新進作家対談 小松エメル×田辺青蛙

人と妖の凸凹コンビが活躍する時代エンタテイメント小説『一鬼夜行』で、

6回ジャイブ小説大賞で同賞初の大賞を獲得した小松エメルさんと、

 しみじみと心に染みわたる異色の幻妖小説『生き屏風』で、

15回ホラー小説大賞短編賞に輝いた田辺青蛙さん。             

 ともに妖怪をモチーフにした作品でデビューした新鋭作家の二人が、

影響を受けた作品から自らの怪異体験まで、尽きせぬ「妖怪」の魅力を語ります。

  

 

司会/東雅夫(アンソロジスト、怪談専門誌『幽』編集長)

構成・撮影/編集部


 

▲『一鬼夜行』
(ポプラ文庫ピュアフル)
強面で人間嫌いの若商人・喜蔵の家の庭に、自らを「百鬼夜行からはぐれた鬼だ」と主張する小生意気な少年・小春が落ちてきた。文明開化の東京を舞台に、人と妖の凸凹コンビが事件に挑む人情妖怪譚。

                                                          

▲『一鬼夜行』
(ポプラ文庫ピュアフル)
強面で人間嫌いの若商人・喜蔵の家の庭に、自らを「百鬼夜行からはぐれた鬼だ」と主張する小生意気な少年・小春が落ちてきた。文明開化の東京を舞台に、人と妖の凸凹コンビが事件に挑む人情妖怪譚。

                                                          

キャラの立った小説が好き

――――このところ、各社の新人賞を本格的な妖怪小説で受賞する新進作家の方が非常に多い。それぞれ持ち味は違うものの、妖怪の扱い方に、どこかしら共通しているところがある気がします。そこで今回は、本格的な妖怪小説でデビューされたお二人に、それぞれの作品が生まれた背景も伺いながら、じっくり語り合っていただきたいと思います。

田辺青蛙(以下、田辺) 小松さんの『一鬼夜行』、すごく面白くて、一気に読んでしまいました。主人公の小春と喜蔵が大好きです。小春がとにかくかわいくて、強面の喜蔵とのギャップがよい味を出している。この二人がメインでストーリーが展開されるのかなと思っていたら、ほかの妖怪たちのエピソードもじっくり語られたり、古道具屋のつくも神的なものたちが登場したりと、自然に色々な妖怪が絡んでいくのがとても楽しくて。お化けを扱った小説って、作品によっては、怪異が前面に出すぎているものもあるのに、まったく違和感がなく、物語に馴染んでいるような気がしました。

小松エメル(以下、小松) ありがとうございます。

田辺 NHKあたりでぜひ映像化してほしいです。どのキャラもとても立っていて、絵が浮かんでくるというか。

小松 うれしいです。私自身、キャラクターに魅力がないと、面白いストーリーでも入り込みにくくて。だから、自分で書くときにも、そのあたりのことは意識しました。でも、ちょっと新鮮だったのが、「妖怪萌え」「喜蔵はツンデレキャラ」という感想を読者の方からいくつかいただいたこと。「よし、喜蔵はツンデレでいこう」と思って書いたわけではなかったので、そうか、これがツンデレか、萌えなのか、と勉強になりました(笑)。

田辺 サブキャラでは小春が頭の上がらない、河童の棟梁・弥々子が好きなんですけど、彼女は関東中の河童の親分で、利根川に住んでいたという「禰々子河童」がモチーフですよね。私も禰々子河童が好きで、自分の作品にも出しているので、ああ、とうれしくなりました。彼女のエピソードは、とてもぐっときました。

小松 気づいてもらえてうれしいです。今回の作品を書くために、妖怪に関する文献も色々読んでいたんですけど、「禰々子河童は猫に似ている」という記述を見つけて、あ、これは面白いつながりができそう、と思って取り入れたんです。

