志事人

志に会いに、行く。
仕事に誇りをもって、生き生きと輝いている人をみると、なんだかうれしい。メッセージを伝えたくて、仕事をしている人。好きなことをやっているうちに、それが仕事になった人。仕事をするのが楽しくて仕方ない人。その人たちの心の奥には、どんな思いがあるのだろう。これは、志をもって仕事をする人たちを紹介する企画です。

少女漫画界の巨匠・萩尾望都の名作『トーマの心臓』の舞台化を成功させたことで注目を浴びた劇団Studio Life。その後も『月の子』『OZ』などの少女漫画作品や、『ヴェニスに死す』などの文芸耽美作品を次々と舞台化し、公演ごとに観客動員数を増やし、全国公演をおこなうまでになった。また、男性ばかりの劇団で、女性役も男性が演じていることでも知られており、熱狂的な女性ファンを数多く抱えている。劇団唯一の女性で演出・脚本を手掛ける倉田淳さんにその人気の秘密をうかがった。

演出家・脚本家 倉田淳
#7
演出家・脚本家 倉田淳

東京生まれ。1975年、演劇集団「円」研究所に第一期として入所。芥川比呂志に師事し、1981年まで演出助手を務めた。1985年に河内喜一朗とともに劇団Studio Lifeを結成し、ほとんどの作品の脚本と演出を手掛ける。英国の演劇事情にも通じており、1991年より毎年、ロンドン、ニューヨークで日本人俳優のためのアクターズ・スタジオ正会員講師によるワークショップを企画・開催している。

最新作の見どころは?

―― 1985年創立、昨年で20周年を迎えた劇団Studio Lifeですが、21年目の新たな第一作にヴァンパイア2作品(『ヴァンパイア・レジェンド』『DRACULA』)を選んだ理由は?

劇団Studio Lifeは男性だけなので、男性が女性役を演じたりする虚構性の強い世界を表現する劇団です。だから物語性を非常に重要視しているのですが、虚構性と物語性を一番表現できるものといえば“ヴァンパイアもの”だろうと考えました。どちらも以前に上演した作品なのですが、これを一緒に同時上演して、「吸血鬼祭り」(笑)をやろうと思ったのです。劇団内では「血祭り」とも呼ばれてますが(笑)。これで21年目の一作目の花火を打ち上げ、その次には現在の私たちの原点とも言うべき『トーマの心臓』を6月に上演します。この『トーマの心臓』から、制作もすべて私たちの手でおこなうことになる記念すべき作品ともなります。“祭り”のあとに、真摯にまた新たな一歩を踏み出すために『トーマの心臓』を再演させていただきたいと思いました。

――今回は一挙2作品をダブルキャストでおこなうという非常にめずらしいチャレンジが話題ですが?

どちらも再演だからこそ可能となったことです。これが新作だったら絶対に無理です。海外ではレパートリイ・システムとして何作品も同時期に上演する手法は多いんですけど、ダブルキャストは聞かないですね。

―― Studio Lifeは再演をするたびに演出方法や配役を変えたり、新しい試みをしていますが、今回のポイントは?

2 作品を一挙に上演するということで、舞台装置が大きく変わりました。“月”という共通点と“ゴシック”という共通点を美術家がうまく表現してくれました。役者の演出でいうと、今回主役をやった岩崎大のように、実年齢が若い役者が何百年も生きているドラキュラの孤独感やむなしさを表現できなければなりません。ですが、役者たちの中にもそういう部分は少なからずあるはずなので、それを引き出していくことに時間をかけました。

――今回のキャスティングのポイントは?

キャスティングでは、これまで主役をやっていた役者たちがしっかり脇を固めてくれて、主役の若手たちを盛り立ててくれています。『DRACULA』で、今回初めてドラキュラを演じることになった岩崎大はいろんなプレッシャーがあっただろうと思います。ジョナサン役の姜暢雄はテレビドラマや外部公演も多いので、 Studio Lifeの舞台は一年ぶりですが、外部での経験を活かしつつ、Studio Lifeの舞台ならではの細やかな感情の動きに注意を払いました。『ヴァンパイア・レジェンド』は、笠原浩夫と及川健というまったく逆のタイプの二人をダブルキャストの主役に据え、同じ作品でありながらそれぞれ登場するシーンの音楽も変えました。笠原ヴァンパイアはロックで、及川ヴァンパイアはクラシックで、かなり印象が違ったものになりました。また『DRACULA』では脇役のダブルキャストも、大きくヤングチームとシニアチームに分かれているので、フレッシュな感じと、ベテランの安心感と、それぞれの楽しみ方をしていただけるのではと思います。

――今回はとくに若手の登用が多かったと思いますが?

