最終回「大学の図書館、図書館の大学」

土曜の翻訳終了と日曜の旅立ち

 二〇〇六年の十月下旬、僕は生まれて初めて筑波大学を訪れた。くろべーという黒犬と共にドライブ旅行をしている最中、ふらりと立ち寄ったのである。
 ドライブ旅行に出たきっかけは、スタインベックの『チャーリーとの旅』の翻訳を終えたことだった。文豪スタインベックが愛犬のチャーリーを伴い、愛車ロシナンテ号を駆ってアメリカ一周の旅に出るというこの本を訳していて、自分でも犬連れ車旅に出てみようと思い立ったのだ。――その『チャーリーとの旅』もようやく刊行の運びとなったので、今回はその時のことを書いてみようと思う。
 翻訳とは最も濃密な読書だという言葉がある。自分でやってみたら本当に通りで、スタインベックの訳出を進めている間、僕は実際にドライブ旅行をしているような気分を味わっていた。その感覚が高じて自分でも旅に出ずにはおれなくなってしまったのである。
 そもそも僕は日頃から犬と暮らしていて、その犬と一緒に乗る車も持っている。軽バンだからスタインベックのロシナンテ号に比べると一回り小さいが、かわりにラブラドールとバーニーズの雑種たるくろべーはスタンダードプードルのチャーリーよりも一回り大きい。くろべーもチャーリー同様ドライブ好きな犬だし、一仕事片づけた僕には時間の余裕も結構ある。ここまでお膳立てが整った上で旅に出なかったら、僕にスタインベックの翻訳者たる資格はないだろう。長いこと苦労して翻訳を仕上げたのだし、スタインベックへの敬意を示すためにもドライブ旅行に出ておきたいと思っていた。
 そんなわけで、土曜の晩に翻訳を終えた僕は、明けて日曜の朝には走り出していた。小雨模様の空の下、心はやけに浮き立っていた。

昼食散歩と中央図書館

 最初から筑波大学を目指したわけではない。まずは作家仲間の家を目指してそこで一泊させてもらう予定で、地図でそこまでのルートを調べているうちに筑波という地名が目に飛び込んできたのだ。その瞬間、中学生の頃につくば科学万博に行った記憶が蘇り、あれから二十年以上たった今はどうなっているか見てみようと思い立った。拙著『風に桜の舞う道で』の登場人物のモデルにさせてもらった予備校時代の友人が筑波大の先生になったこともあり、前から気になっていた場所だったのだ。
 こういう時に気の向くままに動けるのが一人旅のいいところだ。犬連れの車旅とはいえ、ドライブ中はご機嫌のくろべーは方向転換に反対したりはしない。黒いしっぽも僕の進路決定に賛意を示すように振られていた。
 つくば博の時に整備されたおかげか、研究学園都市の道路は太くてまっすぐで走りやすかった。国道沿いに植えられた銀杏並木はどこまでも続いているようだったし、鮮やかに黄葉した景色は眩しいくらいである。朝から降っていた雨も昼までには上がり、空からあたたかな日差しも降り注いできた。
 ちょうどいいので、昼食ついでにくろべーの散歩をしていこうと思い立った。国道から横道に入って筑波大学の敷地沿いに車を走らせ、目についたコンビニエンスストアの駐車場に車を停めた。食料の調達ついでにしばらく車を置かせてもらい、大学の敷地内を散策しようというわけである。――とりあえず大学ってのは部外者立入禁止が建前なんじゃないかと思うけど、筑波大の敷地を囲む柵にはところどころに入口が設けてあって人を拒む雰囲気はない。そのへんの公園にでも入るみたいにして一般道路からひょいと足を踏み入れることができて、僕とくろべーも平気な顔で中に入っていったのだった。
 歩いていった先には学生宿舎が建ち並んでいた。大学構内のわりには妙に生活感がある一角で、建物ごとのゴミ捨て場には大小様々なゴミ袋が置かれている。日曜には回収されないんじゃないかと思うのだが、宿舎から出てきた女子学生が気にもかけずに通りすぎているところを見るとこれが日常の光景なのだろう。あまり分別もされていないようだし、カラスに荒らされてゴミ袋の中身が散らばっているところもあって妙にすさんだ雰囲気が漂っている。
 人様の生活圏に勝手に入ってる身で偉そうなことを言う資格はないけれど、こうやってゴミが散乱してる場所が犬の散歩に不向きなのは間違いない。犬にとってはいろんなにおいがして面白い地帯だろうけど、ぱくっと変なものでも食べて腹でも壊されたら最悪である。狭い車中でしばらく一緒に過ごすことを考え、その危険地帯は足早に通り抜けた。
 やがて気づいたのだが、大学構内とはいえ大きめの道路は一般道と似たような雰囲気だった。広大な敷地内にはいくつもバス停があってごく普通に路線バスが巡回していたし、どう見ても学生でも教職員でもなかろうって人が観光でもしているみたいにきょろきょろしながら車を走らせている。外の道路から普通に入って来れる場所もあったので、僕は軽い散歩の後でコンビニに戻った。あらためて車ごと筑波大に突入することにしたのだ。
 いや多分、そうやって勝手に入ってしまうのは決して褒められた行為ではないだろう。だけど車で入っていったおかげでキャンパス内の標識で中央図書館という存在に気づき、そんじゃあ「図書館へ行こう!」の取材をして行こうと思いつくことができたのだった。