――――『一鬼夜行』の冒頭は、鬼の小春が、百鬼夜行から人間界に落ちてしまうシーンから始まりますね。京極夏彦さんの「百鬼夜行」シリーズは置くとして、百鬼夜行という現象自体を取り込んだ小説は意外にない。それを冒頭に持ってきたという着想が面白いなと感じました。百鬼夜行に注目をしたのはなぜですか。

小松 新人賞に出す作品を「妖怪もの」にしようと考えた時に、妖怪を数人出すだけだとあまり面白くないので、どうせだったらたくさん出して賑やかな話にしたいな、と考えたんです。だったら力のある妖怪たちが集まって真夜中の空を練り歩く百鬼夜行はどうだろう、と。人間も書きたかったので、じゃあ一人だけ人間界に紛れ込ませてしまって、妖怪の仲間たちをそこに絡ませていこうと思ったんです。

▲『生き屏風』
(角川ホラー文庫)
村はずれで、愛馬の布団と暮らしている妖鬼の皐月。ある日、死んだ奥方の霊が乗り移った屏風の話し相手になってほしいと頼まれる。いやいや出かけていった皐月だが……。どこか懐かしく心温まる幻想譚。

▲『生き屏風』
(角川ホラー文庫)
村はずれで、愛馬の布団と暮らしている妖鬼の皐月。ある日、死んだ奥方の霊が乗り移った屏風の話し相手になってほしいと頼まれる。いやいや出かけていった皐月だが……。どこか懐かしく心温まる幻想譚。


 

一族の話でいつか大長編を?

田辺 大学では歴史を勉強されていたとのことですが、『一鬼夜行』でも、牛鍋屋のシーンなど、当時の時代背景がとてもいきいきと描かれていますよね。専攻もこの時代だったのですか?

小松 いえ、実は幕末が専攻なんです。

田辺 もしや、それは新撰組好きとか……。

小松 そうなんです(笑)。新撰組を研究したくて大学に入ったのに、入った瞬間に、卒論で新撰組はやらせないと教授に言われてしまって。ちょうど大河ドラマ『新撰組!』の後で、その手のものが多かったこともあって、教授陣もうんざりしていたんでしょうね。でも、どうしてもやりたかったので、周辺から行こうと。卒論は、「幕末期における浪人集団の社会的性格」というオブラートに包んだものにして、その中で比較対象として新撰組を取り上げました。

田辺 そこまでさせる魅力は何なんでしょう。

小松 うーん、もはやわからないですね。生活の一部となっていて(笑)。私、新撰組と名のつくものであれば、何でも集めてしまうんです。部屋の片隅に新撰組のコーナーがあって、とてもよくできたフィギュアを飾ったりしています。家族は部屋に入ってくるたびに、これは一体何だろうという顔をして出て行きますね。

――――ほほう。田辺さんもそういうのは身に覚えあるんじゃないですか? ホラー大賞の授賞パーティーのとき、綾波レイのコスプレで登場して、話題をさらいましたよね。

小松 実は今日も、コスプレでいらっしゃるんじゃないかと、ひそかに期待してました(笑)

田辺 照れ屋なので、晴れの場が苦手なんです。ああいう格好だったら、緊張もまぎれるかな……と。でも、以前、妖怪好きの人たちの間でオフ会があったときに、いったんもめんの覆面に、上下黒いジャージを着て、待ち合わせ場所の京都タワーの前に立っていたら、誰も声をかけてくれなかったという、かなしいこともありました。

▲『魂追い』
(角川ホラー文庫)
生き物の魂魄を捕らえる「魂追い」の少年・縁と出会った皐月。ある事情から、火の山を目指す旅にでることになった二人の行く先々で、怪異が巻き起こり――。『生き屏風』の続編。

▲『魂追い』
(角川ホラー文庫)
生き物の魂魄を捕らえる「魂追い」の少年・縁と出会った皐月。ある事情から、火の山を目指す旅にでることになった二人の行く先々で、怪異が巻き起こり――。『生き屏風』の続編。



――――それはそれは(笑)。小説のほうに話を戻しましょうか。専攻ではない、明治初期を舞台にしたのはどうしてですか?

