映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

イスラエル占領下のゴラン高原、マジュダルシャムス村。今日は村の娘モナが、親戚にあたるシリアの人気俳優タレルに嫁いでゆく日。モナは純白のドレスを手に、結婚式の準備のため、姉のアマルとともに村の美容院へと向かう。ウェディングドレスに身を包まれているモナだが、悲しげな顔をしている。姉アマルは、結婚の一日を記録するビデオカメラに向かって、花婿タレルへのメッセージを語り出す。「今日が姉妹最後の日。私の宝をあなたに託す」。家に戻ったモナは、村の人々の祝福で迎えられる。 

 

2009年 2/21(土)より岩波ホールにてロードショー! ほか全国順次公開

 

Review

西山繭子

  幼い頃、軽井沢のチャペルで綺麗な花嫁を見た記憶がある。広がる緑色の森の中で純白のウェディングドレスを身にまとった花嫁は、世界中の幸せが注ぎこんだと思えるほどの微笑みを浮かべ、瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。女の子なら誰もが憧れるその姿。花嫁はその日、人生で最も美しく輝いている。そうであることが当然なのに、この世界では悲しいことに違う涙を流さなくてはいけない花嫁がいる。
 今年に入ってからイスラエルの情勢は悪化の一途を辿っている。もう何年も誰にもその出口は見えない。私はここ数年ずっと、ヨルダンとイスラエルへの旅に出たくて本やネットで色々と調べ事をしてきた。新聞に出ている関連記事にも目を通してきた。しかし、非常に複雑で、私の理解の範囲を超えることが多い。そして、この映画を観てまた私の旅が少し遠のいた気がした。
 「シリアの花嫁」というタイトルだけを見るとアラブの美しい花嫁の姿が目に浮かぶが、結婚式当日、主人公のモナに笑顔はない。ウェディング・ドレスを身にまといながらもその表情はどこか物憂いだ。私はその理由を知って愕然とする。ゴラン高原に暮らす彼女はシリアへと嫁いで行く。それは同時に愛する家族との永遠の別れを意味しているのだ。私だったら家族と離れるぐらいならば一生独身でも構わない。しかし、国と文化の違いは大きい。イスラム圏ではそれがまかり通らないという事実にまた胸が痛んだ。一度も会ったこともない結婚相手。姉のヒアムは「絶対に幸せになれる」とモナを励ます。私には姉がいるので姉妹の関係性が映画に描かれると人一倍心を揺さぶられる。姉が嫁ぐ時、私は大好きな姉を取られてしまうようで結婚式で号泣した。モナとヒアムを見ていてそんな自分がどれだけ恵まれているか恥ずかしくなった。家族を永遠に隔てるゴラン高原。拡声器を手に近況を報告し合う人々の姿は、政治や歴史面から頭で理解できたとしても、心では納得できない。いや、決して納得してはいけないことなのだと思う。世界をたやすく動かすことはできない。だから私達は少しでも現実を知っておくべきなのだ。日本が平和であることを「平和ぼけしている」と嘆くのはおかしい。私は平和であることを誇りに思うし、平和であるからこそこの映画に出会えた。「知ること」が、平和な国で暮らす私達の使命ではないかと思う。
 映画の中で父親の存在は絶対的なものであった。娘の結婚式当日にデモに参加するほどの父親。以前、1週間ほどイスラム教徒の家族と過ごしたことがある。モロッコの片田舎に暮らすその大家族は敬虔なイスラム教徒だった。男は働き、女は家を守る。家から一番近くのひらけた町へと行くと、周りは男ばかりで私には異様な風景に見えた。まだまだ女性が外に出ることが良しとされていない世界。それを一概に不幸とは言えないが、映画の中で姉のヒアムはそのことに疑問を感じ、そして自分で動き出そうとしている。男が強い社会の中で、女の強さは一層際立つ。花嫁のモナは悲劇的な境遇にいながら、それでも自分の幸せを見出そうと歩き出す。人間は不幸になるために生まれてきたわけじゃない。誰しも幸せになる権利を持っている。冒頭に書いた記憶の中の花嫁とは幸せの形は違うけれど、心の奥に秘めたものは一緒なのかもしれない。明るい未来を信じる心。
   この広い世界でどんな境遇にいようとも、人間が願うものはみな同じなのだということを改めて感じさせてくれた映画でした。

プロフィール

西山繭子(にしやままゆこ)

1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html

 

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