小川 糸インタビュー

 2年ぶりとなる新作長編『リボン』は、鳥が大好きな小川糸さんが満を持して描いた、
一羽のオカメインコを軸とする物語。
「asta*」での連載に、大幅に加筆しての刊行です。
 今回は同時に『リボン』から生まれたもうひとつの物語『つばさのおくりもの』も刊行となります。

これらの作品について小川さんにお話を聞きました。

撮影 土居麻紀子

ずっと書きたかった物語

――この物語については、かなり前から書きたいと思っていたと伺っています。
小川 『食堂かたつむり』を出せることになってその準備をしていた頃なので、7、8年前ぐらいです。もやもやと、一羽の鳥がいろんな人を結びつけていくお話を書きたいというのがありました。
 いろんな人が出てきて、あるときは深くかかわったり、あるときは一瞬すれ違ったりというのを、自由自在に、短いのもあれば長いのもある、という風に書きたいと思っていました。
――それはかなり今のものと近いですね。
小川 はい。イメージした通りです。
――そもそも一羽の鳥を中心にするイメージだったのはなぜですか?
小川 私自身が、子どもの頃にいろんな鳥を飼っていたんです。飛んでいってしまった鳥を探すために、絵を描いて近所に貼りいったこともあります。オカメインコも祖母と一緒に育てていて。鳥を間にはさんだ、おばあちゃんと女の子の話をもとにしたいというのは最初の段階からありました。
――小川さんの作品には、おばあさんがよく出てきますね。
小川 そうですね。両親が共働きだったこともあって、子どもの頃は祖母と過ごす時間が長かったんです。祖母のことも大好きでしたし、おばあちゃんという存在自体が好きです。
――この作品のすみれちゃんというおばあさんもとてもチャーミングですね。
小川 私の出会ったいろんなかわいい年配の女性が混ざっている感じです。

鳥の寿命の長さには驚き

――ところで、鳥が何十年も生きるというのは初めて知ったのですが、はじめから鳥が長生きだとご存じだったんですか?
小川 知らなかったです。
――じゃあもし鳥が長生きじゃなかったら、もっと短いスパンのお話になったかもしれないんですね?
小川 そうです。オカメインコで普通に20年生きるというのは想像していなくて。もっと短いのかと思っていました。
――なんとなく、長くて5、6年かな、というイメージですものね。
小川 そうそう。大きい犬で10年ぐらいだと聞いていて。だから、あんなに小さくて軽いのに、そんなに長く生きるというのには驚きました。ヨウムだと平均寿命が50年で、もっとずっと長生きするのもいるそうですし。でもそれだけ生きればやっぱりいろんなことがあるだろうし、生きていくなかでお別れとか出会いとかいろいろあるだろうなと思ったんです。
――それだけ長いとずっと一人の人が飼い続けるというのも大変そうですよね。
小川 そう思います。自由に飛んでいけるので、逃げちゃうこともあるでしょうし、そうなると行動範囲が広いですから。いろいろあるんだろうな、って。

鳥ならではの繋がり方

――実家に自分で名前を名乗るインコが飛び込んできたことがあったんですが、まさにそんな感じですね。
小川 去年あたりのニュースでも、飼い主さんが鳥に住所を覚えさせていたから、それを元に家に戻れたっていうのがありましたよね。それもやっぱり鳥じゃないとなかなかないことですね。犬や猫は自分では言えませんから。人と独特のコミュニケーションが取れるというか、そこにつながりが生まれてくるんだろうと思います。
――犬や猫の賢さとはまた違う賢さをもってるんだなって思いますね。
小川 そうですね。取材のために鳥の保護施設の「とり村」にお邪魔したときも、ヨウムは「オウム返し」じゃなく、ちゃんと人と会話を交わすことができるって伺って、すごいなあ、と思って。
――別の種類の鳥の子どもをからかったりするんだそうですね。

小川 一緒にいると本当に頭がいいんだってわかりました。本には、鳥には表情がないと書いてありますが、改めて接して、けっこう表情もあると思いました。動きで訴えてくるものもありますし。それに同じオカメインコでも、それぞれに性格が違って、いろんな子がいて。よくコンパニオンバードって言いますが、まさにそんな感じなんだなって思いました。
――そういう魅力もあますところなく書かれていますね。出会った人々それぞれと関係が結ばれていって。
小川 イメージどおりに書けました。今回はたっぷり時間をとって取り組めたので、それもよかったです。
――途中、部分的に「asta*」で連載もしていただきました。
小川 そういう意味では、一冊目が出てからやっと5年たって、自分にとって理想的な形で進められたかなと思っています。

こうありたいと思う人

――GURIPOPOさんの絵も素敵ですね。
小川 連載のときも毎回どんな絵を描いてくださるか楽しみで、こんな形でまた別の1冊としてまとめられるのが本当に嬉しいと思ってます。
――思い入れのある登場人物は誰ですか?
小川 まずはすみれちゃんですね。すみれちゃんは、つらいことも悲しいこともあったと思うんですけど、いろんなことを乗り越えて、最終的に穏やかにやさしく人に接することができるんですよね。そういう人は魅力的だと思います。それから、途中で登場する美歩子先生のまっすぐな、凛とした貫き方。どちらもおばあさんですけど全然違って、でもどちらにも惹かれますし、こうありたいなという部分があります。
――この作品では、人と人、人と鳥の両方の絆が書かれていますね。
小川 オカメインコのリボン自身はただ生きているだけで、誰かと誰かを結びつけようとか、誰かの役に立とうとか、思ってないと思うんですけど、でもやっぱりただいるだけで人を結んでいったり、勇気づけたりしていっているんです。それはたぶん人も一緒で、それぞれがリボンの役目を果たしてるのかな、という気がします。

鳥が大好きです。

――ところで小川さんは鳥のモチーフのものをたくさんお持ちですよね。
小川 鳥が好きだと言っていたら、いろんなところから鳥が集まってきて、本当にたくさんあるんです。生き物の鳥は今は飼っていないですけど、まわりに鳥関連の、ブローチとかいろんなものがあって。自然に集まってきてますね。
――取材で久々にナマの鳥たちを見たり触ったりしていかがでしたか?
小川 すごくかわいくて、やっぱり私は鳥が好きなんだ!と思いました(笑)。「とり村」で会ったオカメインコは、本当に私が飼い主に名乗り出たいぐらいに思いましたし、書いていて、自分自身も鳥っぽい部分がすごくあると感じました。
――そんな鳥好きの小川さんにとって、いよいよという作品ですね。
小川 はい、そうです(笑)。自分はそこまで愛鳥家とは言えないですけど、鳥好きの集大成という感じです。鳥のいる風景は平和になると「とり村」の代表の方がおっしゃていましたが、本当に、平和の象徴というか、その風景のなかに鳥がいるだけでなんだか幸せになれるような気がするので、そういうあったかいというか、やさしい物語を書きたいなと思っていました。
――でもそれが、ただあったかいとかやさしいとかじゃないのが小川さんの作品らしいところですね。
小川 そうですね、最終的に、読み終わった後に、あったかく、そういう気持ちになってもらえたらいいかな、というのをイメージして書きました。

このインタビューは「asta*」でもお読みいただけます。

小川糸 (おがわ いと)
1973年生まれ。著書に『食堂かたつむり』『ファミリーツリー』『つるかめ助産院』『あつあつを召し上がれ』『さようなら、私』など。他、食や旅のエッセイや絵本の翻訳など、精力的な執筆活動を続けている。