方たちのお手伝いをしています。
東藤:
それほど医療色は強くない?
池田さん:
ありません。
普通に会話ができる人たち、
ただちょっと体が弱っている方々のサポート、ということですね。
東藤:
なるほどです。
話を戻しますが、ご主人と口論でやり取りがあって、
涙が止まらなくなって。
それは、前回の病院に行った時と似たような状況だった
っていう判断をされたのでしょうか?
池田さん:
そうですね。
「以前経験した感情がもっと強く出てしまった」
という認識があったので、前にかかっていた病院に行きました。
東藤:
それは何科ですか?
池田さん:
心療内科です。
東藤:
前回よりももっと感情がひどく動揺していると。
池田さん:
そうです。

うつ病がひどかったとき

東藤:
ぼくもパニック状態になって、
涙がガーっていうのはたまにありました……。
うつのピークというか、ひどいのが持続しているときは
そうなることもありますよね。

ところで、涙が止まらないって
どれぐらい止まらないんですか?
体も震えて嗚咽したり……?
池田さん:
どんなだったかしら。もう、とめどなく。
東藤:
とめどなく。
それは、普通の、ちょっとつらくて泣く、
っていうのではないですね。
池田さん:
まったく違いますね。
テレビも見られない、料理番組なんか見たくもない、
という感じです。
あと、気分転換に電車に乗って街に出ることもあったのですが、
行くのもきついけど、行ってからも決断できなくて、
服一枚が買えない。
行くだけで精一杯、見るだけで精一杯という感じでした。
東藤:
うん。なにか複数の中から一つを選ぶっていうのは、
うつ病が重い人にはすごく難しい。
ぼくも自動販売機にお金を入れた後で、
ジュースを選べずに立ち尽くしたことがあります。
池田さん:
ただ、本屋さんに行って見るのは好きでしたね。
東藤:
元から本好きなんでしょうね。
池田さん:
そうそう。
東藤:
でも、一冊買うとなるとまた別なんでしょうか?
池田さん:
買えないですね。
迷って迷って、買えないで帰ってきちゃうっていう感じ。
そう、あらゆる買い物ができなかったです。
東藤:
ぼくはうつ病の発症と同時に激しい腰痛も発症していたので、
本屋さんに行っても立っていることができなくて、
何時間も椅子に座って腰痛がおさまるのを待っていたりとか、
本屋さんを出たら今度は抑うつの症状で動けなくなって、
ずっと駅前で立ってたりとか(笑)。
なんとか気分転換で繁華街に行くんだけど、
そこで何ができるかっていうと、何もできない……。
池田さん:
うーん……。
まぁでも、電車に乗っていけたっていう達成感はありました。
東藤:
たしかに。自分の行動範囲を広げられたっていう。

うつ病と認知症の介護

東藤:
明らかに普通じゃない感じで涙が止まらなくなって、
病院にいったら「うつ病」という診断になったんですか?
池田さん:
そうです。
東藤:
涙が止まらない以外に、
なにかうつっぽい症状はありましたか?
池田さん:
すごく眠くなってしまった。
とてもとても眠く。

