ついさっき、友人から川島雄三監督のお墓参りに行ったというメールが届きました。ただいま青森県下北半島で新婚旅行中なのですって。よいなあー。来年生誕90年を迎える雄三さん(すごく馴れ馴れしいですが、こう呼ばせていただきます~)ですが、ただいま、東京・京橋の国立近代美術館フィルムセンターにて特集上映が絶賛開催中です! こちらは、代表作である『幕末太陽傅』が作られてから、半世紀の節目の特集とのことです。ふむー。そんな切り口だったのですね。思わずときめきいてしまいました。
今回はこのときめきの川島雄三監督についてご紹介しようと思います。
まず、雄三さんはどんな監督だったのかというと、ひとことでは説明しにくい不思議な監督でしょうか。巨匠、名匠というよりは、鬼才と称されることが多く、日本映画史においても変り種です。スタンダードな文芸作品から、カルト色のつよいトンデモ作品まで多ジャンルにわたる作品群や、傑作と失敗作の落差が激しすぎるということも、つかみどころがないように思われる一因かもしれません。型にはまることを嫌い、シニカル、破綻、はみだし、戯作、悪ノリなど、形容される作風はひねくれッ子な印象を与えるものでした。トイレのシーンが欠かせないというのも有名です。武士と町人がトイレで横並びする構図を「本邦初デス」と喜んだり、肥え汲みをする少年僧の目線の延長になまぐさ坊主と愛人の情交シーンがあったり、通天閣を見下ろしながら立ち小便するラストシーンを作ったり。これらは雄三さんらしい稚気にとんだ演出で、思わずクスリとさせられると同時に、普通なら秘すべしところを、敢えて取り入れ続けた「照れ」も感じられて可愛らしいです。
そんな雄三さんの多彩な作品の中から、『しとやかな獣』をご紹介します。これは団地の一室を舞台に、欲望にとらわれた人間たちをドライなタッチで描いた雄三さんの晩年の代表作のひとつです。この作品には誰一人として良い人は出てきません。みんなが自分の欲に忠実なエゴイストです。戦後にうまく対応できない退役軍人の父親は娘を作家のお妾にやり、息子には会社の横領をさせ、団地で悠々自適の生活をしています。その息子が勤める会社の社長は帳簿をごまかし、愛人に夢中。その愛人である会計係は「わたしだけの城を築かなくちゃ」と言いながら、男たちを騙してお金を巻き上げます。このいちばんのしたたか者の会計係を演じた若尾文子の悪女ぶりがすばらしいのは勿論ですが、母親を演じたクール・ビューティ・山岡久乃も一筋縄ではいかないかんじでよいです。家族全員がむき出しの欲望をぶつけあう中で、彼女はたたみかけるように言います。「ものごとを剥き出しにしてはいけません。」「およしなさい。下品です。」たしなめているようですが、たんなる装いです。このストレートを外す調子は雄三さん作品の面白さのひとつだと思います。
また、監督をして「相当の馬鹿です。」(=最高の賛辞)と言わしめた、小沢昭一(「コノ、アパートメント、エレベーター、ナイーノ?」と巻き舌のカタコト日本語を話すジャズ・シンガーのピノサク役。ベトナムとハワイの混血らしい……)のはじけっぷりは、画面に登場するだけでおかしさを誘います。彼は横領の一被害者として登場するのですが、必死に帳簿の穴を埋めようとする社長の直情型雄叫びと対照的に、始終コミカルに振るまいます。このアンバランスさが奇妙に喜劇性へと結びついていくさまが見事です。
ここにあるのは勧善懲悪でもないし、悪こそ栄えるということでもない。メロドラマや人情もののようなウエットさも無縁。かと言ってサツバツとするところまでやりすぎたりしない。対象を追いつめる粘着性からは自由だけれど、どこかしらしぶとさが見え隠れしている。この微妙な多元性が雄三さん作品だと思います。そして、喜劇的振るまいのみならず、何事も極まると「笑い」に辿りついてしまうということを雄三さんの作家態度は示しているような気がします。
『映画監督・川島雄三
Yuzo Kawashima Retrospective』
『しとやかな獣』
日本映画史不朽の名作『幕末太陽傳』公開から50年……。軽妙な喜劇から人間存在の深淵に迫るメロドラマまで、川島雄三の名作がフィルムセンターのスクリーンで蘇る! 現在、東京国立近代美術館フィルムセンターにて開催中の川島雄三監督特集では、上映機会の少ない松竹時代の作品を加えて、同監督の特集としては史上最大となる計39作品が上映されています。
【開催要項】
会期:2007年6月12日(火)~7月22日(日)
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 大ホール
料金:一般500円/高校・大学生・シニア300円/
小・中学生100円



