映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 少年、茂樹は10歳の頃、自分の部屋を初めてもらう。その部屋の窓から外を眺めると、丘の上の大きな家の窓に少女が見えた。一瞬にしてその少女に心を奪われた茂樹。少女の名は弥生。天体望遠鏡を買ってもらって、茂樹は弥生を見続けた。だがしばらくして、茂樹は引越すことになる。自分の事を知らない弥生にラブレターを投函して、茂樹は街を離れた。大人になった茂樹は、ガソリンスタンドで働きながら、相変わらず弥生を見続けていた。誰も傷つける事はなく、自分も傷つかないように、茂樹は静かに暮らしている。ある日、いつものように弥生を見ていると、彼女の部屋に男が現われる。そして、二人はキスをした。茂樹はショックを受け、自暴自棄になる。

Review

西山繭子

 私は双眼鏡を持っている。オペラグラスではなく、がっちりとした双眼鏡。確かフランスW杯に行く時に買った物だと思う。初めて手にした時、マンションの屋上で随分と長い時間色んな所を見ていた。だいぶ怪しい光景だが、はまってしまった。他人の家を覗きながら、いけないことだと感じる罪悪感と向こうからはこちらがわからない優越感が入り混じる中、遠くを“近く”で見つめていた。

 映画「観察」は40年間、1人の男が恋した女を見続ける物語である。天体観測用の望遠鏡を覗き込み、ただただ彼女の日常を見つめる。人は誰かに恋をした時に、その相手をまずは目で追うようになる。その相手のひとつひとつの動きに心を揺り動かされ、そして自分が恋をしていることを自覚する。次に、その相手に触れたくなるというのが当然の感情なのだけれど、主人公の茂樹はその段階を胸に仕舞い込んだ。男と女が恋に落ちた時、その先にある道は2つしかない。一生一緒に歩むか、別れるか。しかし、出会わなければ、一方的ではあるが永遠の恋を手に入れることも可能だ。茂樹は、それを選んだ。見続けられる弥生は結婚をし、子どもを産む。茂樹もまた結婚をし、子どもを授かる。しかし、二人の関係性は変わらない。見つめ続ける男と見つめ続けられる女。これだけを聞くとストーカー的行為と思う人もいるだろう。私はストーカーと究極の恋の形は、すごく近い位置にあって、いつどちらへ転がるかわからない危うさを持っていると思う。相手が迷惑だと思えば、もうそれはストーカーでしかないのだが、恋をしているとそれが見えなくなることもある。相手との距離感がどんどんと掴めなくなるのだ。

 映画の中で弥生が言う。「私、人との距離感がうまく掴めないんです」ふと考えた。果たして私は人との距離感を掴めているのだろうか。歳を重ねるごとに、人に近づくこと近づかれることが、時に鬱陶しく、怖くもなる。自分の全てを知られてしまう怖さであり、再び離れられてしまうかもしれない怖さでもある。それは、自分を守るための防衛本能みたいなものでしかないのかもしれない。弥生同様、茂樹も距離感を掴めない自分を知っていた。レンズ越しに動く弥生、風になびく髪の毛も一瞬のまばたきも茂樹は全てを目に映しているのに、その距離はもの凄く遠い。茂樹の切ない思いがひしひしと伝わってくる。「見ているだけじゃ始まらない」という恋の鉄則のような言葉を思い出したが、この映画を観て、見ているだけで始まり、そして終わりを迎える恋があるのだと思った。

 この映画は茂樹の目線で描かれる時間と弥生の目線で描かれる時間がある。二つの時間は、もちろん同じ時間軸として流れていて、その二つが交わる瞬間もある。人間は気づかないうちに、同じ他人と何度もすれ違い続けているのだと思う。それはとてもロマンティックで奇跡的なことだ。しかし、お互いが知らなければ、何かが生まれることはない。人は死ぬまでに、どれだけの人と出会えるのだろう。そして、どれだけの思いを繋げられるのだろう。「観察」は、そんな淡い気持ちにさせる映画だと思った。いつか、自分も誰かに見つめられ続けたいと。

プロフィール

西山繭子画像
西山繭子(にしやままゆこ)
1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html
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