【Story】
初老の女性・艶子。少々くたびれかかったラブホテルのオーナーである。とっつきにくく無愛想な彼女が経営するホテルの屋上には不思議なことに小さな公園があった。そこは老人や子供が次々と訪れる憩いの場所、窮屈な都会生活の中で束の間、気持ちが癒される心の解放区。いつからあるのか、誰が何の理由で作ったのか誰も知らない不思議な空間。この小さな公園に迷い込んできた様々な世代の女性たちと、つましく暮らす艶子との心の交流を優しい眼差しで見つめていく。


【スタッフ&キャスト】
監督・脚本:熊坂出
出演:りりィ、梶原光、ちはる、神農幸ほか
4月26日(土)より、
ユーロスペースにてGWロードショー
初老の女性・艶子。少々くたびれかかったラブホテルのオーナーである。とっつきにくく無愛想な彼女が経営するホテルの屋上には不思議なことに小さな公園があった。そこは老人や子供が次々と訪れる憩いの場所、窮屈な都会生活の中で束の間、気持ちが癒される心の解放区。いつからあるのか、誰が何の理由で作ったのか誰も知らない不思議な空間。この小さな公園に迷い込んできた様々な世代の女性たちと、つましく暮らす艶子との心の交流を優しい眼差しで見つめていく。

私は今のマンションに20年以上住んでいる。引っ越しをしたくない理由に屋上がある。住民なら誰でも上がることが出来る屋上。多くの住民は洗濯物を干すぐらいしか足を踏み入れることはない。だから私はよくそこでぼんやりする。夏にはビールを飲んだりもする。天気の良い日は富士山も見えるし、夜になれば東京タワーも見える。何よりも素敵なのは下界と隔離されている気分になれることだ。下から聞こえる車の音、遠くから聞こえる子どもの声。マンションは4階建てなので高くはない。でも私にとってそこは天界なのだ。ビルの屋上というのは、何かワクワクするものがある。
この映画は古びたラブホテルの屋上に小さな公園があり、そこにやってくる人々の物語だ。物語自体は凄く現実的なのに、ラブホテルの屋上に公園というのがギャップがあって面白い。昔観た「マンハッタン花物語」という映画で主人公が屋上に庭園を造っていた。それを観た時にもマンハッタンの夜空に浮かび上がる庭園が幻想的で美しかった。多くの人々は屋上なんて何もないと思っているだろう。しかし実は屋上は社会から一番近いファンタジーの世界なのかもしれない。
ラブホテルってとても興味深い世界だ。入る目的は明らかにセックスなんだけど、そこには色んな人間模様があって「ラブ」という言葉とは真逆の世界も存在する。誰がつけたかわからないけれど奥が深い呼び名だ。そのラブホテルに老人が入って行くのを見ると少し驚く。子どもが入って行くのを見るとかなり驚く。それがこの映画の舞台である流水というホテルである。
物語はオムニバスになっていて3人の女性が描かれている。家出少女の美香、主婦の月、常連客のマリカ。それぞれが心に痛みを抱えてこのホテルにやって来る。無愛想なオーナー・艶子と時間を共にしていくうちに、自身を再生していく。そして艶子もまた淡々と繰り返される時間の中でひっそりと胸の内に苦しみを潜ませている。映画の中で艶子は感情を爆発させることがない。それだけに、その痛みや苦しみがリアルに観客に伝わる。
艶子を演じたりりィさんを観てフランス人ぽい人だなと思った。かなり漠然とした言葉だけれど、フランス映画に出てくる中年女性の匂いがプンプンする。喪失感を含んだ色気を放っている。こういう風に歳を重ねられれば、と思う。
“女性のための応援歌”のような映画であるが監督は男性である。熊坂監督は、それぞれの女優の一番美しい顔を知って撮っているような気がする。角度とか目線とか、そこに光が加わって、その登場人物が抱える心情を美しくスクリーンに映し出す。ぜひいつか一緒に仕事をしてみたいと思った。この作品は本年度ベルリン国際映画祭で最優秀新人作品賞を受賞した。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)から生まれた映画がベルリンで賞を取る。自分が参加しているわけでもないのに、とても嬉しいし素晴らしいことだと思う。私の友人でもPFFに出品するために日夜映画のことばかり考えている人がいる。そんな若き映画人のためにも励みになる作品だと思った。
試写会の帰り、CDショップに立ち寄り、りりィさんのCDを買った。そろそろ暖かい春がやって来る。このCDを屋上で聞いてみよう。きっといつもと違う風景が広がるのだろう。