中央図書館と筑波大学新聞

 中央図書館から少し離れたところに使われている気配のない建物があったので、車はその脇に置かせてもらった。再びくろべーのリードを持って、ぶらぶらと図書館へ歩いていく。空はすっかり晴れていて、秋の日差しが暑いくらいだった。
 まずは散歩ついでに図書館の外観の写真を撮影。――デジカメの液晶画面で眺めても、つくづく大きな図書館だった。階段状の五階建て建築自体の大きさもあるけれど、それを取り囲んでいる空間が実に広々としているのだ。撮影中にふと連想したのは、オーストラリアのパースで見た州立図書館だった。さすがに筑波の国立大だけあって、土地や空間の使い方が大陸的に豪快で贅沢なのである。おまけに中央図書館だけじゃなく、筑波大の中には他にも四つの図書館があるというのだからスケールのでかい話であった。



 中央図書館の正面に広場みたいな場所があった。日曜のせいか人影はまばらで、男子学生が一人でベンチに腰掛けて弁当を食べている。こういう雰囲気だったらくろべーを待たせておいても平気だろうと思い、食事中の彼から少し離れたところにリードを繋がせてもらった。さすがに犬連れで入館するわけにはいかないので、くろべーはここに待機で僕一人で潜入取材である。
 入口近くには、学外からの来館者は受付に申し出ればいいという案内が出ていた。国立の施設だけあって人を拒む雰囲気はなく、ゲート脇のカウンターの総合案内ってところで外来者向けの記入用紙に簡単な連絡先を書くだけで入館用の名札をもらえた。それをつけて中に入れば自由に館内を見て回れるという、僕みたいに行き当たりばったりで取材に来た人間には実に嬉しい仕組みであった。
 広いエントランスホールでは一般の新聞が閲覧可能になっていて、様々な展覧会やシンポジウムのパンフレット類なども置かれている。筑波大学新聞というのがあったので手に取って見たら、第二五六号のトップ記事は学生宿舎の改修についての話題であった。宿舎の多くは築三十年以上で老朽化が進んでいるのだそうで、学生にアンケートをとってみたら大半が改修に賛成なんだとか。やっぱり住んでいる人たちも学生宿舎に問題があると思っているようである。
 アンケートではどんな居室がいいか尋ねたりシャワー室や洗濯室などの設備について尋ねていたりして、なかなか快適な住環境になるようである。それに合わせて寄宿料金も値上げされる見込みだというから貧乏学生にはつらいかもしれないが、広大なキャンパスや立派な図書館と合わせて筑波大の学生は恵まれてるなあと思わずにはいられなかった。図書館は平日は午後十時まで、土日でも午後六時まで開館しているそうだし、館内には資料やネット端末の他に大学院生や教員用の個室なんてのもあるのだ。格安の宿舎からちょっと歩けばこういう図書館が利用し放題なのかーと思うと、自分も受験生の頃に筑波大を目指しておけばよかったなんて気分になってくる。まあ目指したからってそう簡単に入れるようなところではないのだろうけれど。
 入れないといえば、外に繋いでおいたくろべーは大丈夫かなーと、時々窓から外に目をやった。雑誌コーナーの閲覧席のあたりからはくろべーの姿がよく見えたのだが、まだかなあって感じで正面入口を見つめている後ろ姿が健気である。あまり長く待たせておくのも気の毒なので、取材はざっと済ませておいた。エレベーターで上の階に行き、館内を一通り歩き回って外に出たのだ。やはり犬連れでアポなし取材ってのはいつもと勝手が違って、落ちついて本を読んだりここならではの特色を探したりって気にはなれなかった。



