ゆううつ部部長のOB訪問 東藤泰宏 イラスト:ヨシムラマリ

第1回後編 33歳男性コンサルタント

コンサルタントとして参加する新たなプロジェクトが合わず、
過労や職場環境からうつ病になってしまった昌弘さん。
会社の復職プログラムを利用して、少しずつ再び働き始めたのですが、
頭がボーッとして簡単な仕事にも時間がかかってしまい、自信を失ってしまったそうです。
復職してからの方が、将来への不安が強まってしまったそうですが……。
この状態から、どうやって回復していったのでしょうか。

昌弘さん
昌弘さん
・年齢:33歳
・職業:コンサルタント
・うつ歴:約3年半
・身長:180cmちょっと
・「できるビジネスパーソン」風
・ちょい悪タフガイ
・新婚さん

※本連載ではプライバシーを守るため、名前はすべて仮名とさせていただいております。

どうやって回復していったか

東藤:
なるほど。
で、その大変な状況からどうやって元気になっていったか、
というところをお訊きしたいのですが!
昌弘さん:
実は復職してからも、ずーっと体調は良くならなかったんです。
東藤:
通勤はできるけど、仕事ができるほどは回復していなかったんですね。
熱は下がったけど、まだ37度以上はある感じ。
昌弘さん:
パソコンの操作がやたらと重いときがありますよね?
なかなか起動しなかったり、クリックしても動いてくれなかったり。
あんな感じです。
だから、まともな仕事はできず、資料を整えたり、
ちょっとしたお手伝いをする復職訓練みたいな時期がだいぶ続きました。
ちゃんとしたプロジェクトにも入れない日々が、
そこからもう1年半くらい続いたんですね。
東藤:
1年半ですか。長かったんですね。社内の目も気になるかもしれませんね。
昌弘さん:
長かった。出社訓練……
「ちゃんと会社に行ける、正しい生活リズムが送れる」
という状況をなんとかつくるっていう期間が精神的には一番つらくて。
社内で同僚たちがしっかりと自分の仕事をしているのに、
自分はいつまでたっても貢献できていない……
自信がどんどんなくなりました。
東藤:
それはつらいですね。
昌弘さん:
あれ、全然良くなんないじゃん、と。
医師からは「だいぶ回復してますよ」とは言われつつも、
ずーっと寝起きのボケっとした頭のままで働いているような……
たいした仕事じゃないのに時間かかっちゃうし。
このままではコンサルタントの仕事は続けられないんじゃないか、
そもそもできる職業があるのかと思って、
将来の不安というのがすごく出てきました。

東藤:
復職してから将来への不安が生まれたんですね。
昌弘さん:
「復職したら以前のように働けるだろう」と思っていたけど、
全然そうじゃなかった。
かといって、
「以前と同じように仕事ができるようになるにはどうするか」
というのは医師も答えを持っていないんです。
症状をよくするお薬をだしてくれるだけなので。
東藤:
では、そこからどうやって回復していかれたのでしょうか。
昌弘さん:
今振り返ると、将来の不安とか、仕事への不安っていうのを、
考えないでいい時間をつくれていたからだと思います。
東藤:
それはとてもいいですね!
うつ病のときによくあるのは、
24時間不安になっていて、
ますますコンディションが悪くなるサイクルじゃないでしょうか。
昌弘さん:
まったく気にせずに、楽しむ時間をつくること。
東藤:
不安から離れられる時間がちゃんとつくれてた。
それはすごい大事で、でもなかなかできないことな気がします。

どんなことがよかったのか。

東藤:
「不安を感じない時間をつくる」ために具体的にどんなことをしていたんですか?
昌弘さん:
ちょっといい自転車を買って、たまに乗りはじめました。
ちょっとずつアクティブな時間がつくれてから、
だんだんと良い方向に向かったのかなと思います。
「今度はもう少し、遠くまで行ってみようかな」なんて。
東藤:
自転車はすごく良いかもしれないですね。
有酸素運動はうつ病によいと言われていますし、
自転車だとジョギングに比べて体力の負荷も低いですからね。
すぐ乗れるし、疲れたらすぐ帰れる。
お散歩もいいですけど。
昌弘さん:
はい。自転車は散歩より何よりこう……
気持ち良さがあるから。
東藤:
あー、気持ちいいですよね、自転車は!
昌弘さん:
下り坂だと、「いま俺は風になってる!」みたいな(笑)。
あとは好きなアーティストのライブに行ったりしました。
東藤:
ライブだと体力的につらくはなかったですか?
人混みで長時間立っているのは回復しかけているとはいえ、
厳しいと思うのですが。
ぼくはまだ無理です。
昌弘さん:
そこはもう諦めて、疲れたら途中でさっと帰っちゃうんです。
でも、「あ、外のイベントにも行けるんだ」ってことが
わかったことがうれしかったですね。
とはいえ楽しんでいるんだけど、
ライブ中はずっとうつ病の影響で無表情でした……。
東藤:
あはは!
顔で表現できるほどは回復してない(笑)。
ちょい悪なタフガイが無表情でステージを凝視している!
昌弘さん:
盛り上がってる会場で、1人しかめっ面の男がいてね。
アーティストやスタッフからしたら、
「なんだあいつは?」「ライバルレコード会社の人間か!?」みたいな(笑)。