21 年目の第一歩の作品ということもあり、前作『白夜行』で難しい役をがんばって演じた三上俊など、若手を重要な役に思い切ってキャスティングするのは、ある種の賭けでもありますが、そういう冒険がなければ劇団の成長はないものと思っています。劇団は一人でやっているものではないので、そういう冒険もみんなが助け合ってやっていってくれています。先輩たちも後輩の役者を育てようという意気込みがあってうれしいです。

『ヴァンパイア・レジェンド』 (C)2006 Studio Life

『ヴァンパイア・レジェンド』 (C)2006 Studio Life

どのようにしてStudio Lifeはできたのか?

―― 倉田さん個人のことについてお伺いしたのですが、倉田さんが演劇に興味を持ったのはいつ頃からですか?

小さいときからお芝居が大好きで、幼稚園の時にはすでに母親から読んでもらった絵本の話を自分でお芝居にして演じていたりしました。シーツとかカーテンを衣装にしてましたね(笑)。小学生の時には学芸会とかで、すでに自分で台本を書いていましたね。

―― それからどうやって演劇の道に進んだのですか?

最初から演出というのはこわかったので、演劇集団「円」の研究所の役者コースで入ったのですが、パントマイムとかの稽古にまったく出なかったので、所長に呼ばれて「お前は何がやりたいんだ」って、怒られましてね(笑)。「お芝居を作るのは好きだけど、こういうことはやりたくない。演出がやりたい」って言って、芥川比呂志先生の助手につかせていただくことになったんです。でも一年間は役者の勉強をしたことが、現在、演出をする立場になって、いい経験になりましたね。

―― その後、どうやってStudio Lifeはできたのですか?

芥川先生がお亡くなりになられて、生意気にもこのまま「円」にいてもしょうがないと思っているところに、先輩にStudio Lifeの主宰者となる河内喜一朗がいたんです。彼が全国の小学校をまわる影絵劇団のアルバイトをしていて、そこから児童向けではありますが影絵ではない劇団へ発展していったのですが、その時に一緒にやってみないかと誘われたんです。それから児童向けのものですが、脚本と演出をやり始めたんです。そうしていくうちに児童向けのものから範囲を広げて、大人向けの劇団を立ち上げることになったんです。

―― 最近の上演作品は原作ものが多いですが、それは初めの頃からですか?

当時は小劇場ブームの真っ盛りで、「自分探し」や「ワープ」などをテーマにしたスピード感のある芝居が多かったんです。私は根っからの新劇少女だったのですが、そんな時代だったので時流に合わせた芝居を作ろうということで、「自分探し」などをテーマにしたオリジナルをやっていました。最初の10年はそういうオリジナルを四苦八苦しながらやっていましたが、やりたいこととできることとやらなければいけないことがごっちゃになっていた辛い10年でした。

――そして10年目に『トーマの心臓』が登場するのですね?

そんな状態だった10年目に『トーマの心臓』に出会ったのです。少女漫画界の巨匠・萩尾望都先生の原作を、その時初めて読んでどうしてもお芝居にしたくなったのですが、まわりのだれもが「絶対無理だ」と言ったのですが、私はあきらめきれなかったんです。想いをつめこんだ企画書を書いたのはいいんですが、どこに持っていったらいいかもわからずに、当時、萩尾先生が連載していらした『プチフラワー』編集部がある小学館へ飛び込みで行ったんです。今、思えば無謀ですね(笑)。その時に『プチフラワー』の山本編集長(当時)がいらっしゃって、なんと話を聞いてくださることになったんです。その時に偶然、山本編集長がいらっしゃったので舞台化は実現しましたが、もし外出とかされていたら舞台化はいまだに実現しなかったと思います。

―― Studio Lifeは最初から男性のみだったのですか?

