ゆううつ部部長のOB訪問 東藤泰宏 イラスト:ヨシムラマリ

第6回前編 38歳男性適応障害併発会社員

今回お話を伺ったのは、
上司とのコミュニケーションがうまくいかず、
適応障害とうつ状態を併発してしまった小日向さん。
リワーク施設に通う中で、
自分なりの症状とのつき合いかたを
見つけていったそうです。
通われた施設のプログラム内容や、
「自分は本当にうつなのか……」
と思ってしまう葛藤についても
お話を聞かせていただきました。

小日向さん
小日向さん
・年齢:38歳
・職業:会社員
・うつ歴:1年ちょっと
・がっちり、短髪、細目
・リワーク施設に通う
・思慮深そう
・妻子あり
・適応障害併発

※本連載ではプライバシーを守るため、名前はすべて仮名とさせていただいております。

東藤:
いま、お仕事は何をされているんですか?
小日向さん:
わたしはいま、
航空機器の研究をされているメーカーを
サポートする企業に勤めています。
色々な部品とか機械を扱っている会社です。

自分は研究室で修士まで卒業した流れで、
今の企業に入ったんですけれども、
最初に入ったときは研究室で使っていたような
テクノロジーに関連した製品を担当していました。

入社後しばらくは、その技術の営業担当として、
お客さんのところに行ったり、
社内で製品評価をしたりしていました。
東藤:
営業に?
小日向さん:
営業といっても「技術営業」というもので、
いわゆる一般的な営業部の者と一緒に
お客さんのところにうかがうんです。
それで、お客さんに技術自体の説明をしたりとか、
こういう風にお役に立てるんじゃないかっていう
提案をしたりしていました。
東藤:
なるほど。ちなみにお客さんって、どういう方なんですか?
小日向さん:
大学の研究者や、研究施設を持つ大きなメーカーの方々です。
しばらくはその部署で、大学で学んだ専門分野を
活かしつつやっていました。

小日向さん:
ですがある日部署が変わって、「営業推進サポート部」という、
それまでの仕事とはまったく関係がない仕事になりました。
東藤:
大きく環境がかわりましたね。
小日向さん:
はい。
はじめは用語などもまったくわからなかったんですが、
徐々に勉強していきました。
専門的な知識は足りていないながら、
仕事自体は結構楽しく感じられていて、
精力的に働いていました。

でも、2年ぐらい経ったときに
部長のさらに上司に当たる人が代わって、
仕事のやり方などが一変しました。
それまではわりと個人の裁量に任されて
自由にやれていたんですけど、
少し厳しいマネジメントになり、
一個一個承認を取らないと進められなくなったんです。
そういうやり方に変わった直後に、
今度は直属の部長も変わって。
東藤:
直属の上司が変わり、その上の上司も変わり、
仕事のやり方が全部変わった。
小日向さん:
はい。
仕事の内容は変わらなかったんですけど、
新しい上司とコミュニケーションがうまくいかなくなってきて
「おや?」と感じました。
ほどなく仕事でのパフォーマンスが落ちていったのが、
自分でもわかりました。
それまでの2年間ぐらいは、
よい評価も得られていたんですけど。
東藤:
コミュニケーションがうまくいかないっていうのは、
仕事を進める上での業務上のやりとりですか?
小日向さん:
うーん、期待と成果物がずれている……というのでしょうか。
わたしが良かれと思ってやっていることが、
上司には受け入れられませんでした。
東藤:
成果物がずれるのはたしかに問題ですね。
そこでうまく修正ができなかったと。
小日向さん:
最初はどうだったのかあまり思い出せないんですけど、
そういう小さなズレを積み重ねていくことで
苦手意識が芽生えてしまい、
無意識に上司とコミュニケーションを
避けるようになってしまったのかもしれません。
東藤:
最初の、業務上のコミュニケーションのズレから、
人間関係のコミュニケーションのズレにうつってしまったんですかね。
小日向さん:
そうですね。
別に嫌いなわけじゃないし、
話し合う時間も結構とっていただいたりもするんですけど、
結局解決しなくって。
東藤:
その話し合いの焦点は、どういったことが問題になるんですか?
小日向さん:
う~ん……。
具体的に何を話したかは覚えていないのですが、
その話し合いの中でも、
上司からはわたしを否定するような言葉が多かったりするので、
解決のための話し合いなのに、
かえってつらくなってしまった部分もあったような気がします。
「話し合いが増えると、否定される機会も増える」
という悪循環になりました。
東藤:
その結果徐々にディスコミュニケーションが増えていって……
ということですね。
昔の職場で、他の部署なんですが、
何かと「いやなら会社をやめろ」という言葉をつけて
指示を出すマネージャーがいたんですね。
関係ないぼくですら、聞いていてつらかったです。
小日向さんのお話を伺っていて、
それに近いところもあるのかなって感じがしました。
小日向さん:
そうですね。
そこまできつくはありませんが、
ちょっと近い感じがします。