小松 この頃は、外国文化が入ってきて生活が一変する一方で、瓦版などでは妖怪沙汰が日常的に取り上げられていたという、旧いものと新しいもの、虚と実が入り混じった、狭間の時代だったと思うんです。ふつうの市井の生活を描きながら、妖怪が登場するのが特別なシチュエーションではないという風にしたかったんですね。ただ、幕末を舞台にすると、どうしても動乱のほうがメインになってしまうし、逆に時代が下がってしまうと、妖怪が出てきても人が信じなくなってしまう。でも、端境期のこの頃だったら、百鬼夜行から妖怪が落ちてくる、という妖しい出来事が起こってもおかしくないかもしれない、と思ったんです。田辺さんの書かれた『生き屏風』『魂追い』は、日本であって日本でないような「里」を舞台とした小説ですよね。どこにあるかわからない独特の世界と、不思議な雰囲気をまとった人物が非常にうまく作用しあった、とても雰囲気のある作品だと思いました。

田辺 私が住んでいる京田辺というところは、京都と大阪と奈良の県境にあるのですが、渡来人が多かったといわれている地域で、そこをモデルにしていることが影響しているかもしれないですね。近くに、渡来人が作った寺院の跡があったり、向こうの言葉のような地名があったりするんです。京田辺からはちょっと離れますが、滋賀県には百済寺もありますし。

小松 なるほど、確かに、ちょっと大陸的な空気も感じられる世界ですよね。それから印象的だったのが、主人公の皐月が、妖怪の女の子で、馬の首の中で眠るという冒頭のシーン。斬新なイメージだなぁと思ったのですが、どういうときにお話を思いつかれるんですか?

田辺 絵からインスピレーションを得たりします。私は蛙が好きなんですが、中国の掛け軸に、蝦蟇を連れている「蝦蟇仙人」と対でよく描かれる、口から魂を出して旅をする「鉄拐仙人」というモチーフがあるんです。それを見て、魂が旅をするというお話をいつか書いてみたいなと思ってできたのが『魂追い』です。そういう、何かを見てとか、好きなものを組みあわせて、書きはじめる感じですね。 

――――田辺さんは、備前長船という刀鍛冶職人の家系だそうですが、そういう家の歴史のようなものが、創作の中に入っていたりもしますか?

田辺 あえて入れていこう、というのはありますね。『てのひら怪談』(*1)に選んでもらった作品の中でも、祖父から聞いた話が元になったものもあります。

――――『てのひら怪談 己丑』に収録させてもらった「姉やん」は、おじいさまから聞いたお話だそうですね。豪雨で町が押し流され、家族が全滅しかけたというエピソードですが、とても印象に残っています。小松さんは、おじいさまがトルコの方だと伺いましたが、そちらの文化に関心があったりしますか?

小松 私の祖父は、群馬県で生まれて、実は一度もトルコに帰ったことがなかったんです。『必殺仕事人』や『水戸黄門』を観て楽しんでいるような人だったので、昔は自分がそちらの血を引いていることを特段意識してなかったですね。でも、祖父が亡くなってから、少しずつ興味が出てきました。

田辺 ひいおじいさまの代までトルコにいらっしゃったということですか?

小松 それも曖昧で。祖父には何人か兄弟がいたようなのですが、それぞれが違う国で生まれた、という話を聞いたことはあります。

田辺 へぇ~、船乗りだったのでしょうか。

小松 うーん、何だったんでしょうね。実は、そのあたりを詳しく聞けなかったので。

――――そうですか。その辺をお調べになったら、田辺さんじゃないけれど、お家の話でいつか大長編ができるかもしれませんね。


 

             ▲田辺青蛙氏

             ▲田辺青蛙氏

 

 

影響を受けた作品、好きな作品

――――お二人が妖怪に興味を持たれたのは、どんなきっかけだったんですか?

