金原 あさのあつこさん、佐藤多佳子さん、そして森さんの三人を、僕は敬意を込めて〈YA
三羽烏〉と呼んでいるんです。みなさんには「三人娘にしてくれっていわれているけど)。
佐藤さんのデビューが89年、森さんが90年で、あさのさんもほぼ同時期ですよね。
  その頃は、「ヤングアダルト」という言葉はほとんど使われていませんでした。YAが
これほど広がってきたのは、ごく最近のことですよね。
金原 僕は88年から3年間、朝日新聞で「ヤングアダルト招待席」という書評の連載をもって
いたけど、全然定着しなかったの。「YAってなに?」みたいな感じで。森さんも、最初は売
れてなかったよね(笑)。
  そうですね(笑)。90年前後って、おとなと子どもの中間の若い世代に向けた本自体が
売れなかったんです。おとな向けか子ども向け、このどちらかしかなかった。私は当時中学生
を書きたかったんですが、売れないからやめてくれという出版社の方も多かった。あさのさん
も売れなかったとおっしゃってますね。
金原瑞人氏
金原 でも、今から振り返れば、非常に面白い時代だったと思います。現在活躍しているYA作家3人が、ほぼ同時期に出てきたわけだから。当時人気がなかったにもかかわらず、ピンときた人が出版サイドにいたってことです。
 ところで、森さんはなんで中学生を書きたかったんですか?
  児童文学の専門学校に通いはじめて、最初の頃はタヌキやクマが主人公の童話を書いていました。でも、どうしてもどこかで読んだことがあるような話になってしまう。2年生の後半になって、14歳の女の子を主人公にして『リズム』を書いたときに、初めて自分のカラーが出せたような気がしたんです。これまでと手応えが違うなと。私自身20代だったので、10代の頃のことをまだ生々しく覚えていたんですね。だから自然に書けたんです。
金原 『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞して。それからしばらくはほとんど中学生ですよね?
  『DIVE!!』までは基本的に中学生です。YAにもいろいろありますが、私は主人公の年齢が重要だと思っていて。だからおとなの方に読んでもらえるのはもちろんうれしいけれども、主人公が14歳だったら14歳の読者が共感してくれたら一番いいなという感じで書いています。デビューして10年くらいは、書いても書いても読者の声が聞こえてこなかったので不安でしたね。初めて読者の声がダイレクトに届いてきたのが『カラフル』でした。




金原 『カラフル』が出たのが98年、そして2000年代に入るとヤングアダルトがブームになっ
た。僕は88年からずっと「いいよ」と言い続けてきたから、今の状況はうれしいんだけど
の先もブームが続いて売れ続けるかどうかに関しては正直なところあまり期待していないんで
す。ただ、YAというジャンルが注目されることで、新しい作家がどんどん出てくると面白い
なと。
森絵都氏
  今は出版社の方が「YAを書いてください!」と依頼してきますし、私も書き手の層が広がることには期待しているんです。それと、10代の物語は若い人が書いたほうがいいという思いもあります。30代でも40代でも若いときの感覚を覚えていられればいいんですけど、私は『DIVE!!』あたりから主人公に寄り添っているつもりがなんとなく「親目線」になってきたんですよ。このように変化するのは当然だと思うので、最近はいろんな年齢の主人公を書いています。読者層も10代から60代まで広がってきましたね。
金原 最新刊の『ラン』は主人公が22歳ですね。すごく面白かったです。直木賞受賞後第一作ということで、「次はやっぱりYAかな?」とか「いや、一般書でしょう」とか、下馬評が分かれたんですよ。ところが出てみると、おとなを主人公にしながら感覚はYAという、非常にうまいところに着地している。
  まず物語ありきで、そこから初めて主人公の年齢を考えるので、狙ったわけではないんですけどね。この話には、22歳の主人公だな、と思ったんです。
 




金原 今度は短編集を出すんだって?
  ずっと書きためてきたものをまとめて1月くらいに出す予定です。短編って、自分のパ
ターンみたいなものがどうしても出てくるんですよね。だから最近は、海外や日本の近代文学
を中心に、なるべく他の人が書いた短編小説を読むようにしていました。
金原 短編といえば、今回の『YAセレクション』で、「特別講師」としてお招きした森さん
に日本文学の古典からYAを、というお題で一編選んでもらったんですよね。
  もともと日本ではおとなと子どものはざ間にいるような、中間層に向けたものがなかっ
たですし、YAが表に出てきたのは最近じゃないですか。それなのに「日本の古典からYAを
選べ」なんて、とっても難しかったです。もしや嫌がらせかなって(笑)。
金原 でも、最近のYAのルーツをたどっていくと、1951年のサリンジャーの『ライ麦畑でつ
かまえて』になるんですよ。そういう意味で、日本の古典から持ってくるのも面白いんじゃな
いかと。いいんだよ、YA作家が「これが古典のYAです」って言えば、YAになっちゃうん
だから(笑)。
  そんないい加減な(笑)。
金原 結果的には大成功でしたよ。とてもいい作品を挙げてくださったじゃないですか。僕は
初めて読んだんですけど、ちょっとびっくりしました。一つのことを延々と書いているのに、
全然退屈じゃない。文章もかっこいいし。おとなの読者にもぜひ読んでほしいですね。

(『asta*』2008年12月号収録)
構成/石井千湖 撮影/根津千尋 



森絵都(もり・えと)
1968年、東京都生まれ。作家。
90年『リズム』デビュー後、児童文学の各賞を多数受賞。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞した。著書に、『カラフル』『ラン』など多数。

金原瑞人(かねはら・みずひと)
1954年、岡山県生まれ。翻訳家。法政大学社会学部教授。
YAの分野を中心に精力的に翻訳活動を行ない、訳書は300点を超える。エッセイ、書評などでも活躍。おもな訳書に、アレックス・シアラー『青空のむこう』、カート・ヴォネガット『国のない男』など。




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各短編の読みどころを解説した対談を特別収録。

【収録作品】
有島武郎 「小さき者へ」森絵都推薦!
いしいしんじ 「サラマンダー」
魚住直子 「おどる洗たく虫」
江國香織 「十月のルネッサンス」
恩田陸 「飛び出す、絵本」
角田光代 「『共栄ハイツ305』杉並区久我山2‐9‐××」
鷺沢 「真夜中のタクシー」
寺山修司 「踊りたいけど踊れない」
梨屋アリエ 「タケヤブヤケタ」
井亜木子  「おれがはじめて見た、茜色の果実について」

定価:本体560円(税別) ジャイブ ピュアフル文庫刊



※『asta*』は、ポプラ社グループのPR誌です。
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