映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

発表する小説は常に話題となり、気ままで贅沢な暮らしを楽しむサガン。自由奔放な彼女に恋の相手は大勢いたが、最初の結婚は失敗に終る。一人息子に恵まれながらまたも破局した2度目の結婚。傷心の中、サガンは執筆に打ち込むと共に、酒や浪費も増えていく。そんなサガンを支え、変わらぬ愛情をくれた親友ペギーも、ある日、不治の病を宣告される……。

 

2009年6月6日(土)、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座他、全国ロードショー

 

Review

西山繭子

 私とフランソワーズ・サガンの出会いは高校生の時だった。本棚にあった黄色く日に焼けた文庫本「悲しみよ こんにちは」。奥付を見ると“昭和五十年 七十刷”と記されていた。自分が生まれる前に刷られた文庫本を、高校生の私は鞄に入れた。夏休みだというのに、遊ぶ間もなく部活動の日々。私は小田急線にごとごと揺られながら、物語の主人公セシルがいる南フランスの美しい情景を頭の中で描いた。その世界観に魅了され、そしてセシルの葛藤を反抗期の自分と重ね合わせた。その時の対象はセシルでしかなかったけれど、私が重ね合わせたのは実はサガン自身の葛藤だったのだろう。この物語を書いた時、いや、映画のサガンの台詞を借りると『この物語を描いた時』、彼女は18歳の女の子だったのだから。
 人間にはそれぞれ違う人生がある。そこに第三者が優劣をつけるなんて出来ないけれど、興味を惹く人生というのは存在する。それが作家の人生となると、私の好奇心は大きく揺さぶられる。フランソワーズ・サガン(1935年―2004年)、今でも世界中に愛されるフランスの女流作家である。彼女の人生には、様々な事件がまとわりついていたが、それを波乱万丈という言葉で表すのはピンとこない。波乱万丈というのは、「そうなってしまった」という状態のイメージがある。サガンの場合は、彼女自身が人生をあえて激しい方向に導いていた。「破滅するのは私の自由」彼女が吐いた有名なこの言葉。強気で勝手な女性のようだが、どこか物悲しい。誰かに助けを求めたいサガンの悲痛な叫びが見え隠れしている。
 執筆作業というのはとかく孤独である。本の中できらびやかなパーティーが開かれていたって、恋人同士が甘い会話をしていたって、それを創作している作家は一人で黙々と原稿を書いている。書いている時には気づかない孤独。筆を止めて、一息ついた時、それはやって来る。自分は誰のために書いているのだろうか? この作品を人はどう思うのだろうか? 誰一人読みたくなかったら? 孤独が不安を増幅させる。18歳で作家としてデビュー、そして大成功をおさめたサガン。彼女の人生はその孤独から逃れることを求め続けた時間だったのではないだろうか。作品は世界中に愛されている。しかし彼女は自分が愛されることを常に渇望していた。愛がなくなることが彼女にとっては一番怖いことだったのだろう。おべっかしか言わないとりまき達を従えて、安心感を求めようとする。成功した人にありがちな行為。実際にそんな人間を私は何度も見てきた。馬鹿みたいと思う反面、羨ましくも感じる自分がいる。私は人生において成功や勝利を手にしたことはない。役者業も作家業もどちらも首の皮一枚。いついなくなっても誰も悲しまない。悲しいけれど、それが現実。そんな状況にあるからこそ、どちらも続けることが出来る。いつの日か日なたに行きたい。そんな希望を抱いているから、まだふんばれる。だから成功した者に対して、私の心の中には羨望しかない。その成功の影にある代償など、そこに立った者でしかわからないだろう。映画の中で、心が満たされないサガンの姿を見て、成功するのが怖いなんて思わない。それどころか、ますますその場所に行きたいと思った。
 反抗期の高校時代に出会ったサガン、それから幾年もの時が流れた。私はサガンと再会し、またしても魅了された。彼女の作品を愛する人も、まだ読んだことがない人も、この映画を観てサガンに惹かれない人間はいないだろう。

プロフィール

西山繭子(にしやままゆこ)

1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html

 

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