講評

「黒揚羽の夏」

倉数茂(くらかず・しげる) 41歳・男性

 両親の都合で、祖父のいる七尾町で夏休みを過ごすことになった千秋、美和、颯太。台風の訪れたある日、携帯電話を拾った美和は、スピーカーから不穏な女の声を聞く。以来、町で相次ぐ奇妙な出来事に翻弄される3人。とあるきっかけで知り合った唯島姉妹と一緒にこれらの謎を追う中で、1950年代にこの町で起こった連続少女殺人事件との符合が浮かび上がり……。
 東北の田舎の夏、50年前にある少女が書いた日記の出来事、鉱山の映画サークルが残したフィルムの映像など、展開される場面場面が鮮やかに想起できるような、非常に視覚的な魅力にみちた作品。子どもたちの繊細で切実な心情や空気感も丁寧に掬いとられており、物語世界に読者を引き込む求心力がある。元女子プロレスラーや、盲目の若者、かつての事件を知る老医など、脇の登場人物も、忘れがたい印象を残す。物語が動き出すまでが冗長である点、謎の解決の積み残しがあるのではないかという点が指摘されたが、応募作品中群を抜いた世界観と描写力に高い評価が集まり、選考委員の満場一致で、大賞の授賞に至った。

「七人の三角ベ―ス」

永野拓哉(ながの・たくや) 34歳・男性

 暇をもてあましていた大学生・恩田は、ひょんなことからマンガ研究会のメンバーで、「マンガに登場した変化球を、ゴムボールですべて再現してみせる」という夢を持つ西郷と知り合う。ひと癖もふた癖もあるマン研のメンバーとともに、学園祭の部活対抗三角ベース大会に出場することになった恩田たちの前に、県下屈指の強豪である野球部が立ちはだかる。西郷らマン研と野球部の間には、かねてからの因縁があり――。
 ゴムボールを使った7人制三角ベースに挑む若者たち、という着想がユニークで、オリジナリティを感じた。マン研の面々も魅力的で、テンポのよい掛け合いは読んでいて楽しい。一方で、主人公であるはずの恩田の影が薄く共感しづらいなど、全体を通してディテールの書き込みが不足している。現状では、それぞれの人物が抱いている葛藤をうまく表現し、昇華できているとは言いがたい。シリアスな面を強調するよりも、徹底的にエンターテイメント路線にふったほうが、より持ち味を生かせたのではないだろうか。魅力的なキャラクターを生み出せる書き手なので、今後への期待を込めて奨励賞の授賞となった。

「空を突き破れ」

尾木直子(おぎ・なおこ) 39歳・女性

 100メートル走の選手だった、中3男子の薫。1年前の夏の大会で見かけた棒高跳びの強豪選手・枝川良の跳躍に魅せられて以来、棒高跳びに転向。だが、学内に指導者も理解者もおらず、ひとり孤独に棒高跳びと向き合う日々。そんな中、枝川が薫と同じクラスに転入してきた。あこがれの枝川を陸上部に誘う薫だが、その返事は「棒高なんか、やらない」というもので……。
 主人公ふたりの視点で交互に語らせる語り口や不幸が連鎖する展開はありがちではあるが、薫と枝川が抱える思春期特有の不安定さ、八方塞がりと思い込んでしまう閉塞感、幼さゆえの視野の狭さなど、厳しい現実に直面しているこどもの動揺する心理を丁寧に描こうとしていて、好感をもった。「いい子」「悪い子」という物差ししか持たない世間の価値観に息苦しさを感じる少年同士が、お互いの壁をこえ、徐々に信頼を高め関係を築こうとするくだりが読ませる。ただ、ミステリの部分と青春小説の部分が乖離していたり、主人公の行動原理が説明しきれていない部分が気になる。また、特に後半部分の展開に無理があるように思われ、課題は少くない。

全体総評

 小松エメル『一鬼夜行』(第6回大賞受賞作)、丁田政二郎『どがでもバンドやらいでか!』(第5回優秀賞受賞作)、郁子匠『レーシング少女』(第6回入選作)といったピュアフル作品を生み出した「ジャイブ小説大賞」は、ポプラ文庫ピュアフルへのレーベル移行にともない、「ピュアフル小説賞」として生まれ変わりました。その第1回募集には、139作品のご応募をいただきました。どうもありがとうございます。
 間違いなく、これまでのジャイブ小説大賞を上回るハイレベルな作品が集まりました。その中で、選考にかかわった編集部員全員が文句なしで推した『黒揚羽の夏』に大賞を授賞することができ、大変嬉しく思っております。他2作品は完成度の点から大賞・優秀賞の授賞には至りませんでしたが、書き手として魅力を感じるという声が多く、奨励賞とさせていただきました。詳細は、各作品の講評をご覧いただけましたら幸いです。
 次回第2回の募集にも、みなさまの渾身の作品をぜひお送りください。編集部一同、お待ちしております。

 長らくジャイブ小説大賞の選考委員を務めていただいた後藤竜二先生が、2010年7月3日、永眠されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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