復職期間がはじまってから1年半で、
ようやくふつうの勤務時間になりました。
社内の仕事でちゃんとした定時勤務になって
2~3ヶ月経った後、ようやくプロジェクトに任命されました。
東藤:
社外のクライアントがつく、本来の仕事ということですね。
昌弘さん:
はい。自分が売上げもつくれる状態です。
でもまたひどかったのが、入っていきなり1ヶ月半で
620時間働かされたのね。
東藤:
それは普通の人がうつ病になるレベル(笑)。
昌弘さん:
偶然なんだけど自分が
「大得意! 任せてくれ!」
という分野のプロジェクトだったから、
そこでがんばれたんだよね。
活躍ができた。
東藤:
なるほど!
体力的に回復してきたあとで、
仕事に対して大きな自信をつけることができた!
昌弘さん:
大変な仕事でも、自分がしっかりと活躍できているというのが実感できました。
それがすごいプラスに働いて。
「長時間労働も耐えられる」
「会社にも貢献できる」
「自分はがんばれる」
っていうことが完全な自信になりました。
東藤:
うつから回復して、またコンサルタントとして、
プロジェクトをしっかりやれるという自信ですね。
昌弘さん:
はい。それに長時間労働のせいで医者にも行けず、
その結果薬をまったく飲まなくなっちゃいました。
東藤:
一般的にはそれは非常によろしくない事ですよ……!

 うつ病の薬は、徐々に量を増やしていって、「十分な効果がでたな」というところで処方される量が決まります。そして「回復したかな?」という状態になっても、結構長い間、同じ量を服用し続けます。
薬を減らすときは、「再発の可能性も低いし、もう大丈夫」となって少しづつ様子を見ながら。
 いきなり服薬をやめてしまうと、反動でふらふらになったり、うつ状態が悪化したりするのでよろしくないはず……というのがぼくの理解です。
 たまに「薬をやめたら治った」という人もいます。しかしギャンブルっぽいのでオススメはできません。

昌弘さん:
薬がない状態で仕事しなきゃならなくて、でも、やりきれたのね。
東藤:
はい。
昌弘さん:
それでプロジェクトが一段落したあとに病院に行きました。
医師に「すいません来れなくて。でも、もう大丈夫です」って伝えに。
それでは薬飲んでなくて2~3ヶ月経っちゃったから、
そのままの状態を続けてみて、2ヶ月後に来てくださいと。
東藤:
それは再発しないかというチェックのためにですね。
昌弘さん:
はい。それで2ヶ月後くらいに行って、
「やっぱり平気です」と。
そこで晴れて、もう受診も薬もなしで大丈夫ですと言われました。
東藤:
お医者さんからもお墨付きをいただいたんですね。
昌弘さん:
お墨付きになりました。
東藤:
素晴らしい、そして羨ましい(笑)。

昌弘さん:
やっぱり達成感とか、自信っていうのはすごい大切かなって思います。
東藤:
そうですね。
うつ病になると、自分を信じる感情が出ないという症状があり、
かつ達成感を得るようなシチュエーションもなくなります。
昌弘さん:
はい。
東藤:
人から何かを任されることも減ります。
任されるとつらいですけど。
昌弘さん:
自分が治ったなって実感したのも、
実は活躍できているっていう実感があったから。
東藤:
そうですね。
昌弘さん:
うつでつらかったときって
「どうやったら治るのか」「何をもって治ったっていうのか」
がわからなくて。
このよくわからない不安感とずっと戦うのかなって恐れていました。
ところが新しいプロジェクトで自分が活躍できているときには
まったくそういう不安もなく、
「そういえば、俺、うつ病だったな」って状況だった。
東藤:
実感が先にきたんですね。すごいなあ。