最初は女性が2名いたのですが、一人はダンスの道を選び、そしてもう一人は急に本番の2週間前に辞めてしまうことになり、急場しのぎで劇団にいた若い男の子に化粧して女装させることにしたんです。そうしたらそれまで400人ぐらいしか観客動員がなかったのに、いきなり800人に増えたんです。結果オーライで、それ以来、それが定番になりました。よく考えたら歌舞伎もシェイクスピアも男ばかりで演じているので、古来の演劇のスタイルなんですよね(笑)。

―― 男性が女性役を演じるときに注意していることはありますか?


女を“作る”ことを絶対にしないようにしています。“しな”を作ったり、声を作ったりしないように注意しています。男と女という“形態”はあるけれども、人間の根源の部分のさびしいとかうれしいとかという感情は一緒だと思うんです。

―― いつもどのようにして原作を選んでいるのですか?

あとで思うことなんですが、それは孤独感だったり、人と関係を持ちたいんだけどうまく持てなかったり、という共通事項はあると思います。とにかく読んでいて舞台の情景が浮かんでくるものがあるんです。自分が感動したものは読み終わる頃には「これは絶対に舞台化しないと!」と固く信じ込んでいます。その信念がすべてを突き動かしているんじゃないかと思います。また、「これは舞台向きかな?」と考えて読むのではなく、無心じゃないと感情移入できないですね。

―― 原作ではなくても、今後Studio Lifeとして新しくチャレンジしたいジャンルや題材はありますか?

何年か先になるとは思いますが、“歌入り芝居”にはチャレンジしたいと思っています。Studio Lifeの芝居では、毎回音楽が非常に重要な役割を果たしています。百の言葉を尽くすよりも、ひとつの音楽が雄弁に語るということを体感しているので、それを突き詰めていくと歌にもつながっていくと思うのです。ミュージカルまではいかないと思いますが、“歌入り芝居”はぜひ何年か先にはチャレンジしたいですね。また、私はロンドンが好きで、よくロンドンの小劇場のお芝居を見るのですが、本当にいい作品が多いので、そんな良い戯曲を日本で上演していきたいと思います。音楽はいい作品はすぐ輸入されて、外国とタイムラグなく作品に触れることができますが、演劇は需要と供給のバランスが取れていないと思います。海外のいい作品があまりにも日本では紹介されなさ過ぎなのです。これまでも本公演とは別に“The Other Life”と銘打って、『Happy Families』などいくつかの作品を紹介してきましたが、今後も続けていきたいですね。本公演として上演した『LILIES』も、本来なら“The Other Life”の演目なんです。また、本公演で若手の登用を積極的にしているので、ベテランの役者たちで、そういう作品をやることも考えています。

―― オーディションで劇団員を募集されていますが、採用するポイントは?

感受性が豊かな人と出会いたいといつも思っています。現在、Studio Lifeではオーディションを3日間行っています。1日目は面接で、2日目はセリフを一切使わずに音楽などに合わせて体を使って感情を表現してもらい、3 日目ではじめてセリフのある芝居をしてもらっています。その中で、やわらかい感受性や心の中にピュアな部分を持っている人を選んでしまいます。非常に演技のうまい人や、かなり経験のある人にもオーディションに来ていただくのですが、最後はやはり感受性豊かな人に決めてしまいますね。

―― 役者のみなさんはかなり外部公演への出演やテレビ・映画などへの出演が増えていますが、倉田さんに外部公演の作・演出の話が来たらどうしますか?

すごく興味のある台本だったらぜひやらせていただきたいと思います。頭で理解できても、心で理解できない台本だったら出来ないでしょうね。特殊な劇団なので、外に対する窓はいつも大きく開いていたいと思っています。

―― ご自分ではどんな演出家だと思われますか?

気が長いほうだと思います。じっと役者から出てくるものを待つタイプですね。待つのはわりと平気なんです。私は役者ではないので、自分でやってみることはできないし、役者一人一人に絶対どこかにスイッチがあって、ある時そこにたどり着くと一挙にほぐれてくる瞬間があるんです。ただ待つといっても時間には限りがあるので、他人から見るといじわるなことも言ってるみたいですけどね(笑)。

―― 興味を持っている演劇人は?

個人というよりも作品ですね。観たい芝居は作品で選んでいます。ロンドンなんかでは好きな劇場がいくつかあるんですが、ちゃんと芸術監督がいて作品を選んで上演していますからね。


―― お休みの日は何をしていらっしゃいますか? 