 カウンターに名札を返して外に出て、待っていたくろべーと再会。無断駐車の車に戻って走り出した。――筑波大には図書館情報学部というのがあるらしいし、何ならそのキャンパスも見てみようかと思ってたのだが、案内の標識に従って走っているうちにキャンパスの外の一般道に出ていた。それなら諦めるかと思って研究学園都市を後にしたのである。
 後から知ったのだが、図書館情報学部というのは中央図書館のあるキャンパスとは少し離れた春日キャンパスにあるのだった。だから移動する際に一般道に出るのは当たり前だったんだけど、てっきりどこかで道を間違えたのかと思ってしまったのだ。こんなことではポプラビーチの吉川編集長にどやされてしまいそうなので、後日あらためて取材を行うことにした。

図情のヨン様とULISの意味

 実は潜入中に図書館情報学のことを思い出したのは、以前お便りをくれた読者の方が図書館情報学を学ぶ大学院生だったからだった。彼から、ぜひうちの大学を取り上げてくださいとリクエストされていたのだ。それじゃあ十二月に行くから中を案内してくださいよとお願いしてみたら、修士論文の執筆で忙しい時期だったのにもかかわらず、快く取材に協力してもらえることになったのだった。
 その取材協力者は、ネット上で「図情のヨン様」と名乗っていた。図情(とじょう)というのは今でこそ筑波大の図書館情報専門学群の通称となっているが、もともとは図書館情報大学の通称だったらしい。同大は二〇〇二年に筑波大と統合されて二〇〇四年三月には閉学となったのだが、現在でも筑波大学春日キャンパスは図情と呼ばれて図書館情報大の名残りをとどめているのだ。聞けば筑波大では二〇〇七年にも学群改組が行われるそうだが、きっとその後も図情という呼び名は根強く残っていくことだろう。
 さて、そんな図情のヨン様だが、本名は千さんというのだそうだ。ヨン様ってのは韓流スターのペ・ヨンジュンさんから来てるんだろうけど、四から千なら一気に二五〇倍である。二五〇倍は凄いなと妙なことに感心しつつ、彼とは春日キャンパスの外来駐車場で待ち合わせることとなった。



 それまではメールのやり取りだけだったので直接会うのは初めてだったが、僕は彼を一目見るなり笑ってしまった。――駐車場に現れた千さんは、ドラマ『冬のソナタ』のヨン様みたいなマフラー姿だったのである。図情のヨン様を名乗るだけあって、待ち合わせの目印としては実に分かりやすい姿であった。
 律儀な千さんはキャンパス内を案内してくれる最中もずっとヨン様スタイルを崩さなかった。マフラー姿のガイドさんにあれこれ話を聞きながら図情キャンパスを回ったわけだが、やはり内部事情に詳しい人の話というのは面白い。たとえば駐車場から歩き出してすぐの建物には「情報メディアユニオン(ULIS)」という看板が出ていたが、建物の名称を略してULISなのかと思ったら別の含みもあるのだそうだ。
「ユニバーシティ・オブ・ライブラリー・アンド・インフォメーション・サイエンスの頭文字を並べてULIS、この施設以前に、図書館情報大の略称がULISだったんです」
 図書館情報大学がなくなってしまっても、この建物に名前を残しておこうという心意気だったんだろうか。図情を愛する人々の心情が伝わってくるようなエピソードだが、残されたのは名前だけではなかったようだ。
「筑波大と統合される時に、せっかく図書館情報大で持ってた予算まで筑波に吸収されちゃあもったいないってことで、有り金はたいてこの施設を建てたっていう噂です」
 あくまで噂で真偽のほどは定かじゃないってことだったが、四階建ての大きな建物の中にはメディアミュージアムやメディアホールなどの研究施設が入っていて、たしかに豪華そうである。ミュージアム内にはロゼッタストーンやグーテンベルグの聖書のレプリカなど、図書学を学ぶ者なら誰でも目にするという品々が展示されていたし、情報学の分野では古いコンピューターの真空管回路から始まってLSIやらICやらがずらりと並んでいる。ブック・ディテクション・システムという本の持ち出しを感知する機械も展示してあったが、今ではあたりまえのこういう機械を日本で初めて導入したのは筑波大だったのだそうだ。その第一号機が今ではこのULISの中に展示されているというのも、不思議といえば不思議な因縁ってものだろう。
 ミュージアムを出た後は、守衛さんのところに駐車場使用の申告に行った。今回は無断駐車じゃなくてちゃんと許可を得ておくのである。なにしろ千さんによると、ここの守衛さんはみんな自衛隊出身者だという噂があるらしい。有事の際は研究学園都市の防衛に当たってくれるのかもしれないが、無断駐車で怒られたらおっかないのでちゃんと申告しとこうと思ったのだ。守衛さんは親切に申告用紙の書き方を教えてくれたが、姿勢の良さや目配りの鋭さが只者じゃなさそうにも見える。国立大の統合と予算の問題もそうだけど、国の事業となるとどこか得体の知れない迫力を感じてしまうのは僕だけだろうか。

