【Story】
担当していた雑誌が休刊になり、出版社を辞めることになったハナメ。ドロ沼のような人生をやり直そうと、身の回りの荷物を処分した矢先に衝撃の手紙を発見する。それは、ハナメの父親が「沈丁花ノブロウ」というまったく知らない男ということだった…


(c)2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ
【キャスト&スタッフ】
監督・脚本:三木聡
出演:麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、
松坂慶子ほか
絶賛公開中!
担当していた雑誌が休刊になり、出版社を辞めることになったハナメ。ドロ沼のような人生をやり直そうと、身の回りの荷物を処分した矢先に衝撃の手紙を発見する。それは、ハナメの父親が「沈丁花ノブロウ」というまったく知らない男ということだった…

驚いた。この映画見聞録を書くようになって四度目の三木聡監督作品だ。懲りずにまた書く僕も僕だが、それにしてもなんて多作な監督だろう。しかも、僕は三木監督作品の映画はこれまで全部観ているが、ここで紹介しなかった作品もまだ存在する。取り上げなかった理由は、タイミングが合わなかったために書けなかったというのはもちろんだが、もう三木監督作品については書くことがないだろうという理由が大きい。当然、三木監督はこれからも撮り続けるだろう。だったらこうなれば、僕も新しい作品を観たら絶対にここで紹介すると自分に重荷を課すというのはどうだろう。もう書くことがなにもない。それでもなにかを書かなければいけない。これこそファン冥利につきるのではないか。
本当に、三木監督の映画になにか言おうとすればするほどバカを見るようで、こういったところでなにか書くのは難しい。粋ではないのを承知で書かなければいけない。僕は映画評論家でもないので、分析的に書くなんてしないし、そもそもそんなことをすると、たちまち三木監督からしっぺ返しを食らってしまう。だからもう最初から諦めてしまって、それこそ主演の麻生久美子がとってもかわいくて、自由奔放に楽しそうに演じていたことについてファンレターのように延々と書いたほうがまだマシな気もするが、そうすると今度は本当のバカだと思われるし、誰も読んではくれないだろう。だから、今なにか言おうとしてやがる僕はどうやったって、監督のナンセンスさによってバカにされてしまうのだ。
ナンセンスという笑いの多くには、素人臭さがつきまといがちだが、今回の作品は今までの作品からさらに、笑いとはまた別のセンスの良さ(という言葉自体どうかと思うが)によってエンターテイメントへと昇華させているとでもいうのか、その別のセンスとは「おしゃれ」という言葉で説明もできるが、映画の中でも「おしゃれってむかつくよね」と突っ込んでもいるように、監督自身、誰かに言われる前に当前自覚しているだろう。それでもそのポップなセンスの良さは十分に監督の世界の一つになっていて、作品というものの側面の内の一つが表現者の美意識の凝縮だとするならば、三木監督の作品性はますます確立されたものになっている。それは硬直化の危険性を孕んでいるが、三木監督の場合、その多作さに表れているようなエネルギッシュな攻撃性と脱力させる笑いという武器によって、そんなものを楽々と吹き飛ばしてしまうだろう。
いつも通りの、これでもかと繰り出す笑いの過剰サービスが延々と続く。異常にカット数が多く、台詞一つひとつにカットがあるとすら思える。画面の中には所狭しと小道具がしきつめられ、その一つひとつが笑いを生む大事な要素になっているため、どんどんテンポは加速していく。笑い終える暇を与えられる前に次の笑いが発生している。それらを繋げるテンポが素晴らしかった。映画を観終わった後は頭の中がぐらぐらになっている。けれど、いつも爽快な気分だ。価値観が生まれる気配がする途端、全ては笑いによって掻き消されている。それは、なんてパンクなんだろう。

作家。1980年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。
2004年『真空が流れる』で第36回新潮新人賞を受賞。
著作に『オブラディ・オブラダ』(光文社)、『陽気で哀しい音楽に』(ポプラ社)がある。