田辺 子どもの頃、ちょうど香港映画をきっかけにしたキョンシーブーム(*2)があって、そこでどっぷりハマりました。80年代に放送されていた『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』といったアニメや、意外に妖怪が登場していたドラマ『世にも奇妙な物語』なんかが大好きでよく見ていました。2000年に映画『さくや妖怪伝』が公開されて、「妖怪ブーム」という言葉が使われだしたときには、すごく感動したのを覚えています。その後も映画『妖怪大戦争』がリメイクされたり、京極さんの小説『姑獲鳥の夏』が映画化されたり、今年も水木しげるさんの奥様の自伝『ゲゲゲの女房』がドラマ化されたりと、妖怪もののミクスメディアがさかんですが、私の場合は、小説よりも、映像や漫画の影響が強いかもしれません。小松さんは?

小松 私は、好きになったきっかけをあまり覚えていなくて……。キョンシーも鬼太郎もおもしろく観ていたのですが、その頃は、妖怪がでているから好き、という意識はありませんでしたね。妖怪ものということを意識してハマったのは、今市子さんの漫画『百鬼夜行抄』が最初かもしれません。

――――なるほど。確かに『百鬼夜行抄』の、日常の中に妖怪と人間が自然に同居しているという世界観やキャラクターのあり方は、ちょっと『一鬼夜行』とも通じるような気がしますね。他にはどんなものを読まれましたか?

小松 漫画だと、高橋葉介さんの『夢幻紳士』とか。小説だと、やはり京極さんが大好きです。キャラが全員立っていて、大長編なのにぐいぐい読ませる求心力がある。思えば、京極さんの作品でキャラクターの立った小説の面白さを意識したかもしれません。中でも好きなのは、『鉄鼠の檻』や『絡新婦の理』のあたりです。

田辺 あ、私も一緒。どのキャラクターが好きですか?

小松 そうですね。特に好きなのは、榎木津礼二郎と益田龍一。榎木津は探偵でとにかく格好いい。助手の益田くんは、一生懸命なんだけど空回りしてしまうところに、共感が持てます。ただ、影響されないように小説はあまり読みすぎないようにしているので、最近の作品には疎いんです。何かお勧めはありますか?

田辺 飴村行さんの『粘膜人間』でしょうか。戦争がずっと続いている、ちょっとパラレルワールドのような日本で、小学生で、身長195cm、体重105kgという異様な姿をした弟の凄まじい暴力をもてあました兄たちが、村はずれに住む河童に「弟を殺してください」と頼みに行くという、かなりグロイお話です。妖怪の世界と人間の世界が非常に密な感じなんです。異様な巨体の弟という設定も、民俗学的にいう「異常な出産」(*3)で生まれた子どもなんじゃないか、と推測して読んでいました。ご本人に聞いたら、まったくそのあたりのことを意識せずに書かれたそうですが。読者を選ぶ作品だとは思うんですが、民俗学的な要素と、創作の設定が絶妙にマッチした、新しいタイプの妖怪小説じゃないかな、と思います。


 

▲小松エメル氏

▲小松エメル氏

砂漠で遭難?

――――さて、妖しい世界を書いていらっしゃるお二人ですが、実際、妙なものを見てしまったり、不可思議な現象にいきあったということはないんですか?