児童図書室と子ども図書館

 申告も無事に済ませたところで、いよいよ図書館情報学図書館を訪れた。入口のゲートをくぐった僕らは開架書架の方には向かわず、右に曲がって階段脇のスペースに進んだのだが、ここは図書館内でも独特の場所で、千さんは楽しげに解説してくれた。
「児童図書室がある大学図書館は、国立ではここだけらしいですよ」



 大学図書館というとお堅いイメージがあるけれど、図書館学の中では児童書も扱うわけで、それを学ぶためには大学図書館の中にも児童図書室を設けておくということらしい。絵本や紙芝居の並んだ書架はカラフルで華やかだったし、奥の「お話しルーム」という部屋に進むと子供向けの閲覧席や読み聞かせ用の机などもあった。実際に子供を招いて様々な実践をするための設備だそうだし、学生がのんびり寛ぐにもよさそうな場所である。その日は僕らが行くまで誰も使っていないようだったが、なにしろキャンパス自体が広いから寛げる場所は他にもあるとのことだった。
 児童書以外の開架書架を見て回ると、なるほど大学の図書館という雰囲気である。聞けば一階の書架には図書館学と情報学にまつわる書物ばかりが集めてあるのだそうで、千さんによると「こんなに一つの分野に偏ってる図書館はここだけ」だそうである。そういう書架の中にも、かつて図書館専門の大学だった頃の雰囲気が漂っているようだった。
 二階の書架には普通の図書館にあるような本も並んでいるとのことだったが、いざ二階に行ってみたら僕は別のことに目を奪われた。――階段を上がった正面に、図書館の大型模型が展示されていたのである。
 それはアメリカの議会図書館だった。卒業生が模型を作って寄贈したということらしかったが、その左側に目をやったら日本の帝国図書館の模型も置いてある。こちらは図書館情報大の模型制作同好会が制作したものだそうだが、僕としては別の名称を口にせずにはいられなかった。
「おお、国際子ども図書館だ!」



 帝国図書館の建物といえば、この連載の第一回で取材した場所でもあるのだ。――旧帝国図書館はこの模型のような形で構想されたのだが、一部が建築されただけで完成には至らなかった。未完のまま、できた箇所だけが帝国図書館として使われてやがて国立図書館となり、国立国会図書館の支部となって今では国際子ども図書館と呼ばれているのである。
 そんな由緒ある建物を完全な姿で再現してみようと、図書館情報大の有志が模型の制作に挑んだらしい。未完の部分については資料を元にオリジナルのデザインで作ったそうだが、実に見事な出来である。模型の一部は現存する国際子ども図書館とそっくりだったし、ここのエントランスで吉川編集長と待ち合わせしたんだっけなーなどと思いながら眺めるのも懐かしいものであった。
 模型はもう一つあったが、これは船だった。長崎の図書館で働いている卒業生から寄贈された模型で、かつて広島には船の図書館があったらしい。「ひまわり号」という広島県立図書館の移動図書館だそうで、一九六二年から一九八一年まで就航してたんだとか。いわゆる移動図書館といったら自動車の形が一般的だけと、海辺の町や島々では船が活躍していたわけだ。海を渡ってくる図書館というのも風情があるし、それが模型の形でひょいと展示してあるあたりがさすがは図書館の大学の図書館だなあと思わずにはいられなかった。

