金原 三浦さんは、小説とエッセイの二本立てですよね。小説はシリアスなものからポップ
なものまで、エッセイも軽いものから文楽の話までと、じつに幅が広い。エッセイを書くと
きと小説を書くときとで、スタンスは違うんですか?
三浦 違いますね。エッセイはネタさえあれば比較的書きやすいですが、小説はこれかなと
思ってもすぐには書けません。忘れたころに形を変えて出てくる。
金原 学生たちと話してると、三浦さんのようにエッセイと小説のどちらも書いている方の
場合、なぜかエッセイにファンが多いんですよ。例えば山田詠美さんもそうで、学生たちは
『熱血ポンちゃん』シリーズが好きだという。僕としては「ちょっと待て、小説読め」とか
思うんですけど。
金原瑞人氏
三浦 小説は個人の好みがはっきり出るのでむずかしいですね。エッセイは自分の嫌な部分を出さないで書ける。人間は人のいい部分を見るといい気持ちになるようにできていると思うんです。だから、エッセイが好き、という方が多いのはわかる気もします。小説はそうじゃない部分がどうしてもありますよね。
金原 三浦さんの最新作『光』はまさにそうかも。でも僕はとても面白かったし、エッセイと小説の二本立てでこんなにうまくいってる方って最近いないと思います。それで、三浦さん自身は、中高生のころはどんなものを読んでいたんですか?
三浦 日本の男性作家が多かったですね。ほとんど今はお亡くなりになってる方ばかりです。
金原 檀一雄とか、三島由紀夫とか?
三浦 そうですね。あとは泉鏡花とか坂口安吾とか。
金原 現代作家を読むようになったのはいつからですか?
三浦 大学に入ってからです。それまでは小説が純文学とエンターテインメントに分かれてるらしいっていうことにも、あまり気づいていなかったんです。




金原 気づいたきっかけは?
三浦 高村薫さんを読んだときですね。すごく面白いなあ、これはエンターテインメントと
いわれてるんだ、と思って。私はただ「小説」というものがある、とだけしか思っていなか
ったので、書店で置いてある棚が違っていたり、明確に区別されていることに驚きました。
金原 僕は純文学っぽいところで、三浦さんの作品を読んでいるんだけど。
三浦 私はいまだに純文学というものが何なのかよくわかっていないんです。例えば三島由
紀夫や川端康成を「純文学」だ、と思って読んでた方って、当時どれくらいいるのかなって。
すごくあいまいなものなのに、むりやり分けられてる感じがして……。
金原 たぶん、それを峻別するところに、ひとつの面白さがあった時代ってあるんですよ。
例えば片方に中里介山の『大菩薩峠』と白井喬二の『富士に立つ影』があって、もう片方に
純文学と呼ばれる作品群がある、というようにね。今はそのくくり方自体が面白くなくなっ
ていて、ノンジャンルで、ごちゃごちゃしてきた中から、たぶんYAみたいなものも表に出
てきた。でも、三浦さんはあんまりYAとか気にしなかったでしょ。
三浦 意識して読んではいないですね。
三浦しをん氏
金原 僕がYAの作品紹介をはじめたときは「YA」とい
うくくりがなかったので、子どもの本とか一般書とか、ジ
ャンルを横断していろんなところからもってきてたんです。
それで、三浦さんの『秘密の花園』を読んだとき、これは
YAにいいなと。ああいう作品を高校生、大学生には読ん
でほしいし、きっと面白く読んでもらえるという確信もあ
って、こっちに引きずりこんじゃった。すみません。
三浦 いえ、そんな。
金原 だから、いまさらくくる必要はまったくないんです
けど、金原なりに三浦さんはYA作家と呼ばせてくださ

三浦 すごくうれしいです(笑)。いくつになって読んで
もいいんですけど、特に中学生から高校生とか、迷いがち
な時期に読むと、より心にひびく作品が絶対にあると思う
んです。たとえば太宰治だってYAってことになります
よね
金原 そう思います太宰治坂口安吾あたりはもろYA
三浦 だからやっぱりジャンルは関係ないそういう作品
はいつだって書かれるわけですからね




金原 そういう作品から面白いものをピックアップするのが僕の役目だったわけで、それで
アンソロジーシリーズ『金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前に』も出したん
ですよ。ここでは毎回、作家の方に「特別講師」になっていただいて、日本の古めの作品か
ら一本選んでもらうことになっていて、第一巻は森絵都さん、第二巻は三浦さんにお願いし
ました。で、今回選んでいただいた檀一雄の作品はどういう理由で?
三浦 たまたまうちの本棚にあったものなんですが、中学生のときに読んで以来すごく好き
な小説なんです。
金原 僕は読んでびっくりしました。読者の方、本編はぜひアンソロジーで読んでください。
それから三巻目には、ぜひ三浦さんの作品を入れさせてください。一応候補は考えてあるん
だけど、書き下ろしでもいいんです。出し惜しみしてるいい短編が、ひとつふたつ残ってな
い?
三浦 そういうのはひとつもないんです。ストックがある方ってすごいなあ。私は常に空白
です(笑)。
金原 いつも自転車操業なんですか? それであれだけ書けるっていうのはすごい。なんか、
から雑巾を無理やり絞ってる感じ?
三浦 そうなんですよ。もう千切れる〜、みたいな(笑)。でも気にせず、締め切りを過ぎ
てから、ぎゅうぎゅう絞るんですけどね。
金原 その強みかな。ありがとうございました。

(『asta*』2009年4月号収録)
構成/石井千湖 撮影/根津千尋 



三浦しをん(みうら・しをん)
1976年、東京都生まれ。作家。『格闘する者に○』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞した。著書に『私が語りはじめた彼は』『風が強く吹いている』『光』などがある。『あやつられ文楽鑑賞』などのエッセイでも活躍。


金原瑞人(かねはら・みずひと)
1954年、岡山県生まれ。翻訳家。法政大学社会学部教授。YAの分野を中心に精力的に翻訳活動を行ない、訳書は300点を超える。エッセイ、書評などでも活躍。おもな訳書にアレックスシアラー青空のむこう、カート・ヴォネガット『国のない男』など。



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昼下がりに読みたい10の話


傑作短編を集めた、YAアンソロジーの決定版!
「編者」の金原瑞人氏が選ぶ傑作短編9編と、
「特別講師」の三浦しをん氏が日本の名作から
選んだおすすめの1編を収録した、YAアンソロジー。
文庫初収録作品も収録した、アンソロジー・シリーズ第二弾!!

【収録作品】
あさのあつこ 「真菜の来た夏」
芦原すなお 「雨坊主」
石井睦美 「きみに連帯のメールを」
大島真寿美 「げた箱は魔法のクスリ」
加納朋子 「白いタンポポ」
川島誠 「愛生園」
松村栄子 「窓」
森絵都 「フェスティバル」
山尾悠子 「月蝕」
檀一雄 「花筐」 三浦しをん推薦!

定価:本体590円(税別) ジャイブ ピュアフル文庫



※『asta*』は、ポプラ社グループのPR誌です。
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