小松 昔は何度かありましたね。一番怖かったのが、高校一年生のとき、京都に旅行に行ったときのことですね。いいホテルに泊まったんですが、窓を開けたら、見渡す限りお墓だったんです。思わずばっと窓を閉めて、あまりに恐ろしかったので、友達に窓側のベッドに寝てもらったんですね。その夜、なかなか寝付けないなぁと思っていたら、金縛りにあっちゃって……。目は開いたまま、どうしようどうしようと思っていたら、かしゃんかしゃん……と――お坊さんが持ってる錫杖のような音と、ひたひたひた……という足音が聞こえてきて。だんだんその音が近づいてくるんですね。それがもう、間近まで来ていて――。

田辺 うわぁ……。

小松 気がついたら、朝だったんです。朝5時前くらいかな。ああ夢か、よかった、とほっとして、ふと窓側を見たら、友達が起きていて、怯えたような顔で私のほうを見ているんですよ。どうしたの、って聞いたら、朝方ずっとケタケタ笑ってたよ、って言われて。私は全然そんな自覚なかったんですよ。

田辺 それはお友達、心底怖かったでしょうね。いわくつきのホテルだったのかな。

小松 そうかもしれません。次の日も何かあったような気がするんですけど、忘れちゃいました……。田辺さんは何か不思議な体験は?

――――田辺さんはすごいですよね。砂漠で神様に遭っちゃったもんね。

小松 ええっ!? 砂漠で……?

田辺 オーストラリアのブルームという海沿いの町で、遭難したことがあって……。サイクリングロードを気持ちよく走ってたら、だんだんだんだん、砂が多くなってきたんです。気がついたら、砂に自転車の前輪がずぼって埋まっちゃったんですよ。その時点でおかしいなぁとは思ったんですが、地図を見たら、もう少し行った先にコンビニがあるよ、と書いてあったので、とりあえずそこまで行こうと思って。でも、行けども行けどもコンビニがなくて、気がついたら膝まで砂に埋まってたんですよ。

小松 普通のサイクリングロードだったんですよね? そんなことが……。

田辺 持参していたオレンジジュースもとっくに飲みきっちゃったし、脱水症状を起こしかけていたし、どうしよう、でもここから引き返すのは大変だぞと思いながらさらに進んでいったら、男の人が倒れこんでたんですよ。外国の人で、英語も片言なので、あまりうまく意思の疎通ができなかったんですが、汗が固まって塩の結晶がまつげについてるし、このまま放っておいたらまずいかな、という感じで。

小松 それでどうしたんですか?

田辺 一緒に引き返そうとしたんですけど、途中で二人とも動けなくなっちゃったんですよ。そしたら朦朧としていたその人がいきなり、「君の頭の横に手を振っている人が見える」と言い出したいんです。10センチくらいの大きさで、緑色で、「regal it」と書かれたマリファナ柄のTシャツを着ている人が、こちらを見て、手を振ってるよって。

小松 えええー。

田辺 オーストラリアの先住民アボリジニは、日本と同じく自然界の精霊を信仰しているんですね。一人一人に神様がいて、「砂漠に入って自分一人の時間を過ごして、自分だけの神様を見つける」慣わしもあるという話を、なぜかそのとき思い出して。彼が、「あ、ほら、あそこを歩いていった」って指差すんですけど、私もそのとき、何か見えたような気がしたんですね。結局、その後、どう歩いたか覚えていないんですが、気がついたら、砂漠のど真ん中にあるプールのそばでへたり込んでました。でも、蛇口をひねっても水が全然でない。彼はパニックになったのか、自転車をがんっと投げ飛ばして、砂漠のほうへ走り出しちゃうし、本当にもうだめかもしれない……と思っていたところに、車が通りかかって……。無事、乗せてもらえたんですけど、「送り賃は500ドルでいいよ」「お水は20ドルね」って、ぼったくられるという散々な目に遭いました。

小松 すごい……。神様の話もすごいけど、いったいその空間は何だったんでしょうか。生きて帰っていらして、何よりです。

田辺 そういう話がいっぱいあって……。昔は、妖怪を探して、いろいろないわくのあるところを一人で歩き回っていたんですが、23回死にかけましたね。方向音痴なので、藪の中に分け入ってマムシにかまれそうになったり、崖から落っこちそうになったり、「わしが妖怪じゃ~」と自称するおじいさんに追いかけられたり……。

小松 壮絶ですね……(笑)。田辺さんにはそういうものをひきつけてしまう何かがあるんでしょうか。


 

 もっと面白い妖怪小説を!