マッサージとインタビュー

 図書館を出た後は、そのまま講義棟へ足を踏み入れた。――別々の名称で呼ばれてはいるものの、図書館情報学図書館と講義棟と研究棟は棟続きとなっていて、一つの建物の中を動き回っている感覚なのだ。なにしろ講義や研究といっても図書館関係のことを行っているわけだから、図書館と別棟にする必要なんてないのかもしれない。
 普通の大学と同様に講義の行われている大教室や理系大学のような実験室を覗きながら講義棟を歩き回ったのだが、一番印象に残ったのは「休養室」という表示が出ている部屋だった。ここは学生の健康管理のための施設らしく、血圧やら体重やらの測定機器やリクライニング式のマッサージ機などが用意されていたのだ。温泉地のホテルなんかにありそうな雰囲気の部屋で、学校でこんな部屋を使える学生さんがまた羨ましくなってしまった。
 悔しまぎれに僕も利用させてもらった。千さんと並んでマッサージ椅子に身を横たえ、心地いい揉み心地でドライブの疲れを癒してもらったのだ。その最中にもいろいろ聞き取り取材を行ったのだが、こういうインタビューというのも滅多にできない経験である。
「これだけ広いキャンパスと豪華な設備で、学生さんはどれくらいいるんですか?」
「学部は各学年百六十人ですから六百四十人、院は各学年四十人くらいで八十人、あとは博士過程の人が三十人くらいで……七百数十人ってとこですね」
「講義を受けてる中には留学生っぽい人も多かったようだけど」
「いかにも留学生っていう欧米系の人以外にも、中国や韓国から来てる人も多いですよ」
「歴史資料の保存にかけちゃ、中国の方が本場っぽい気もするけどね」
「近代化された図書館学って意味では日本の方が先を行ってるってことでしょうね。この分野じゃ今でも、日本への留学経験が帰国してからのステイタスになるそうですよ」
「あと、女子学生も多い気がしたなあ」
「学部では女が七割で男が三割って感じですね。図書館学系は女子が、情報学系は男子が多いって傾向があるみたいですよ」
「じゃあ図書館学の男子学生はもてるだろうねー」
「学部生の間での噂ですけど、『新入生の男はどんな奴でも五月までには食われちゃう』なんて伝説もあるらしいですよ」
 そりゃあ羨ましいと変なところにも感心しつつ、そんな伝説も周囲から隔絶された勉学の環境だからこそ生まれるのだろう。――千さんの話を聞きながら、『チャーリーの旅』の中でも荒野の伝説とか独自の社会を築く人たちとかが紹介されていたのを思い出した。旅の終盤で混迷するアメリカ南部を描いた後には、スタインベックは未来への希望を抱く学生と言葉を交わしてエピソードをしめくくるのだ。マッサージ機に身を横たえながら、ふとスタインベックがそういう構成で文章を紡いだ理由が分かったような気がした。
 ともあれ、こんな図情の充実した環境でたっぷり学んだ学生さんたちが図書館の未来を担っていくわけだ。願わくは、快適さと知的な刺激に満ちた図書館をもっともっと増やしていってほしいし、その図書館の書架に僕の著書や新訳の『チャーリーとの旅』も並べてほしいものである。

筑波大学中央図書館データ
住所: 〒305-8577
茨城県つくば市天王台1-1-1
連絡先: 029−853−6055(メインカウンター)
※詳しい開館時間・休館日につきましては、下記ホームページでご確認ください。
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/chuo/
 
筑波大学図書館情報学図書館データ
住所: 〒305-8550
つくば市春日1丁目2
連絡先: 029−859−1232
※詳しい開館時間・休館日につきましては、下記ホームページでご確認ください。
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/tojo/
 


竹内真(たけうち・まこと)
1971年生まれ。95年、三田文学新人賞を受賞。98年『神楽坂ファミリー』で小説現代新人賞を、99年『粗忽拳銃』で第12回小説すばる新人賞受賞。主な作品に『カレーライフ』(集英社)、『図書館の水脈』(メディアファクトリー)、『自転車少年記』(新潮社)などがある。


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