映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 利潤の追求に専心するハンバーガー・チェーン"ミッキーズ"の本社幹部。劣悪な労働条件の下、下請けの精肉工場で酷使されるメキシコからの不法移民。店舗で、時給を稼ぐために勤務時間をやり過ごす学生アルバイトたち。交わることのなかった三者三様の日常が、"牛肉パテへの大腸菌混入"という事実発覚によって交わり、やがて"食の安全性"、"格差社会"、"環境破壊"…、アメリカだけの問題に留まらない、現代社会の病巣が炙り出されていく。

Review

佐々木誠

 リチャード・リンクレイターは大好きな映画監督だ。独立系なのに観るものを選ばないジャンルバラバラなその作品群は、一見節操がないように見えるが、それは彼のオタク性と普遍性と作家性の融合の賜物で、その全てに必ずリンクレイター節が効いている。オタクと言っても同世代のタランティーノやロドリゲスのような童貞感(映画秘宝的というか)はなく、「学生時代、そこそこモテて映画も好きでした」なスタンスがリンクレイターの絶妙な立ち位置で観客を限定させない魅力だろう。

 「恋愛映画」というジャンルがまったくもって苦手だった20歳の僕は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離<ディスタンス>』(95)を観て、フィクションとリアリティのバランス感覚が抜群のストーリー展開に心をつかまれた。たった一晩の出来事を出会ったばかりの男女(イーサン・ホークとジュリー・デルピー)の会話だけで構成し、そのキャラクターの感情が、息づかいが、観客にいつの間にか目の前で行われているかのようなリアルタイム感(ドキュメンタリータッチと言いたくない)を淡々と錯覚させていく。
 その9年後の続編『ビフォア・サンセット』(04)もこれまたさらにリアルタイム感を増し(本当に上映時間と映画内の時間が同時進行だから当然か。この手法は古くは『真昼の決闘』などでも使われている)「続編恋愛映画」の大傑作だった。
 01年公開の『ウェイキング・ライフ』は「ペインティングアニメによる哲学映画」というべきまさに今までに観たことのないジャンルの傑作だ。この作品は実写映像にデジタルペインティングを施してアニメーションに変換するデジタルロトスコープアニメーションという技法を使っている。この作品のなにが素晴らしいかというと、技法に溺れるのではなくストーリー自体を技法に同化させている、という点だ。
 つまり「哲学」という曖昧で不確かなモノを語ろうとした時、この実写なのかアニメなのかわからない手法は効果的なのだ。一見当たり前のことなのだが、技法に溺れまくり作家本人が悦に入ってしまいがちな最近の風潮から考えれば(PV世代の落とし穴?)、これは実験映画本来の姿をちゃんと見た気がした。ちなみにイーサン・ホークとジュリー・デルピーが『ビフォア・サンライズ』アナザーバージョンを思わせる役で出ている。
 リンクレイターは同じ技法を使って、フィリップ・K・ディック原作キアヌ・リーヴス主演で『スキャナー・ダークリー』(06)を制作。『ウェイキング・ライフ』ほど効果的ではなかったが、物語と技法に対する関係を正面から取り組む姿勢にはやはり感動した。
 大ヒット作『スクール・オブ・ロック』(03)は雇われ仕事だけど、この作品にリンクレイターを監督指名するブラック&ホワイト(主演のジャック・ブラックと脚本のマイク・ホワイト)のセンスは最高だな。あんなベタな話をクサくなくダサくなく気持ち良く仕上げるのは、リンクレイター以外にあり得ない。

 前置きが長くなってしまったけど、リンクレイターの最新作『ファーストフード・ネイション』だ。様々なジャンル映画に挑戦してきたリンクレイターだがついに「社会派映画」に手を出した! まぁなんでもかんでも時事的なものを描くとすぐに「社会派だ!」なんていうのもどうかと思うけど。
 最近、日本でも問題になっている「食」に関する映画だ。我々の食べているモノは、元々は生き物で、それが誰によって加工され、どこから来ているのだろう? という当たり前のことをほとんど誰も疑問に思っていなかった。それをアメリカ「ファーストフード業界」の暗部に焦点を当て鋭く描いている。原作はエリック・シュローサーのベストセラー・ノンフィクション『ファストフードが世界を食いつくす』。
 アメリカのファーストフード問題は食だけではなく、格差問題や移民問題などまさにアメリカの問題点の縮図だ。それをリンクレイターならではのシニカルな群像劇として成立させている。出演はグレッグ・キニア、イーサン・ホーク、パトリシア・アークエイト、ブルース・ウィリス、なぜかアヴリル・ラヴィーン。食肉工場で牛を殺し「食べ物」にする映像やバーベキューバーガーの為の「バーベキューそっくりの香料」を研究員が作り出すなど、ショッキングな事実がてんこ盛りだ。
 ただそれで終わらずリンクレイター映画になっているのはやはりキャラクターのリアリティだろう。それぞれのキャラクター自身の事情、それよるアクションが物語に説得力を持たせ、ラストに向かって静かなグルーヴを生む。人間は、複雑で危うい生き物なのだ。ひとつの問題が細分化されそれに翻弄される。リンクレイターはそれを熟知している。
 この映画を観ていろいろ考えたしヤベーな~なんて思ったけど、僕は相変わらずファーストフードを食べている。結局のところ我々は全ての食に関しては管理できない。大金持ちや自給自足で生活しているなら話は別だが。システムとうまく付き合うこと、そういった現実を知っているか知らないでいるかで大きく違うのではないだろうか。
 なぜリンクレイターがこの題材を? 彼が依存性の高いドラッグと管理社会を主題とした『スキャナー・ダークリー』の直後にこの作品を制作したことは興味深い。

プロフィール

佐々木誠(ささきまこと)
映画監督/映像ディレクター。1975年生まれ。
98年よりソニー・ミュージックエンタテイメントにて音楽プロモーション映像を数多く演出。その後フリー。06年、初監督ドキュメンタリー映画『Fragment』が公開されロングランヒットとなる。07年『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』(オムニバス映画『裸over8』の内の1本)公開。
Fragment
『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』
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