――次回作のご予定について教えてください。

小松 『一鬼夜行』の続編を書きます。いくつかのエピソードが連なっていくかたちを考えているのですが、どうまとめていこうか思案中です。

田辺 今後、出したいお化けっていますか? 

小松 そうだなぁ、今ちょっと気になっているのは「あまびえ」ですね。昔の瓦版に書いてあった絵が、すごく面白くて。

田辺 不細工な人魚の出来損ないのような、不思議な形をした妖怪ですよね。予言をするという。

小松 そうそう。でも、予言をするという役回りでは、「件」という半人半牛の妖怪をすでに出してしまったので。前作で通りすがりに登場した、目がたくさんある妖怪や、硯の精などについても書きたいな、とあれこれ構想を練っています。これからも、いろいろな妖怪を出したいですね。

――時代物をもっと書いていく予定ですか? 妖怪プラス新撰組というのも面白そうですね。沖田総司の黒猫のエピソードなど、新撰組には怪談っぽいエピソードもありますし。

小松 実はすでに、半ば書いていたものもあるんですが……。でも当面は調べものをして、書く修行も積んで、「これでいけるな」と手ごたえがあったときに書きたいと思っています。

田辺 ぜひ読みたいです。

小松 がんばります。田辺さんの次回作は、『魂追い』の続きですか? 2作目はロードノベルっぽい感じでしたが、またどこかに出かけたりするんですか?

田辺 いや、今回は引きこもりみたいにずーっと里にいます。みんなうじうじ暮らしていますみたいな話を、書いています。主人公の皐月の過去の話も含めて、2作目でハッキリしなかったことを、クリアにしていこうかな、と思っています。皐月のお父さんとお母さんのエピソードも、実は、1冊の本になるくらいはあるんです。あとは馬市の話とか、ほかの鬼追いや妖怪はどんな暮らしをしているのか、数はどれくらいいるのかといったディテールもゆるやかに考えてあります。

――妖怪関連のイベントにも精力的に参加していらっしゃる田辺さんですが、今後どういう方向に向かおうとしているんですか。

田辺 うーん、そうですね……。私自身駆け出しの作家なので、こういうタイプの作品があるなら、私も書いてみようかな、と思える妖怪作家の人が出てきてくれるといいなぁと思うんですが。京極さんが登場されてから、妖怪について興味を持つ人や、フィールドワークをして調べてみようという人がすごく増えたと思うんですよ。今度は妖怪ものを書く人が増えてくれるといいなと思っています。面白い妖怪小説をたくさん読みたいし、私も書いていきたいなと思っています。

――妖怪好き、小説好きの人間としては、こういう若い書き手の皆さんがもっと活躍して、もっともっとお化けの魅力を広めていきただきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。

小松、田辺 ありがとうございました。
 

                                 (2010年7月10日、ポプラ社にて)

                                 (2010年7月10日、ポプラ社にて)

プロフィール

小松エメル(小松エメル)

1984年東京都生まれ。母方にトルコ人の祖父を持ち、トルコ語で「強い、優しい、美しい」という意味を持つ名前を授かる。國學院大學文学部史学科卒業。専攻は日本近世史。2008年、初めて執筆した小説「一鬼夜行」にて、あさのあつこ、後藤竜二両選考委員の高評価を得て、ジャイブ小説大賞初の「大賞」を受賞。現在、『朝日中学生ウイークリー』にて、『一鬼夜行』のスピンアウト作品「くらぼっこ」を連載中。

田辺青蛙(たなべ・せいあ)

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。08年、「生き屏風」で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞(選考委員:荒俣宏氏、高橋克彦氏、林真理子氏)。著書に『生き屏風』『魂追い』、共著に『憑依――異形コレクションXLV』などがある。コスプレーヤーでもある。


 


 

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