映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 都会の中では日常的に見られる引っ越し。それぞれの理由から、今日も誰かがこの町を去り、誰かが新たにやってくる。そんな都会に暮らすユイ、タカシ、アツコの三人も“引っ越し”を機に偶然出逢い、やがて心を通わせてゆく…。

Review

西山繭子

 この映画を一言で表すならば「きゅん」なのである。映画を見終わった後に、私の心はきゅんきゅん鳴りっぱなしだった。

 私の憧れの一つに引っ越しがある。私は今の家に22年間住んでいる。飽きたとかそんなレベルの話ではなく、もうどうでもいいという状態である。インテリアだの雑貨だのは、私の中では夢物語の中にある。二段ベッドで眠り、小学校入学時に買ってもらったキキララの勉強机で原稿を書く。だからお洒落な家というものには人一倍の憧れがある。家というのは、その本人がすごく出るものだと思う。物のない無機質な家、ごちゃごちゃと小物が置かれた家、掃除をしてない汚い家。私は人の家を見るのがすごく好きだ。どんなにくつろげる雰囲気だとしても、本人以外にとっては少なからず居心地の悪い場所なのである。恋人の家に入り浸るなんて、私には出来ない。

 本編の主人公・ユイは、初めての一人暮らしのために引っ越しをする。ユイは美大生、そこがまたお洒落だ。私は先天的に物凄くセンスが悪いので、美大生と聞くだけで尊敬してしまう。新しい家をとりまく、新しい環境と運命の出会い。私に運命の出会いがないのは引っ越しのせいということにしたい。
 引っ越しというきっかけで一つの線となったユイ、タカシ、アツコ。このキャスティングがまた絶妙だった。新垣結衣ちゃんを素直に「がっきー、超可愛い」と思った自分がいた。スタイルも良くて、人並みはずれているのに何故か親しみを感じさせるところがある。そしてタカシを演じる松田龍平くん。元恋人に未練たらたらなのを淡々とした口調で話すところが何とも愛らしい。色っぽい上に可愛さまであるなんて羨ましい限り。アツコ演じる菊地凛子さんはユイが憧れる女性。私より年下だけど、やはり憧れてしまう。いつか一緒にお仕事ができたら幸せだ。そのアツコが言う「引っ越しすると嫌でも色んなものが片付くからね」という台詞が印象的だった。そう言いながら、表情はどこか吹っ切れていなくて切なかった。私も、色んな壁にぶつかるたびに引っ越しや留学が頭をよぎる。何かを劇的に変えたら、うまくいくんじゃないかと。でも実際に心はそう簡単には片付かない。

 この映画は大九朋子さんという女性監督の作品だ。もともと女優さんだったらしい。監督が男だの女だのとこだわるのは小さいかもしれないけれど、やはりこの映画は女性監督ならではの温かさがあった。映画の中にも登場するのだが、たくさんの「にっこり」がちりばめられている。人は誰でも心がにっこりしている方が良いに決っている。そのにっこりを見つけることは決して難しいことではないと思う。私はそれを見つけていくのは、もちろんのこと、自分が書いた小説や参加する作品で、偉そうだけど色んな人ににっこりしてもらいたい。この映画を見て、改めてそんなことを強く考えました。「恋するマドリ」でみなさんも、きゅんきゅんにっこりして下さい!

プロフィール

西山繭子画像
西山繭子(にしやままゆこ)
1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html
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