結局それで仕事にも影響が出てしまって、
そのあと3年ぐらい、ずっと低空飛行だったんです。
東藤:
それはつらいですね。
3か月ぐらいだったらまだ
「しんどい時期があった」ぐらいに思える気がしますけど、
3年続くと終わりが見えず、
「このままあと10年以上続くのかな」
と思ってしまいますよね。
小日向さん:
そうですね。
もう、本当に、未来っていうのがないように思えました。
東藤:
これが永遠に続くのかなっていう感じですよね。
小日向さん:
そうは言っても、
この会社を出たところで、
たとえば転職して同業他社にいったとしても、
そこで働ける自信はまったくなくて……。
東藤:
その自信がなかったのはなぜですか?
小日向さん:
それはやっぱり、
いまの職場で会社に貢献できていないと、
強く感じていたからですね。
東藤:
もしかしたら、すでに抑うつ状態だったのかもしれないですね。
一時的ではなくて、3年間、仕事のパフォーマンスが
自分でわかる形で落ちているというのは。

発症の引き金

小日向さん:
つらい、というのは感じていたのですが、
そうはいっても生活があるし、
何とか踏ん張って会社に行っていたんです。
それがある日、
「もうきついな、精神科に行こう」
と思った出来事がありました。
東藤:
発症の引き金となった出来事ですね。
小日向さん:
その上司からはつねづね、
勤務時間中の私用メールは全面的に禁止されていたんです。
とはいえ、仕事仲間や取引先の方と仕事以外の話で
盛り上がってしまうこともありましたし、
どこまでが「私用」なのかも曖昧なので、
とくに意識せずに過ごしていたんですね。

それがある日、同僚との、
業務に直接関係のないメールのやりとりが
明るみに出てしまいまして……。

部署の人がみんな見ているなかで、
人格を否定されるような言葉を使って怒られたんです。
実際にどれぐらいの時間言われ続けたのかはわかりませんが、
自分にとっては何時間にも感じられました。
ときに、もうダメだなと思って。
東藤:
それはショッキングな出来事ですね。
でも、そもそもどうして業務以外の内容の
やりとりをしてしまったんですか?
小日向さん:
わたしが仕事をつらそうにやっている様子を
見ていた同僚が気を遣って、
慰めや励ましのメールをくれることがときどきあったんです。
その返事で、多少愚痴っぽいことも書いてしまいまして……。
東藤:
それは見られたくないですね。
同僚にも迷惑をかけてしまいかねない。
それに、周りの人も聞いているところで
見せしめのように怒られるというのは、
光景として、いたたまれないですよね。
そのあいだ、脈拍がすごく早くなりそうです。

小日向さん:
いま思えば、
そのときすでにうつ状態がひどかった気がしますが、
この件がトリガーになったと思います。
その後、精神科に行って、
「適応障害とうつ状態」と診断されました。