眠いっていうか、だるくて起きていられない、
横になっていたい状態になりましたけれど、
姑がいるのでなかなかそうもいかない。
いつも中断されてしまう。
東藤:
どういう形で中断されるんですか?
池田さん:
寝ていると心配してくれて起こしにきて、
(強い口調で)「どう!?」と。
東藤:
それは静かに「どうしたの?」という感じではなく?
池田さん:
ドアを“どんどん!!”とノックして、
おぼんにリポビタンDを載せて……
東藤:
(大声で)「どうしたのーっ!!?」って?
池田さん:
そうそう(苦笑)。
東藤:
それは……大変ですね。
池田さん:
そうですね、いちいち起きて、
「大丈夫だから」と言っても、
認知症なのでまた忘れて、何回も何回も。
東藤:
なるほど、認知症だから忘れてしまい、一日何回も来てしまう。
だるくて横になっているっていうのは眠ってしまったりもするし、
眠ってはいない時も、動けないから横になっている、
ということですね?
池田さん:
そうそうそう!
よくわかりますね(笑)。
東藤:
経験があるので……(苦笑)。
食欲はどうでした?
池田さん:
なかったですね。
5キロぐらい痩せました。
東藤:
朝昼晩と、食事を3食摂ることはできましたか?
池田さん:
そうですね……朝と昼は簡単にさせてもらって、
夜だけはなんとか起きて作っていましたね。
朝は、夫と姑のために起きてパンを焼いて、
コーヒーを入れるぐらいにして、
自分はまた横になって寝て。
それまでは、朝も2品くらいつくって、
果物を用意したりもしていたんですけれど。
東藤:
それだけでも全力を使い果たして。
池田さん:
そうですね。それが精一杯。
なければないでまた大変になっちゃうから、
とりあえず最低限のことだけ。
東藤:
ないとどうなるんですか?
仮に朝起きてこなかったら。
池田さん:
夫は自分でコーヒー飲んで仕事に行くでしょうけど、
姑は、食べるものがなければ起こしに来るでしょうね。
「どうしたのー!? 具合が悪いのー!?」
と言ってくるでしょう。
東藤:
それもまた、大きな声で。
それを避けるためにもなんとか?
池田さん:
摩擦……うん、摩擦を避けるために、
なんとか食べ物をテーブルに置いて、また寝る。
東藤:
お昼ご飯もお姑さんのためにそうするんですか。
池田さん:
ええ、半分くらいの日は。
それ以外は、姑にはなるべく
デイサービスに行ってもらっていました。
東藤:
なるほど。
お姑さんを預かってくれるデイサービスを利用していたんですね。
池田さん:
はい。ですが、朝のデイサービスの送り出しも大変でした。
認知症のせいで、持っていく着替えの用意とかを
前の日にちゃんとしていても、朝全部変わってしまっていたり……。
東藤:
自分で荷物の中身を入れ替えてしまうということですか?
池田さん:
そうそう。
東藤:
で、また手伝って直してあげなきゃいけない。
池田さん:
それもあるし、大きな声で言わないとわからないし、
言ってもその時だけの理解で、すぐに忘れてしまうのでまた大変。
東藤:
何をお姑さんに大きな声で伝えるんですか?
池田さん:
そのときは、
「こうじゃないよ、正しいのはこっちだよ」っていうのを
伝えなきゃいけないって、一生懸命思っていたのね。
今、大勢の老人と接していて、
それはあまりよくないことかなと感じていますけど。
東藤:
なるほど。
池田さん:
荷物の中に下着が足りなかったり、
タオルが足りなかったりということは、
本人はわかっていないので実際は困らないんだけど(苦笑)、
当時は困るだろうと思って、
正しいことをしようと自分の中で思っていたの。
東藤:
はい。
池田さん:
その葛藤があって、実際は姑にはできないし、
逆に荷物を隠してしまったりするから、こっちもとてもイライラしていた。
東藤:
彼女のためにやっていることを彼女自身が乱してしまうので……
池田さん:
そう、理解してないから、疲れる。
私の中で、
「こうあるべき」「きちんと送り出すべき」
って考えてしまうから。
だからデイサービスを利用してたり、
1泊してもらえるショートステイも
いっぱい利用したんですけれども、
その送り出しのたびにとてもとてもエネルギーが必要になって、
じつはあまり休まってはいなかった。

