――まず、第一印象をお聞かせください。
西加奈子氏
西  ほんまおもろい人って感じ。こういう人が小説書くんやって、びっくりした。
藤谷 会う前に、西さんのデビュー作『あおい』を読んで「この人はスターになる」って思っていたわけ。そしたらものすごい美しい女流作家なわけじゃない! もう、口もきけなかったよね。
西  うそや! 会うたびに「パンツ脱ぐぞ」とか言うやんか。
藤谷 言ってないじゃないか、そんなことは。いつもドストエフスキーの話しかしないじゃないか。
西  せぇへん、せぇへん(笑)。
――仲がいいですね……。
藤谷 同期なんだよな、僕たちって。
西  藤谷さんのほうが先輩やけどな。
藤谷 それはジジィって意味だろ。
西  違う違う。半年先輩やん。
藤谷 西さんにそう言われると、まるで、僕が半年ぐらいで先輩風吹かせてるみたいに受け取られちゃうからさ(苦笑)。
西  でも、藤谷さんのデビュー作『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』読んで、ヤバいと思って、デビュー前から会いたかってんで、ほんま。




――デビューがほぼ同時期、その担当編集者も同じ方ということで、下北沢で藤谷さんが開かれている書店「フィクショネス(*1)」を西さんが訪ねたのが初対面ということですが西さん、下北沢に対する印象を聞かせていただけますか。
西  初めて下北沢に行ったとき、吉川ひなのが歩いてるのに、誰もなんも言わんから、すげーって思ったの覚えてる。
藤谷 『下北沢』にも、そういうエピソード入れときゃよかったな。有名人がいても騒がない街っていう。
西  「フィクショネス」にも有名人が来たりする?
藤谷 来るよ。深田恭子のお尻に肘が当たっちゃったことがある。まだ僕がデビューする前だけど。ある雨の降る平日に、客がこないから友達とチェスしてたの。
西  優雅やなー(笑)。
藤谷 まぁね(笑)。そしたら、4人くらいで入ってきた中に一人、ものすごい肩幅の広い、かわいい女の子がいたんだよ。その子たちは絵本見ながら、チェスのほうも気になるみたいでさ。で、その頃の僕は客をいじるっていうか、積極的に話しかけてたから、「チェスやりますか」って一言声かけたの。そしたら、すごく脅えられてしまい……。
西  でも、『下北沢』の桃子さん(*2)はびびらんかったな。
藤谷 桃子さんはびびらなかったよ。
西  じゃあ、実際に奥さんになった人もびびらなかったの?
藤谷 なんの話だか全然わからないね♪
西  ごまかし方、ヘタやと思うわ(笑)。
藤谷 お義母さんが、「桃子さんて、うちの娘のことですか?」って訊いてきたけどね。「いいえ、全然違います」って言って難を逃れたんだよ。

西
  それって、「難」なんや。
藤谷 最後の場面、お義父さんとお義母さんにうまく説明できないじゃないか。
藤谷治氏
西  オトメでもあるまいし(笑)。
藤谷 おまえのお母さん、泣いてるぞ(苦笑)。でも本当にね、あの小説に書かれている通りのことは「あった」んだよ。でも実際は、あの10倍くらいしつこく口説いてる。だって、本当はお酒飲んだ後、カラオケに行ったんだよ。そして歌っている間中、「愛してるー♪」って。女性はわかると思うけど、やればやるほど引いてくっていうパターン。どうしようもなく、こりゃダメだなって思ってたら、「奇跡」が起こって。何が起こったか知りたい方は、ぜひお読みいただいて。
西  そうだよ、皆さん、読まな(笑)。
 でも、その話、藤谷さんが『下北沢』を書く前に聞いててん、うち。いつか書こうと思ってるんだよね、って聞いた覚えある。その瞬間に相手の女性の顔ががらっと変わったって聞いて、人って素敵やなって思った。


 

――藤谷さんは、西さんの作品をどのようにお読みになっていますか?

