江國香織氏
金原 この前、ある中学校の授業によばれて、僕が編者をしているYAアンソロジー『みじかい眠りにつく前に』の一巻を、生徒全員にプレゼントしたんですね。それで授業の後にどの作品が好きかアンケートをとったら、江國さんの「十月のルネッサンス」が一位でした。
江國 中学生というところが嬉しいですね。実は私、中学生のころはいやな子供だったんですけれど(笑)。
金原 え、いやな子だったんですか?
江國 周りの人は誰も信用できないし、みな敵だと思ってましたから。それを態度に出せたら、まだよかったんですけど。冷めた態度を取ってギクシャクするのが怖い、だから調子だけは合わせちゃうような、臆病な子供だったんです。すごくいやな中学生だったと思います。
金原 いつ、いい子になったんですか。
江國 本当にいい人になったのは、三十歳を過ぎてからでしょうか。
金原 いまはいい人なんだ(笑)。
江國 すごくいい人になれたように思います(笑)。
金原 いやな子だった中学生のころは、何を読んでいました?
江國 中学生のころは女の子らしく、スタンダールとか。
金原 うん、かなりいやな感じですね(笑)。どんなところが印象に残ってます?
江國 台所の下働きとか、じゃがいもの皮むきとか、御者の仕事とか、細部がなぜか印象に残ってますね。




金原 『みじかい眠りにつく前に』は、毎回、特別講師としてお招きした作家さんに古い作品から一、二編選んでいただくことになっていて、江國さんには三巻に収録する作品の候補をあげていただきました。そのなかに有島武郎が二編ありましたね。「火事とポチ」と「僕の帽子のお話」。有島武郎は、よく読むんですか?
江國 好きな作家ですね。ヤングアダルトの定義がよくわかっていないんですけど、私がヤングアダルトと呼ばれそうな年の人に読んでもらいたいものを選ぶとしたら、童話を読んでほしいと思ったんです。童話って豊かですけど、一方ですごく怖い世界でもあったりするじゃないですか。有島の二編を童話だと感じるのは、私だけかもしれないんですが。
金原 「僕の帽子のお話」は、ちょっと稲垣足穂みたいな感じを受けました。ファンタスティックですよね。
江國 有島さんはおもしろいですよね。一巻で森絵都さんが選んでいらした「小さき者へ」も好きです。
金原 このとき森さんがあげたのは、内田百閧ェ二編、井伏鱒二が二編、それから、有島武郎と小林多喜二でした。編集部は小林多喜二の「ある役割」がいいっていってきたんですけど、僕は却下させてもらった。演劇をやっている青年が、女の子に一目ぼれした後、あちこちでばかをする話なんです。だって、あまりにかわいそうで。
江國 かわいそうで? 読んでいてつらくなっちゃったんですか。
金原 自意識過剰の若い男の子が、まるで昔の自分を見るようで。なんで森さんは、こんなの持ってくるのか、あり得ないと思って(笑)。
江國 森さん、すごいな。でも、若い女の子だって自意識過剰ですよ。私が中学生のころ、いやな子だったのも、きっと自分の中で格好ばっかりつけてたからで。ヤングアダルトの世代では、それはさけられないんでしょうけどね。
金原瑞人氏
金原 自意識が空回りしているときの恥ずかしさったらないですよ。で、森さんらしい、まっすぐなメッセージの「小さき者へ」になりました。二巻で三浦しをんさんが選んでくださったのは、檀一雄の「花筐」です。こちらもある意味、三浦さんらしい(笑)。最初は石川淳の「珊瑚」にしようかと思ってらしたそうだけど、最終的に「花筐」に決めてこられましたね。
 江國さんは、有島武郎をいつごろ読んでいたんですか?

江國
 短大生のころですね。18か19歳。「或る女」をきっかけに好きになったんです。主人公の葉子さんがそれはもう魅力的に感じられて。
金原 女性が好きな作品かもしれないですね。もう一度読んでみよう。三本目の候補は吉行淳之介の「謎」でしたっけ。
江國 「謎」は、初めて読んだときに、思わず声を出して笑ったんですよ。吉行さんは純然たる文学だけじゃなく、中間小説といわれる、もうちょっとくだけた、エロティックな作品もあって、私はそちらも好きです。吉行さんご自身はそういうものも楽しんで書いてらっしゃったと思う。



 

金原
 そうですよね。あとは萩原朔太郎の「猫町」をあげてくださいました。朔太郎には、いつごろ出会いましたか。
江國 これも短大生のころです。
金原 本好きの大学生だったんですね。
江國 やることがなかったんですよ。お友達も一人しかいなかった(笑)。だからずっと本を読んでいたんです。近代文学専攻でしたし、古いものが読みたかったんですね。小さな短大だったので、あまり大きな図書館がなかったんですが、資料のような、布ばりの本が置いてあって、その中に「猫町」がありました。
金原 そんな江國さんの推薦作品を、三巻には特別に二編収録しています。
江國 今回、一巻から三巻までの収録作を読ませていただいて思ったんですけど、アンソロジーっておもしろいですね。知らない作品にも出会えるし、知っている作品でも、どんな作品と一緒に並ぶかで、読んだときの印象が全然違う。
金原 不思議ですよね。タイトルがあがっている小説を読んだことがある方も、ぜひこのアンソロジーで再読
していただきたいと思います。

(『asta*』2009年8月号収録)
 構成/石井千湖  撮影/根津千尋
 





金原瑞人(かねはら・みずひと)
1954年、岡山県生まれ。翻訳家。法政大学社会学部教授。YAの分野を中心に精力的に翻訳活動を行ない、訳書は300点を超える。エッセイ、書評などでも活躍。訳書に、アレックス・シアラー『青空のむこう』、カート・ヴォネガット『国のない男』など、著書に『翻訳のさじかげん』などがある。


江國香織(えくに・かおり)
1964年東京都生まれ。『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、『号泣する準備はできていた』で直木賞を受賞。著書に『落下する夕方』『きらきらひかる』『東京タワー』『左岸』などがある。



大好評発売中
金原瑞人YAセレクション 
みじかい眠りにつく前に V
明け方に読みたい10の話


傑作短編を集めた、YAアンソロジーの決定版!
「編者」の金原瑞人氏が選ぶ傑作短編8編と、
「特別講師」の江國香織氏が日本の名作から選んだおすすめの
2編を収録した、YAアンソロジー。文庫初収録作品も含む、
アンソロジー・シリーズ第三弾!!!

【収録作品】
池上永一   「サトウキビの森」
小川洋子   「美少女コンテスト」
川西蘭   「炎」
桜庭一樹   「A」
東直子   「道ばたさん」
三浦しをん   「予言」
皆川博子   「雪女郎」
よしもとばなな   「血と水」
有島武郎   「火事とポチ」 江國香織推薦!
萩原朔太郎   「猫町」 江國香織推薦!

定価:本体590円(税別) ジャイブ ピュアフル文庫



※『asta*』は、ポプラ社グループのPR誌です。
戻る
サイトはInternet Explorer5.5以上、Firefox 2.0以上でご覧ください。
(C)Copyright 2009 JIVE Ltd. All rights reserved. サイト内の画像・文章等の無断転載を禁じます。