【Story】
会社を辞めたばかりの息子(32歳)が、グラビアカメラマンの父(54歳)に誘われ、避暑地・北軽井沢の山荘で過ごす夏休み。二人は、亡き祖母が集めてきた古着のジャージを着て、ゆったりとした時間の流れに身をゆだねる。


【スタッフ&キャスト】
原作:長嶋有
脚本・監督:中村義洋
出演:堺雅人、鮎川誠(シーナ&ロケッツ)、
水野美紀ほか
7月19日(土)より、恵比寿ガーデンシネマ、
角川シネマ新宿、銀座テアトルシネマほか、
全国順次ロードショー

好きな作家さんはいっぱいいるけれど、その作家さんの全作品を手元に置いてあるかと考えてみたら、たった一人しかいなかった。それが長嶋有さんだ。出会いは四年前。友達が私の本を読んだ時にぽつりと「きっと長嶋有とか好きだよ」と言った。『猛スピードで母は』を皮切りに私は彼の作品を一気に読んだ。その中でも「ジャージの二人」は2番目に好きな作品だ。1番は「泣かない女はいない」。私は好きな作品が映画化されることに複雑な思いがある。原作への愛情がある分、どうしても意地悪な目線で観てしまう。しかし私のそんな意地悪な目線も時間が経つにつれ、とろりと目尻が下がり気がつけば心の中は穏やかな空気でいっぱいだった。
この映画は元々の原作がそうなのだが、劇的な何かが起こるわけではない。北軽井沢の山荘で父と息子がひたすら淡々と過ごして行く。しかしその淡々の中に「くすり」「にやり」が連続なのだ。まず大の大人二人が迷いもなくジャージを着ているというのが理屈なしでおかしい。原作を読んだ時も想像するだけでおかしかったが実際映像で観るとジャージの色といい形といい完璧におかしかった。堺雅人さん、鮎川誠さんというスマートで格好良い二人がジャージで並んでいるだけなのに、恐るべしジャージの魔力。原稿を書いている今、私もジャージだ。体も心もゆるみまくりである。原稿を書きながら言うのは心苦しいがジャージには人の心をオフに切り替える力がある。そんなオフのスイッチが入りながら山荘で過ごす二人だが、もちろん彼らにも悩みや揺らぎがある。しかし、それを痛々しく表に出すようなことはしない。だからこそ凄くリアリティがあった。本来、人間ってそういうものだよなとふと思った。改めて気づくなんて仰々しいものではなく、スクリーンいっぱいに広がる美しいのどかな風景を見ながらぼんやりと思った。父と息子の関係というのは私にはわかりえない部分がたくさんある。初めて二人でお酒を飲んだり殴り合ったりすることが胸にしみるなんてべたなことを考えてしまう。それに比べるとこの親子は非常に不思議な二人だ。親子っぽくはないけれど、そうかと言って友達にも見えない。欲を出せばこの親子のずっと昔の物語を観てみたいと思った。きっと同じように何も起こらないことを願ってしまうのだが。
映画は娯楽なのだから面白くあるべきだと思う。私もわかりやすいハリウッド大作が好きだ。わかりやすいものを好きというのは恥ずかしいことのような風潮がある。難解なアートっぽいものを好きという「私」「俺」って格好良い、みたいな。しかしこの映画はどちらにも属さない。物凄い地味だけどわかりやすい。いや、わかるも何も映画の中で何もおこらないのだからそんな概念はいらないのかもしれない。観終わった後に「この映画、凄く面白かったから観てみて!」と友達にお薦めする人は少ないかもしれない。でもこの作品を嫌いになるということはない映画だなと思った。すごく優しい日本映画。こういう映画が日本にあるんだと外国に自慢したいが残念ながらジャージの面白さは日本人にしかわからないと思う。ジャージが日本の文化であることにも気づいた、本当におかしな映画である。
