加藤千恵(以下、加藤) 今日はお時間を作ってくださってありがとうございます。私は中学生の頃から岡村さんの音楽を聴いてきたんです。川本真琴さんのアルバムの中の収録されていた『愛の才能』を岡村さんが作曲されていて、そこでお名前を憶えました。それから別の音楽を聴いている時に「あ、あの曲を作った人だ」と思うことが増えていって、大好きになっていったんです。

岡村靖幸(以下、岡村) ありがとうございます。

加藤 そして今回、ついに小説にも登場させてしまいました。今までは小説にあまり固有名詞は出さなかったんです。個人的に思い入れがある名前を出しても、自分の意図通りに読者に伝わらないような気がしていて。でも創作の枠を狭めるのはよくないから、好きなものはどんどん書いていこうと決めた時、やっぱり岡村さんのことを書きたくって。父親のことを知らない女の子が母親から「あなたのお父さんはミュージシャンの岡村靖幸よ」と言われて育ったという設定ですから、失礼に思われたらどうしようと不安でもあったのですが……。

岡村 いえいえ、面白い話でした。こういう話って、僕に限らず、実際にありそうですよね。アメリカではたまに、非常に恵まれない人生を送っていた人が実はハリウッドスターの孫だった、なんて話が出てきますよね。事実の場合もあるし、そうでない場合もあるでしょうけれど。この作品集のように青春を描いた小説や映画というのは、いつの時代も人気がありますよね。

加藤 私自身、中高生くらいの世代の話が好きで、いつか自分でも書きたいという話を編集者としているうちに、同じ学校を舞台にした連作短編集を書こうということになったんです。

岡村 この作品の舞台は……。

加藤 具体的な地名は出していませんが、私の出身地の北海道旭川市をイメージしています。でも中学生の頃の記憶ってあんまりないんです。

岡村 僕は今でもたまに10代の頃を思い出しますよ。友達とよく話すのは、中学生の時のことをどれくらい憶えているか。学校にいく通学路を完全に思い出せるか、どんな柄の布団で寝ていたか憶えているか……。

加藤 え、布団なんて思い出せるんですか?

岡村 ある程度までは。だんだん記憶が薄れてきています。出てくる中学生たちはみんな鬱々とした気持ちを抱えていますよね。中学生時代っていうのはみんながアイデンティティを確立する前、つまり「俺はこれを持っているから負けないぞ」というものを獲得する前の状態なんですよね。

加藤 将来同級生の間で道が変わるともさほど思っていないですよね。あの頃はどこまでも自分の夢が広がっていたし、一方ではすごく限定されていた気もします。

岡村 いろんな子たちが教室というひとつの箱に入れられて、その中での評価や世界観に右往左往しているわけです。『春へつづく』のような小説は、キラキラしている思い出だけじゃなくて、そういうことを思い出させますね。

モテなかったあの頃

加藤 私もあの頃は完全に中二病だったと思います(笑)。岡村さんはどうですか。

岡村 いろんなことにおいて、報われない気持ちがあったように思いますね。モテたいのにモテない、とか。

加藤 岡村さんがモテなかったということはないんじゃないですか。

岡村 かんっっぜんにモテなかったです。

加藤 そうなのかなあ……。中高生にとって、自分がモテるかモテないかはかなり気になるところでしょうね。

岡村 そうでしょう。学生服が汚く見えるとかきれいに見えるとかで一喜一憂していたりしましたよ。髪型作るのも一生懸命で。

加藤 ああ、確かにそうでした。

岡村 あと僕は、何か救ってくれるものを求めていたようにも思いますね。僕が中学生だった頃はビデオデッキもなくてテレビ番組を録画して見るということもなかったから、夜、漆黒の闇と対峙することがよくありました。それで、なんとか救われたくてラジオにかじりついて深夜放送を聴いていました。

加藤 私、10代の頃に『ハッピーアイスクリーム』というはじめての短歌集に「世界中の本や音楽買い占めてなんとか夜を乗り切らなくちゃ」っていう歌を入れたんです。それは切実にそう思っていました。岡村さんは、中高生の頃、小説はよく読まれましたか。