いまの生活はどうか

東藤:
今はもう、うつ病は回復されていると聞いています。
昌弘さん:
はい。回復したと医者に言われて、1年と3~4ヶ月になります。
東藤:
すごいですね。
うつ病は回復したあとも、半年以内に再発するケースが多いと言われているので、
その時期はもう超えているんですね。
昌弘さん:
はい。その後もうつっぽい状況にはなってないですよ。
東藤:
その後も、診察はしてないし、薬も飲んでないんですよね。
仕事とかでも、もう普通にバリバリと働けていますか?
昌弘さん:
バリバリ!
東藤:
それはすごいですね。
プライベートでも、寝すぎちゃったりとか、
あるいは寝られなかったりということはありませんか?
昌弘さん:
意識してたっぷりと寝ることはあるけど、
意図せずに寝すぎちゃうことはないですね。
東藤:
それはいいですね。
昌弘さん:
寝ようと思ったらすぐに寝入っちゃう感じですね。
東藤:
「よく食べて、すぐ寝る」。
まだ睡眠がうまくいっていないぼくは羨ましいくらい。
うつ病になる前と同じ生活に戻っている感じですか?
昌弘さん:
戻ってる……でも、体重は戻ってないですね(笑)。
東藤:
(笑)。
あ、体重は増加したんですね?
昌弘さん:
体重のピーク時からは5キロぐらい落ちたけど、
まだ戻りきってないですね。
そればっかりはまだちょっと難しい(笑)。

 うつ病のお薬のなかには、太りやすくなるものもあるのです。ぼくも以前より10キロくらい太りました。
 しかもうつ病だと運動する体力がないのでダイエットが難しい……。
 とはいえ、太るから薬を飲むのをやめるよりも、うつ病をよくしてからダイエットした方がかえって早道かもしれないですね。

今うつな人たちへ

昌弘さん:
長かったなとは思うものの、
世の中にいっぱいいるうつ病の患者さんたちに比べたら、
幸せなうつ生活だった気がする。
東藤:
「幸せなうつ生活」(笑)。
昌弘さん:
会社も辞めなくて良かったし、
結婚もしたし、
っていう状況で、
3年半かかったけど、3年半で終わらせられたから。
そんな簡単にすぐ治る病気じゃないと思うので……
世の中には10年経っても治らない人もいっぱいいるから。
東藤:
はい。
会社を辞めざるをえなかった人も、
長くうつ病に苦しんでいる方も、
ぼくの周囲にたくさんいます。
昌弘さん:
今振り返ると、病気になったことで、
へこんでいる人に対する接し方とか、
メンタルケアを含めたマネジメントをするにはどうすればいいかとか、
そういうことまで考えられるようになりました。
マイナス面は非常に多かったものの、
結果プラス面がなかったといえばそうじゃなくて、
自分の幅が広がったとかいう部分があったかなって。
まぁ今となっては、ですけど。
東藤:
うつ病になった期間が、3年半。
で、昌弘さんは何歳まで生きる予定ですか?
昌弘さん:
生きる予定?
70歳くらいかな。
東藤:
じゃあ、その3年半の経験を活かせるのが
あと40年くらいありますね。
昌弘さん:
そうですね。まだ30代ですから。
東藤:
なきゃない方がいいものですけど、
回復できるのであれば悪くはない気も、
ほんのちょっとだけしますね。
残り40年、その周りの方への優しさをぜひ発揮し続けてください。
今後はさらに仕事と、奥様とのデートを充実させてください。
奥様とはよくデートしていますか?
昌弘さん:
はい。
土曜日が仕事なので、
日曜日は必ずどこかに行くようにしてますね。
東藤:
それは素晴らしい。うらやましい。
では、今日はありがとうございました。

プロフィール

東藤泰宏(とうどう・やすひろ)
1981年生まれ。
IT業界で働くうち、過労のためにうつ病となる。
1年半のうつ病ニート時代を経て「ゆううつ部」(ブログ)を開設。
2011年にスカイライト社主催の「起業チャレンジ2011」で最優秀賞を獲得。
その賞金300万円で起業。仲間を集め、2012年1月にU2plusを公開。
新たな資金調達にも成功したが、まだ絶賛うつ病中。

「みんなでうつの予防&回復をする認知行動療法サイト」U2plus
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・ とうどうTwitterアカウント @toudou_U2plus
・ イラストレーター:ヨシムラマリ Twitter @coromegane
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