映画見聞録

映画をこよなく愛する人々が各界より集い、巷で話題の作品から通好みの渋い作品まで、独自の視点で書き綴る「偏愛的新作映画紹介」コーナー。日本を「黄金の国ジパング」としてヨーロッパにはじめて紹介したマルコ・ポーロのように、新作映画のまばゆい輝きをみなさんにお届けします!

【Story】

 退役軍人・ハンク(トミー・リー・ジョーンズ)の息子・マイク(ジョナサン・タッカー)は、イラクの最前線からアメリカに帰国した直後に軍隊から脱走する。地元警察の女性捜査官・エミリー(シャーリーズ・セロン)の助けを借りてハンクはマイクを探しだそうとするが、そこにはある秘密が隠されていた……。

Review

西山繭子

 昨年、友達と食事をしている時に彼女の携帯が鳴った。相手は彼女のアメリカ人の旦那様。私も挨拶がてら少しだけ電話を代わってもらった。国際電話なのに凄く近くにいるみたいな旦那様の陽気な声。時折周りからは笑い声が聞こえてくる。彼がいる場所がイラクだなんて私には到底信じられなかった。

 『告発のとき』は、イラク戦争を題材にした映画である。しかし一般的な戦争映画とは違い、舞台は戦場ではなく、戦火が灯っていないアメリカの小さな町である。人々が尊厳もなく殺されていく戦場を舞台にした映画は、真っ直ぐに戦争の恐ろしさを伝える力がある。一方、この映画はじわりじわりと観客の心を悲しみのという手で握りしめていく。戦争を繰り返す人間に対する悲しみ。物語はイラクから帰還した息子が軍隊から脱走したという知らせを父親ハンクが受けることから始まる。息子の行方を捜すうちにハンクは残酷な事実に向き合うことになる。

 これは実際に起きた事件をもとに作られている。私はまずそのことが素晴らしいと思う。イラクで何千人という兵士や民間人が亡くなったというニュースに比べたら、流されてしまうような事件だったかもしれない。けれどこの映画によって私達は、戦争の悲惨さが戦場だけにあるのではなく、戦場から遠く離れた人間の心理の奥底にまで達してしまうのだということを知ることができる。自分が軍人でもあったハンクは、息子を誇りに思っていた。しかしその息子はイラクに派兵されたことで変わってしまう。いや、変わらなくては生き延びていけなかったのだと思う。戦場で兵士は任務のもとに行動する。

 先日見た東京大空襲の特別番組で一発目の爆弾を落としたという元アメリカ兵がインタビューを受けていた。「私の一発目から始まったんだ」と言った彼はどこか誇らしげにも見えた。しかしその時に地上で何が起きていたかを聞いた彼は「……任務だったんだよ」と小さな声でつぶやいた。つい数秒前まで誇らしげだった彼の瞳が悲しみの色で溢れていた。戦争は被害者しか生まない。加害者がいるとすれば、それは安全な場所で指揮をとっているような人々だろう。しかし、この映画は単に戦争反対と声高らかに言うものではない。根底にあるものは戦争に翻弄されてしまった家族の絆であり人間の物語なのだ。そこを巧妙に魅せた監督・脚本のポール・ハギスは本当に凄い力を持っている。『クラッシュ』を観た時、その脚本の力に思わず唸ってしまったが、今回も観客を飽きさせないサスペンス性を持たせながら、しっかりと人間の心理を描いている。私は昨年、少しだけ映画の脚本に参加をさせてもらったが、途中で断念してしまった。向いていなかったと言えばそれまでだけれど、私には物事を客観視する力がだいぶ足りなかったのだと思う。「想い」だけで脚本を書くとそれは自己満足になってしまう危険が潜んでいる。しかしこの映画見聞録を、私は「想い」ばかりで書いている。言葉だけで伝えたいことがあるから。

 2003年に戦闘終結宣言をしたイラク戦争だが、復興支援という名のもとに今も戦闘は続いている。ハンクと同じ心の傷を負った人間が今も増え続けているのだ。国際電話では容易く近づけるイラクだけれど、この映画を観てあの時の電話は何も繋がっていなかったのだなと痛感した。

プロフィール

西山繭子画像
西山繭子(にしやままゆこ)
1978年、東京都生まれ。1995年、フジテレビ系ドラマ『じんべえ』で女優デビュー。以後、映画、ドラマ、CM、舞台等で幅広く活躍中。
著作に『色鉛筆専門店』(アクセスパブリッシング)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)がある。
公式サイト:
http://www.flamme.co.jp/MayukoNishiyama/flm_profmn.html
ポプラビーチを読んだ感想をぜひお寄せください。
皆さまのおたよりお待ちしております。
感想を送る
WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社
ポプラビーチトップへ戻る