岡村 読みました。10代の頃は小説を読むのがとても気持ち良かったです。

加藤 私、このあいだ、誰のために小説を書いているのか考えてみたんです。それで、中高生の頃の自分に向けて書いているのかも、と思ったんです。あの頃の自分に、学校がすべてじゃないって言ってあげたいのかもしれない。

岡村 僕は中学生高校生の頃、親と学校側に、勉強していくことや出世していくことの大事さ、およびそこからドロップアウトすることの恐怖感を植え付けられたんです。そこからちょっとでも外れると駄目になるんだっていう。そういう思っていた人は多いだろうし、人は出世やお金がすべてだと思いがちですけれど、それがすべてだと思わないでほしいですね。それよりは自分が好きだなとか楽しいなと思えるものがあるかどうかが大事でしょう。

新しくやりたいこと

加藤 そう考えると、私が大好きだったのは、音楽と少女漫画とお笑いですね。未だにその三本柱は大切です。音楽に関わる方を見てうらやましいなぁと思うのは、ライブでのあの圧倒的な一体感とエネルギー。小説も感想をいただけるととても嬉しいのですが、たとえば作品が10万部売れたとしても、みんなでいっせいに読書をして、感想を言い合い、感動を共有しあうという場はありませんし(笑)

岡村 たまに読書会などを開かれる方もいらっしゃいますよね。

加藤 たしかに。ただ、私もあまり参加したことはないんですが、ライブのように会場全体が一体になって「うおーっ!」と盛り上がる雰囲気ではないと思うので……。

岡村 「うおーっ!」という反応がほしいんですか?(笑)

加藤 私、チームプレイが好きなんです。本も、自分ひとりの作品というよりも、編集者やデザイナーさんなど一緒に本をつくってくれる人たちがいて、読者に届けてくれる書店員さんたちがいる――チームでありたい気持ちが強いんです。

岡村 バンドのような。

加藤 はい。私、今でも学祭がすごくやりたいんですよ。学生時代はバイトをしていてので、それほど真剣に取り組んでいなかったんですが、いまだったらものすごく張り切るのにと思います。岡村さんは音楽をつくられる際、周りの方の意見はどの程度取り入れられるのですか?

岡村 かなり参考にしますね。マッドサイエンティストみたいな音楽家もいいですけど、人の意見をよく取り入れられるほうが、クオリティが高いものができると思っているんです。納得いかないな、と感じたら意見を戦わせることもありますが、いいものですよ、人の意見を聞けることは。音楽はエンターテイメントですから。

加藤 作詞はいかがですか? 岡村さんの書く歌詞は、すごく素敵ですが……。

岡村 歌詞はものすごく推敲するんです。大変です。大変すぎるから、考え方を変えなきゃいけないって思っているくらい大変です。

加藤 私は作詞に憧れがありますが、そんなに大変なんですか。

岡村 やってみたらどうでしょう。それこそ、新しくやりたいこととして。

加藤 そうですね、10代に限らず、これからも新たにやりたいことや、これと思えるものを見つけていきたいなって思います。今日はありがとうございました。お会いできて嬉しかったです。今もまだ緊張しています。

岡村 いやいやそんな(笑)。

※『春へつづく』(ポプラ文庫ピュアフル)の巻末に、本対談のロングバージョンが収録されています。併せてお楽しみください。

プロフィール

岡村靖幸(おかむら・やすゆき)

1965年生まれ、神戸出身のシンガーソングライターダンサー。作曲家としての活動を経て、86年、「Out of Blue」でデビュー。唯一無二の独自性をたたえた楽曲と、青春や恋愛の機微を描いた瑞々しい詞で、圧倒的な支持を得ている。
公式サイト:http://okamurayasuyuki.info/

加藤千恵(かとう・ちえ)

1983年北海道生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業。2001年、短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビュー。著書に『卒業するわたしたち』『映画じゃない日々』『あとは泣くだけ』『ハニー ビター ハニー』『誕生日のできごと』などがある。

春へつづく