映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 とある山間の寒村で源義経率いる源氏ギャングと平清盛率いる平家ギャングが、村に言い伝えられるお宝をめぐって血なまぐさい抗争を繰り広げていた。そこへ、心に傷を負った流れ者のスゴ腕ガンマンが現れる。彼がどちらの用心棒につくのかそれぞれの思わくがぶつかり合う中、源平の戦いは激化していく。

Review

佐藤弘

 まともな大人がこんな映画を作っていいのだろうか。
 観ている時も、観終わった後もそう思った。この映画の異常さは、冒頭の数分間ですぐに分かってしまうだろうが、重要なシーンはその後の、用心棒のガンマン(伊藤英明)を中心に平家と源氏が対峙する場面に違いなく、観ている者はその数秒でスクリーンに惹き付けられる。それは本当にかっこいいシーンで、両軍がピストルをぶら下げながら、男達がウエスタンと着物をいり混ぜたような派手で鮮やかな衣装を着込み、最前列に並んだ俳優陣はキャストを見れば分かるように超豪華な面々が並ぶ。三池監督以外に誰がこんな俳優陣を集められるだろう。映画の始まりを告げるこのシーンで三池監督と他スタッフの意気込みのすさまじさが伝わろうというものだ。そこにはぞくっとするような緊張感があるのだった。背景美術は戦国時代風の寂れた村のようでありウエスタン村のようでもある。僕のように事前に映画に関する情報を入れない人は、さっきから何を言っているのかさっぱり理解できないだろうが、この映画自体の発想がなんでそんなことするんだろうという不思議なことばかりなので、一向に構わないというか僕は全然悪くない。銃を撃ち合うウエスタン映画を撮るのに平家物語を引用し、タランティーノ以外の主要な役者は全て日本人なのに全編英語という、そんなことしちゃっていいのかよということばかりで、色々深読みしようとするのだが、多分、一番的を得ている答えは、三池監督がやりたいエッセンスだけを詰め込んだというただそれだけなんじゃないかと思う。
 もちろん、それが観たかったのだ。私事で恐縮だが、久しぶりの三池映画だったので、テレビCMすらも見ずに楽しみしていた映画だった。フライヤーでさえ表紙だけ見て内容の書かれた裏を見なかった。どれほどドキモを抜かれるか心躍らせながら映画を観ていたのだが、楽にその上を飛び越えられた感がある。物語はあってないようなものだ。複雑さは皆無で、どこにでもありそうな類型的なお話が次々と並ぶが、「ジャンゴ」が他の映画とは比べ物にならないほど異常なのは、作った監督自身がそんなお話をまるで大事にしていないからだ。退屈な物語からの飛躍を、監督はある種の「笑い」によって飛び越えるのだが、その飛躍の突き抜け方が尋常じゃなくしているのは、「笑い」の方法だけでなく、人物の扱い方、顕著なのは、やはり暴力的な場面で、どうすれば過剰さを生み出すかに苦心しているように思う。だから「笑い」が目的ではなく、過剰であるがゆえに「笑い」になってしまうといったものだろうか。もっといえば、かっこよすぎて笑ってしまうのかもしれない。
 でも、この映画が娯楽映画となりえているのは(今、HPを見たらあれだけ殺戮シーンがあるのに年齢規制がないので驚いた)、俳優陣の顔のきれいさなんじゃないか。三池監督がこんなに豪華なキャストを集めたのは、もしかしたらそこに理由があるのかもしれない。別に有名でなくとも名優はたくさんいる。これほどまでに殺戮シーンの連続と、血が飛び泥にまみれる映画なのに、案外さっぱりしているのはなによりも俳優陣の顔がかっこいいからじゃないか。とふと思ったのは、この映画は「スキヤキ・ウエスタン」と名付けられているが、銃を撃ち合うのだとしてもウエスタン映画にあるような(ウエスタン映画なんてほとんど見たことはないけれど)ダンディズムのようなものはほとんどないことだ。「荒野の七人」も「荒野の用心棒」もどちらも黒澤明映画に影響を受けているのは有名な話だが、そう考えると「ジャンゴ」はきわめて黒澤よりだ。しかし、当然かもしれないが同じ日本人の三池監督が黒澤映画の二番煎じの映画を作ろうとしなかったのは、「ジャンゴ」を芸術作品というより娯楽映画の極地へともって行きたかったからじゃないか。当時の娯楽映画だったろう「七人の侍」と、それを元ネタとして作られたウエスタン映画の娯楽要素を凝縮して現代に通用する映画にすることこそが、インディーもメジャーも噛みつくした三池監督の野望なのではないか。そう思うと、「ジャンゴ」には三池監督の美学が詰められているようだ。

プロフィール

佐藤弘(さとう・ひろし)
作家。1980年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。
2004年『真空が流れる』で第36回新潮新人賞を受賞。
著作に『オブラディ・オブラダ』(光文社)、『陽気で哀しい音楽に』(ポプラ社)がある。
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