映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 コーヒーは世界で最も日常的な飲物。全世界での1日あたりの消費量は約20億杯にもなる。大手企業がコーヒー市場を支配し、石油に次ぐ取引規模を誇る国際商品にしている。私たちは「おいしいコーヒー」にお金を払い続けている。しかし、コーヒー農家に支払われる代価は低く、多くの農家が困窮し、農園を手放さなくてはならないという現実。その原因は、国際コーヒー協定の破綻による価格の大幅な落ち込み、貿易の不公正なシステム。 農民たちは教育を受けることも、食べることもままならず、貧困にあえいでいる。エチオピアの74000人以上のコーヒー農家を束ねるオロミア州コーヒー農協連合会の代表、タデッセ・メスケラは、農民たちが国際市場で高品質で取り引きされるコーヒー豆の収穫のために奮闘するかたわら、公正な取引(フェアトレード)を求めて世界中を飛び回る…。

Review

西山繭子

 私が原稿を書く時、いつも傍らにはコーヒーがある。執筆を始めてからは消費量が格段に増えた。私にとって執筆とコーヒーは1セットになっている。エスプレッソマシーンで入れる時もあれば、インスタントを使う時もある。でも一番好きなのは豆をミルで挽いてからじっくりと味わうコーヒーだ。小柄なくせに工事現場のようにうるさいミルで粉砕されていく豆からは至福の香りが漂ってくる。味にうるさいわけではないので、豆はその時の気持ちで選ぶ。キリマンジャロ、ブラジル、ニカラグア、パプアニューギニア。旅好きの私は味ではなく国で選ぶ傾向にある。密封された袋には、その国々の香りが凝縮されている。地球の裏側で太陽にさらされた豆、そしてそれを作る言葉も通じない人々の笑顔。私は勝手にそんなことを想像していた。しかし、この映画を観て、その地球の裏側には笑顔などないことを知って愕然とすると同時にコーヒーに対しての意識がさらに強まった。

 先進国では、コーヒーを飲む場所を探すことに苦労はしない。それだけ私達にとって日常的な飲み物である。コーヒー豆は世界市場において石油に次ぐ国際的な貿易商品であり、年間の売上高は800億ドルを超えるそうだ。石油を多く産出する国、アラブ首長国連邦を例に挙げてみる。莫大なオイルマネーで国は発展し、首都ドバイには大富豪と呼ばれる人々が贅の限りを尽くしている。しかし、コーヒー豆を多く産出する国にそういうイメージはあるだろうか? それどころか、産出国の中には貧困にあえぎ国連からの食料援助を受けているアフリカ諸国もある。いったい800億ドルはどこに消えてしまったのだろうか? そのからくりを描いたのが『おいしいコーヒーの真実』なのである。

 東京のコーヒー1杯の平均価格は419円だそうだ。その内訳など今まで考えたことはなかった。重労働の下でコーヒー豆を作る農家に入るお金はなんと1.7円だというから驚きだ。9割は店の利益になる。こんなことが当たり前のように世界中でまかり通っている。コーヒーの価格はニューヨークとロンドンでの先物相場で決められる。それは取引、交渉とは無縁の世界なのだ。先進国の言い値で相場を決められてしまう途上国。そのせいでどんどんと困窮の波は拡がっていく。その途上国に援助を続ける先進国。何かが大きく矛盾している。援助というのはとても大切なことだと思う。と同時にとても一方的なことだという危うさがある。援助よりも途上国に必要なことは自立への道を切り開いて行く手助けをすることなのだ。以前、仕事でカンボジアの地雷除去の現場の取材をした。日本で開発された地雷除去の機械は地雷を除去するだけでなく畑を作ることができる。恐ろしい地雷原が広大な畑へと変貌を遂げた土地を見て村長が言った。「私達は怠け者ではありません。ただ地雷原の前では何もしようがなかった。これでようやく自分達の力で生きて行くことができます」私達は先進国に暮らす者の責任として、地球の裏側で起こっていることに目をやるべきではないだろうか。映画ではエチオピアのコーヒー農家に焦点をあてている。そこの大人達が僅かに得た収入でまず何をするべきかを話し合うシーンがあった。食べる物も満足に得られない人々が最初にあげたのは「教育」だった。教育がなければ国は発展しない。先進国に暮らす私達は日常生活の中で自分の国のために何をするべきかを考えることは皆無だ。彼らは困窮に苦しみながらも国の明るい未来を信じている。

 この映画をコーヒー産業やそれに携わる企業を批判するものとして捉えることは簡単だ。しかし、それだけではない。私達がいつも口にしているコーヒー1杯にどれだけ大きな意味がこめられているのかを考えなくてはいけない。この原稿を書き終えて私はまたコーヒーを一口すするだろう。色んな味を噛み締めながら。

プロフィール

西山繭子画像
西山繭子(にしやままゆこ)
1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html
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