【Story】
第二次世界大戦中のドイツ・ザクセンハウゼン強制収容所。その一画に各地から集められた職人たちが働く秘密工場があった。彼らに課せられた使命は「完璧な贋ポンド札」を作ること。作戦が成功すれば家族や同胞への裏切りになる。しかし完成できなければ、死が彼らを待っているのだった。


【スタッフ&キャスト】
監督・脚本:ステファン・ルツォヴィッキー
出演:カール・マルコヴィクス、
アウグスト・ディール、
デーヴィト・シュトリーゾフほか
第二次世界大戦中のドイツ・ザクセンハウゼン強制収容所。その一画に各地から集められた職人たちが働く秘密工場があった。彼らに課せられた使命は「完璧な贋ポンド札」を作ること。作戦が成功すれば家族や同胞への裏切りになる。しかし完成できなければ、死が彼らを待っているのだった。

福沢諭吉がどっしりとかまえる一万円札。言うまでもなくそれには一万円分の価値がある。しかし紙としての価値を考えた場合、原価は約19円らしい。千円札は約16円。その紙きれに人々はいつの時代も翻弄され続ける。恵みを与えると同時に武器ともなりうる価値を持ってしまった紙きれに。「ヒトラーの贋札」の舞台である第二次世界大戦中のドイツ。強制収容所の中でもその武器は作られていた。「ベルハント作戦」と呼ばれる歴史上最大の紙幣贋造事件である。
強制収容所の中で選ばれた者たちだけが集められる。主人公である贋造犯のサリーをはじめ、印刷技師や元銀行職員。彼らは常に隣り合わせる死の恐怖に怯えながら秘密の工場へと案内される。そこで完璧な贋札を作らされる技術者達。彼らには他の収容者とは違う待遇を与えられる。ベッド、食事、風呂。技術を持っていたことが彼らの命を先に延ばす。しかし、壁の向こうでは銃声と悲鳴が鳴り響き、他の収容者が殺されていく。収容所内でもナチスは人間を区別し、ヒエラルキーを形成させた。悲しいことだが人は誰かを自分よりも下の人間だと認識することで安心感をおぼえる。強制収容所という極限状態の中でさえ僅かな優越感に浸るのだ。しかし救いである部分は、その優越感がふとした瞬間に葛藤に変わることだろう。技術者たちは、自分の命を救う行動が同時にナチスに加担していることに葛藤し、苦しむ。映画の中で何度も「生きる」という言葉が出てくる。「生きる」「生きたい」「生きなくては」。どれも真っ当な言葉であり、人間の芯として貫き通すべき思いである。では「生かされている」となると、どうだろう。人が人を生かす? 人が人の命の長さを決める? 残念ながら地球上には未だにそういった境遇におかれている人々がたくさんいる。「生かされなかった」と思いながら息を引き取る人々がいるのだ。自分が何故生きているのだろうと考えた時、私は死ぬことを考えてみる。私は死ぬのが怖い。それは、大切な人々と会えなくなるからだ。だから私は、もがいてでも生き続けたい。サリーや技術者達も葛藤しながらも同様に「生きたい」と願い続ける。それは、そこにいる仲間のためでもあり、そして家族のためでもある。離れ離れになっている家族が無事かどうかなどわからない。しかし、自分が生きていなければ再び会うことはできないのだ。誰かを大切に思う力が人の命を豊かにできる。
強制収容所を描いた映画は数多くある。「ソフィーの選択」「シンドラーのリスト」「ライフ・イズ・ビューティフル」「夜と霧」。これらは誰もが知っている作品であろう。もちろんこれら以外にも多くの名作が残されている。そして、これからも描かれ続けるだろう。いや、描き続けなければいけない。二度と繰り返さないためにも私達はナチスの強制収容所で何が行われていたのかを知らなくてはいけないのだ。「ベルハント作戦」。この紙幣贋造事件を私はこの映画で知った。そして少しでも多くの人に知ってもらいたいと思い、文章を綴っている。平和な時代に生きている私に今できることは、これぐらいしかないのだ。しかし、その「これぐらい」が、より平和な世界を作り上げる小さな一歩だと信じたい。