▲適応障害とは
生活や環境のストレスに適応できず、身体や心にさまざまな症状があらわれて、社会生活がむずかしくなるという、心の病気です。症状の例としては、朝起きる事ができなくなる、デスクに向かうと吐き気がしてしまう、心臓が苦しくなる、など。そのもっとも多いきっかけは、人間関係だと言われています。また、背景にうつ病やほかの精神疾患が存在する可能性もあります。

小日向さん:
それで、薬が出たのですが、
飲み始めたら合わなかったのか、
胃がムカムカして気持ち悪くなっちゃって……。
東藤:
副作用、強い薬もありますよね。
小日向さん:
出勤するときに、駅のエスカレーターで嘔吐してしまったんですね。
頭もボーッとするし。
それで上司から休めと言われて。
ではまず休んでみます、ということで。
東藤:
病院に行って、処方してもらった薬が合わず、
上司からの提案で休職がスタートしたんですね。
それまでに、うつっぽい症状っていうのは、
仕事のパフォーマンス面以外では……?
小日向さん:
ぼくは頭が痛くなりましたね。
頭が痛くなって、会社に行けなくなって休んじゃったりとか。
最初は月1,2だったけれども、
それが毎週のように休むようになりました。
とくに月曜日はどうしても行けない日が多くなってしまい、
調子が悪いと週半ばまで出勤できないこともありました。
東藤:
出退勤がどんどん乱れていっちゃうんですね。
メンタルヘルスに問題を抱えているときのサインの1つです。
うつ病になる前と比べて、できなくなったことってありますか?
小日向さん:
奥さんは、
「会話のペースがすごく遅い」とか、
「質問して回答するまでにすごく時間がかかる」
とよく心配していましたね。
東藤:
抑うつ状態の時、たしかにそういう症状ありますね!
小日向さん:
基本的に頭が働いてないんです。
あと集中力もない。
たとえば資料を作るのに、
40分したら見せてって言われた時に、
ほとんどその40分で何も進まなかったりとか。
東藤:
うん、それはうつか適応障害が始まってますね(苦笑)。
それは、休職前から?
小日向さん:
それは、病院にいくちょっと前からです。
東藤:
早く休んでくださいよ、そこで粘らないで(苦笑)。
仕事になっていなかったと思いますよ、たぶん。
小日向さん:
今ふりかえると、まったくなっていなかったですね。
東藤:
ですよね。
周囲の方々も、以前と比べて全く集中できていないとか、
応答のタイミングがずれているなどの症状が明らかになっていたら、
「これはメンタルヘルスの問題だな」と
教養として知っておいてほしいなと思います。
そこは励ましとかコミュニケーションで回復するところではないので。
ところで、睡眠はどうでした?
小日向さん:
睡眠はどちらかというとよけいに寝ちゃう感じですね。
東藤:
休職中のぼくもそうでした。とにかく寝て一日が終わってしまう。
小日向さん:
休職後、強い不安感はずっとありましたけど、
生活リズムは落ちつきました。
子どもが学校に通っているので、
朝の送り出しをずっとやっていたんです。
だから、7時ぐらいには起きていて。
東藤:
ルーティンのお仕事によって生活リズムができていたんですね。
今までお話を伺った方だと、
寝たきりになってベッドから出られない人が
ほとんどだったので、それができたのはよかったです。
ほかになにか、うつの症状と思われる身体症状はありましたか?
小日向さん:
そうですね……とにかく頭痛が一番で、
あとは起きれなくなったり、眠気が強くなってしまったりしました。
東藤:
ぼくが再発して会社に行けなくなった時と一緒です。
小日向さん:
そうなんですか。なんだか心強いです(笑)。
東藤:
朝、どうしても支度ができないので職場に
「すみません、昼までには行きます」と連絡して、
昼に目を覚ましても支度ができなくて
「夕方までには行きます」と伝えて、
それでも無理で「すみません、休ませていただきます」
という日々を(苦笑)。
何もできずに、日が暮れて部屋が暗くなっていく
やるせなさは未だに忘れられません。
小日向さん:
わかります。
東藤:
どうしても自分にしかできない仕事があるときは、
夜の10時くらいに会社へ行って、
だれもいないオフィスで仕事を30分だけして、
帰るっていう(苦笑)。
小日向さん:
行くのがすごいですね。
東藤:
もうみんなごめん!
自分がほんとにいやだ!
っていつも思ってました。
小日向さん:
そう、そうなんです。そんな感じでした。