藤谷 西さんの作品は、生命力がある。『こうふく』二部作(*3)を読んでいても、「臆面もなく生きるんだ。それが大事なんだ」というテーマが、ガーンとストレートに出ている。一方、僕の書くものは装飾的で、生々しくない。
西  そうかなぁ。
藤谷 そう思う。自分で恥ずかしいもん。
西  装飾的っていうのは、言葉の選び方がすごくデコラティブで美しいっていうだけで、本質から離れているというわけではないと思う。
藤谷 僕はそれがコンプレックスなんだよ。西加奈子の人物造形力にはかなわないもんな。
西  そんなことないやん! うち、ずっと憧れてるって言ってるやん。なんでいっつもそう言うの。
藤谷 「褒め殺し」の平行線かっ(苦笑)。
西  いっつも飲みながら、「おめぇがすげぇ、おめぇがすげぇ。あっ、おかわり!」みたいなな(笑)。「俺のほうがすげぇ」よりいいけど。
藤谷 なんか、相互補完してるのかな。僕にないとこを西さんが書いて、西さんにないとこを僕が書いてる気がする。だから二人で描けば完璧な小説に……。
西  『冷静と情熱のあいだ(*4)』みたいな大恋愛小説! でも、うちらがやったら絶対、シモの話になるって。
藤谷 なんとか、カバーにウンコつけられませんか、って(苦笑)。
西  おまけでもいいでって(笑)。
藤谷 何の話だよ!? 冗談はともかく、これからの西さん、一ファンとして楽しみで楽しみでしょうがないな。
西  今年来年はめちゃめちゃ書く! 私生活に支障きたしてもいい。まだ間に合う。33までは取り返しのつかんことにはならん(笑)。やれるだけやりたい。
藤谷 僕は、体力が衰える前に、でかい仕事がしたい。
西  でかい仕事っていうのは?
藤谷 『ロリータ(*5)』みたいにほかのものは読まなくていいからこれだけは読んでくれっていうのを書きたい。西さんは5年後10年後に何してたいってある? 小説は書いててね。
西  絶対書く。あかんくなっても。
藤谷 なんか、作詞家とかになっちゃう気もするなぁ。
西  「True Love〜♪」とか(苦笑)。イヤやな、それ。
藤谷 すっごい売れちゃって、そっちの印税入るから、小説はもういいやって。
西  10年後とか、全然違くなってたらおもろいな。土地転がしてたり(笑)。
藤谷 派手な丸いサングラスして、僕のこと「藤谷ちゃん」とか呼んでたりして。
西  ちっさい犬とか抱いてな。お願い、そんときは殺して(笑)。
藤谷 いやいや、ひっぱたくくらいはするけどさ(笑)。
西  まぁ、お互い、頑張りましょう。

(『asta*』2008年10月号収録)
構成/編集部  撮影/根津千尋
 
【註】
* 1 「フィクショネス」
東京都世田谷区北沢にある、藤谷さん経営の「発信する書店」。
http://www.ficciones.jp/
* 2 桃子さん
小説『下北沢』の主人公・勇が恋するヒロイン。映画配給会社で外国映画の字幕翻訳の仕事をしている。
* 3 『こうふく』二部作
1991年の大阪の中学生・緑を主人公にした『こうふく みどりの』と、2039年の東京のプロレスラーの物語『こうふく あかの』という、どこかで繋がっている二つの物語のこと。
* 4 『冷静と情熱のあいだ』
男女別々の視点から綴られたベストセラー恋愛小説。男性視点は辻仁成、女性視点は江國香織によって描かれ、単行本は1999年に刊行された。
* 5 『ロリータ』
ロシア生まれの作家ウラジーミル・ナボコフの代表作。1955年にパリで刊行された。






青春音楽小説三部作
藤谷 治『船に乗れ!
注目されています。

藤谷治(ふじたに・おさむ)
1963年、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。会社員などを経て、下北沢に書店「フィクショネス」をオープン。書店経営のかたわら、2003年11月に『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』(小学館)でデビュー。著書に『おがたQ、という女』『恋するたなだ君』『いつか棺桶はやってくる』『またたび峠』(以上、小学館)、『洗面器の音楽』(集英社)、『二都』(中央公論新社)、『マリッジ:インポッシブル』(祥伝社)、『船に乗れ!』シリーズ(ジャイブ)などがある。


西加奈子(にし・かなこ)
1977年、イラン・テヘラン生まれ。大阪で育つ。関西大学法学部卒業。2004年5月に『あおい』(小学館)でデビュー。2005年に『さくら』(小学館)がベストセラーとなり、2008年『通天閣』(筑摩書房)で織田作之助賞を受賞。著書に『きいろいゾウ』『こうふく みどりの』『こうふく あかの』(以上、小学館)、『しずく』(光文社)、『窓の魚』(新潮社)、『きりこについて』(角川書店)などがある。



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下北沢で「箱貸し」の店を営む勇の日常は、穏やかで、それでいて騒がしい。翻訳の仕事をする常連客の桃子さんに恋をして、元アイドルのみずほの話に耳を傾け、変わり者の詩人・土蔵真蔵に付きまとわれ……。
今もっとも注目を集める作家が、〈街〉とそこに生きる〈人〉への愛を全開の筆運びで綴った、爽快で痛快で痛切なラブ・ストーリー。巻末に、作家・西加奈子と著者による特別対談の「表バージョン」を収録。


定価567円(本体540円)
ジャイブ ピュアフル文庫刊



※『asta*』は、ポプラ社グループのPR誌です。
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