東藤:
休むためのサービスで、
かえって疲れるイベントが発生していたんですね。
池田さん:
そうです。
あと、デイサービスとかに行ってもらう時に、
貴金属とかを持って行っちゃいけないっていうルールがあるので、
身体検査のように、指輪を外したり、お金を持っていないか
確認しないといけないんです。
さらに、持っていく衣類、
着ている衣類の枚数のチェックが必要だったので……。
東藤:
事前に記入して、持っていくものと合ってるかどうか
付き合わせるイメージですか?
池田さん:
そうそう。
ただ、着ているものは口で言っていることと
着ている枚数、種類は全く違うので……
東藤:
いちいちこっちで確認してあげないといけない。
池田さん:
そうなの。
で、本人は着ている服の数を調べられるのを
恥ずかしいと思っていて抵抗があって、
なかなかそこの意思疎通がうまくいかず、
すごくストレスでしたね。
東藤:
「認知症だからお金を持って行っちゃいけない」
っていうルールのところも理解できないので、
どうしても持っていこうとしてしまうし。
池田さん:
そうそう。認知症だけど瞬間、瞬間に頭は回るので
いろんなところに隠してもっていこうとするから……
東藤:
うん、でこちらは発見しなきゃいけないってことで、
余計労力がかかる。
池田さん:
そうなんです。
東藤:
うつ病が発症してからもそういう日々だったっていうことですよね。
池田さん:
はい。ときどき主人が叱ってくれたり、諭してくれたりして、
姑は、その時はわかったって言うんですけれども、
病気のせいですぐ忘れてしまうので、日々の行動は全く変わらない。
東藤:
ご主人はサポートをしてくれているけれど、
日々実際にかかってしまう負担は
池田さんに来てしまうことが多かった、という感じですね?
池田さん:
そうそう。うまくまとめていただいて(笑)。
東藤:
結局、うつ病になったきっかけは口論だったけど、
そもそも一番のストレス要因である「介護」は続いている状態で、
むしろうつになったまま介護を続けるという
ひどい状態のように感じてしまいます。

うつ病と家事

東藤:
うつ病になったっていうことは、
周囲の人やご家族には言っていたんですか?
池田さん:
主人には言いました。
ただ、私は主婦だから日々家事がついてまわるので、
完全に寝たきりになることはできないと、
自分の中でも葛藤していたんです。
東藤:
掃除や洗濯という、食事以外の家事の部分は?
池田さん:
夫が出勤したあと自分も朝ごはんを食べて姑を送り出し、
ちょっと横になったあとに、なんとか。
東藤:
なんとか一通りをやっていた?
池田さん:
うーん、最低限ですね。
とくにお掃除はしたくなかったです。
以前は毎日していましたが、うつ病になってからは週3ぐらいですね。
東藤:
半分ぐらいに減らした。
池田さん:
うん。やりたいけどやれないのよ。
東藤:
そうですね、うつ病ってそういうものですから。
池田さん:
洗濯も本当に、2日に1回ぐらい。
東藤:
毎日していたのを、半分にまとめて。
池田さん:
はい。乾燥機があるから干さなくてもなんとかなりました。
これは本当によかった。

あと献立が大変でした。
「今日はなにを作ろうか」ということには頭が回らない。
東藤:
献立は難しそうです。
池田さん:
買い物がね……。
物事を組み立てていく、献立を考えて、材料を買ってきて、
手順よく作って、食器を用意して、食卓に出す
という一連の流れはやはり頭を使うし、気持ちもとても使うので。
東藤:
とても疲れる作業ですよね、とくにうつ病のときには。
池田さん:
疲れます。
めいっぱい考えて考えて、
やっとお魚を焼いたのとご飯とおひたしぐらいしかできない。

東藤:
うん、順序立てて組み立てて
ゴールから逆算して行動するっていうのは、
考えるだけでもいっぱいいっぱい。
池田さん:
もう、頭が痛くなってしまうんです。
東藤:
買い物に行くのも大変ですよね。
池田さん:
買い物も、もうひとりの自分が、
私の体を引きずっていくような感覚で、やっと……。
東藤:
気力でなんとか重い体を引きずって買い物に行って。
池田さん:
だいたい同じパターンで買っていました。
バラエティ豊かな買い物ができないんです。
東藤:
必需品と、だいたいいつもの献立のものを買って。
池田さん:
そう。いつものものと、焼くためのお魚と、ぐらいしか
考えが浮かばない。料理の本なんか見たくもないし。
東藤:
活字が読めないですよね、そもそも。



(回復に向かう後編につづきます)

プロフィール

東藤泰宏(とうどう・やすひろ)
1981年生まれ。
IT業界で働くうち、過労のためにうつ病となる。
1年半のうつ病ニート時代を経て「ゆううつ部」(ブログ)を開設。
2011年にスカイライト社主催の「起業チャレンジ2011」で最優秀賞を獲得。
その賞金300万円で起業。仲間を集め、2012年1月にU2plusを公開。
新たな資金調達にも成功したが、まだ絶賛うつ病中。

「みんなでうつの予防&回復をする認知行動療法サイト」U2plus
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