うつ病リワーク施設との出会い

小日向さん:
休職してしばらくしてから、
人事の人と話をしたんですけど、
はっきりとは言わなかったですが、
自主退職を勧められて。
ずっと働いてきた会社で、
それはちょっと、わたしとしては受けられないと。
東藤:
3年間の低空飛行を経て……
お子さんもいますし、小日向さんには受けにくいですよね。
小日向さん:
そのときに、どうしようかな、と、
今後の生活や経済面の危機感や焦りがすごい強くなって。
どこか強制的に通ったりできて、
生活リズムを取り戻せるところはないかと思っていたところ、
「リワーク施設」というものがあることを知りました。
東藤:
どうやってリワーク施設の存在を知ったんですか?
小日向さん:
ぼくの奥さんの同僚で、
うつを経験をされた方がいて、
その方からの情報で。
東藤:
なるほど、奥さん経由で。
小日向さん:
あとは、東藤さんのU2plusの記事を見たり(笑)。
東藤:
ありがとうございます(笑)。
小日向さん:
その記事を読んだのが、
リワークに行こうかと考えていたタイミングと
ぴったり合ったんです。
東藤:
生活と仕事が、このままじゃまずいなって思う時期と、
そろそろリワークを考えようかなっていう時期とが。
小日向さん:
「退職」までにおわされてしまったので、
なんとかしなきゃいけないなという一心でした。
かかりつけの先生からは
「認知行動療法」のおすすめをされていて、
精神科医の先生が書いた本も読んだんですけど、
正直よくわからなくて。

▲認知行動療法とは
 日本、イギリスやアメリカなどの医療先進国で「うつ病といえば認知行動療法!」と言われるほど、うつ病治療のために最も多く選ばれている心理療法です。効果が医学的に証明されていて、抗うつ薬と同じかそれ以上の効果があるといわれています。
 うつ状態だと事実をネガティブにとらえてしまいがちです。そして、このような「考え方」を抱きつづけると、気分はさらに落ち込み、大きな絶望感に長く悩まされます。
 認知行動療法は、同じ状況に対して別の見方を探して、少しでも、「考え方」を柔らかくし、物事を色々な角度から捉えられるようになることを目指します。カウンセリング、本、インターネットで行う事ができます。

小日向さん:
説明を読むと「なるほどね」っていう感じではあったんですけど、
ちょっと1人ではやる気にはならなくて。
で、記事にあったリワーク施設に体験しに行きました。
そこでは認知行動療法プログラムに含まれていたので、
ちょうどよかったんです。
あと「うちは負荷かけますよ」と言われたのも、
その施設を選んだ理由として大きかったです。
わたしはうつの中でも症状が軽い方だと思っていたので、
ここにしようと決めました。




(リワーク施設での様子、回復していく過程を語る後編につづきます!)

プロフィール

東藤泰宏(とうどう・やすひろ)
1981年生まれ。
IT業界で働くうち、過労のためにうつ病となる。
1年半のうつ病ニート時代を経て「ゆううつ部」(ブログ)を開設。
2011年にスカイライト社主催の「起業チャレンジ2011」で最優秀賞を獲得。
その賞金300万円で起業。仲間を集め、2012年1月にU2plusを公開。
新たな資金調達にも成功したが、まだ絶賛うつ病中。

「みんなでうつの予防&回復をする認知行動療法サイト」U2plus
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・ とうどうTwitterアカウント @toudou_U2plus
・ イラストレーター:ヨシムラマリ Twitter @coromegane
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