旅行ですね。「ちょっと出てきます」って言い置いて、一週間海外へ行ったりしてますね(笑)。


―― 普段どんな本を読まれるのですか?

ジャンル問わずなんでも読みますね。今でも疲れた時に開くのは『赤毛のアン』です。少女趣味って言われるので恥ずかしいのですが、小学4年生のときにはまってしまってからずっとですね。小学4年から中学3年まで、読書感想文といえば『赤毛のアン』を書いてました(笑)。全集を持っているのは、太宰治と泉鏡花ですね。

『DRACULA』 (C)2006 Studio Life

『DRACULA』 (C)2006 Studio Life

そして再び『トーマの心臓』へ挑む

―― 6月に『トーマの心臓』が再演されますが、Studio Lifeが劇団として大きく飛躍するきっかけになった原点ともいうべき作品に、今ふたたび挑戦するわけですが、6回目となるポイントは?

出演者がみんな若返ります。これまで5回上演させていただきましたが、タイトルにもあるトーマの掘り下げが甘いと思っていて、今回はそれに取り組みたいと思います。トーマは現実には死にましたが、彼は生きるために死んだのだという心情を各登場人物のイメージの中に織り込んでいければと思います。今回6回目で初めて6月に上演するのですが、原作の中にも「まぢかに春~」というフレーズがあるように、“季節感”ということを考えてみると、生命が息吹いていく季節になぜトーマは死のうと思ったのか、永遠にユーリの中で生きること=死ぬことであり、つまり死=生という部分の描き方を個人的には突き詰めていきたいと思っています。

―― それ以降の今後のご予定をお聞かせください。

今はあまりお話できないのですが、9月ごろに“古いものなんだけれど、新しい試み”をしたいと思っています。

―― 倉田さんが演劇の世界に入られてから今年で30年。それだけ情熱を持ち続けていられる演劇のおもしろさとはなんですか?

イメージしていたものが3次元に立ち上がって、稽古場で人間と言葉によって感情が立ち上がっていって、それが劇場という空間に入ると、照明が入って、音楽が入って、だんだんいろんな要素が加わっていく。そして幕が開いてお客様が入ると、多くの人のオーラでまた舞台が次の一歩に踏み出すことができる。それがおもしろくてしょうがないんですね。舞台は一人で作っているのではなくて、いろんな人の力で作り上げていく、そのおもしろさ。いつも最初にスタッフミーティングをするのですが、それがいつも楽しみで楽しみで。美術の意見や照明の意見など、自分で気付かなかったことが発見でき、ひとつのお芝居が立ち上がっていくのが楽しいですね。ロンドンなどでいいお芝居に出会うと、何回か本当に生きてて良かったと思う瞬間があって、そういう感情を他の人とも共有したいという思いが強いのだと思います。幕が開くまではこれで精一杯の状態と思っているのに、いざ幕が開いてみると、まだいろいろ手を加えることを考えてしまう。だからこの仕事に終わりはないんですね。


劇団Studio Life

1985 年結成。Studio Lifeは男性のみで構成されている劇団であり、唯一の女性は脚本・演出の倉田淳。30公演ののち、1996年の『トーマの心臓』(原作:萩尾望都)初舞台化の成功を機に、『ヴェニスに死す』(原作:トーマス・マン)、『月の子』(原作:清水玲子)などの名作を次々と舞台化。2000年12月~2001年 1月におこなった萩尾望都作品連鎖公演では1ヶ月以上のロングランとなる。以来、大阪、名古屋、福岡、仙台、広島、新潟と毎年主要都市での公演を増やしていき、劇団創立20周年を迎えた2005年には直木賞作家東野圭吾の代表作『白夜行』を初舞台化し好評を得る。劇団HPはhttp://www.studio-life.com/

★ 上演中情報
・ 北九州公演『DRACULA』4/2(日)北九州芸術劇場中劇場
・ 広島公演『DRACULA』4/3(月)アステールプラザ大ホール
・ 大阪公演『ヴァンパイア・レジェンド』『DRACULA』4/7(金)~4/9(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
・ 名古屋公演『DRACULA』4/10(月)愛知県勤労会館

★ 上演予定情報
・ 『トーマの心臓』6/3(土)~6/29(木)紀伊国屋ホール

※キャスト情報・チケット情報などは劇団HPをご覧ください。

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