映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 世界最大級の沖縄美ら海水族館に、新任獣医としてやってきた植村一也は、“イルカのことを知らなければ治療はできない、データを見るだけの獣医はいらない”という館長の福原(山崎努)の方針で、飼育員の仕事をさせられていた。悪戦苦闘する中、3頭の子どもを産み育ててきたために水族館の“ビッグマザー”と呼ばれるイルカのフジにもようやく受け入れられ、沖縄での生活にもようやく慣れてきたある日、突然事件が起こる。

Review

西山繭子

 映画やドラマで「動物と子供には適わない」という言葉を聞く時がある。私は決してそうは思わないのだけれど、この映画を見た時のイルカの頭の良さにはやはり感心した。確実に私より芝居が出来る役者であったイルカのフジ。しなやかに空へと高くジャンプするフジは本当に美しかった。イルカ=癒しの生き物、と感じる人も多いが、私はイルカには癒しよりもむしろ激しいパワーを感じる。海に暮らす生物が空高く飛ぶなんて、あの体の中にはとんでもないエネルギーが秘められているのだと思う。あまりにも少女的な言葉だが、29歳の私が言ってしまおう。イルカの背中に乗って飛んでみたい。

 『ドルフィンブルー』は実話に基づいた映画である。沖縄県にある世界最大級の沖縄美ら海水族館。そこにいるバンドウイルカのフジの尾びれが原因不明の病気で懐死してしまう。フジを取り巻く人々が、フジのために人工尾びれでもう一度フジを空高くジャンプさせてあげようという物語だ。これだけ聞くと、「そんなのイルカが再生してくれって言ったのか?」と思う人もいるだろう。映画の中でも、そのことで新任獣医・一也(松山ケンイチ)と飼育係・剛(池内博之)がぶつかり合う。動物は言葉を知らない。しかし、わからないのではないのだ。その言葉に乗っかっている気持ちを理解することは出来る。フジは、きっとみんなの気持ちを理解していたのだと思う。イルカは知性が人間同様にあると言われている。イルカセラピーなるものも存在する。姿かたちはまったく違うのに、人間に近いというのは本当に不思議だ。そして、イルカが嫌いだという人間を私は見たことがない。お互いが本能的に近しい存在だということを知っているのかもしれない。

 フジの人工尾びれを作ったのはブリヂストン社だった。始めは難色を示していた会社の人間も一也の熱意に動かされることになる。イルカの一部をタイヤメーカーに頼むという意外性にも驚かされたし、何よりもイルカ1匹が再び空へ飛べるように大企業が動いたということに胸を打たれた。

 今の世の中では、とかく悲しいニュースばかりが取りざたされる。そして「ひどい時代です」とコメンテーターが嘆く。どうして、こんなに素晴らしい話をもっともっと報道しないのだろうか? 私は人間が悲しいニュースを教訓に成長することはないと思う。こうした、人間の本来持っている温かさをを知ることで、心が豊かになるのだと思う。少しでも多くの人に知ってもらいたいだけに、この物語が映画として世の中に出ることは非常に嬉しいことだ。

 この映画が教えてくれるのは、諦めない気持ちだと思う。フジの周りの人々は、決して諦めることをせず、何度も何度も人工尾びれの改良を重ねる。そして、その心をフジは理解し、フジもまた諦めずに人工尾びれでのリハビリに励んだ。その姿はとにかく美しい。沖縄という土地が、さらにその美しさを際立たせる。沖縄はどこか神秘的なところがある。精霊のようなものが存在する気がするのだ。以前、沖縄に長期の撮影で滞在した時の注意事項に「御嶽(うたき)に入らないこと」と書いてあった。私は、御嶽の前を通り過ぎる度に、言葉には出来ない何かを感じた。そして、「守られている」と思った。本来の人間らしい心や営みと守っているのだと。美ら海水族館の人々も、それを感じていたのではないだろうか。

 夏休みにどこも行けないという人も、この映画を観て少しでも沖縄の土地の香りを感じて、そして美しいイルカ、諦めない心を持った人々を知ることで豊かになれるのではないかなと思います。

プロフィール

西山繭子画像
西山繭子(にしやままゆこ)
1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html
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