今回はちょっと英語教師らしく、英単語の覚え方のようなものを少々。
まずは、これを。
「モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタ、オクタ、ノナ、デカ」
これは、高校で化学をとった人はいやでも覚えさせられるはずの、1から10までの数詞で、たとえば、「ジメチルエーテル」というと、メチル基が2つあるエーテルという意味。なつかしい!
これをアルファベットで書くとこうなる。
1(mono)2(di)3(tri)4(tetra)5(penta)6(hexa)7(hepta)8(octa)9(nona)10(deca)
化学に登場する様々の化合物を表わすのに、なんでこんな数詞を使ったのかなあ。だいたいギリシア語とラテン語が混じっているし。いっそ英語なら、「ジメチルエーテル」は「ツーメチルエーテル」でわかりやすかったのに……というぼやきはさておき、この1~10までの数詞を覚えると、英語にもかなり応用がきくのだ。
たとえば1を表わす「モノ」がつく単語には次のようなものがある。
monotone 一本調子、モノトーン
monotonous 一本調子の、単調な
monocle 片メガネ
つまりレンズがひとつのメガネ。ちなみに“cle”というのは「円」とか「輪」のことで、“circle, cycle, cylinder”なんかも似た意味。なんか、「サイクル」とか「サークル」とかいってると、丸いような感じがしてくるではないか。「円グラフ」は “circle graph”だし。「テニス・サークル」の「サークル」も、ここからきていて、やっぱり「円」なのだ。昔なら「同好会」といってたけど。『ジーニアス英和大辞典』によると、「(米俗)麻薬パーティのグループ」という意味もあるらしい。
また、これにフランス語の2を表わす数詞の“bi”がくっつくと、“bicycle”。つまり日本語では「自転車」と表現するけど、直訳すれば「二輪車」が正しい。日本では明治以降に入ってきたものだと思う。『日本国語大辞典』には次のような説明がある。「乗った人が両足でペダルを交互に踏み、車輪を回しながら進むようにつくられている軽便な車両」。なるほど、自転車は車両なのだ。そしていうまでもなく、“mono cycle”は「一輪車」。
mono brow “brow”は「眉」、つまり二本の眉がくっついている一本眉
Monosero 一角獣座
南の方にある星座らしい。この単語の後半の“seros”がちょっとおもしろくて、“triceratops”という単語がある。恐竜好きなら知らない人はいない、「トリケラトプス」、つまり3つ角のある恐竜。“tri”はあとで紹介するけど、3を表わす数詞なのだ。
monochrome 単色、モノクロ
monocracy 独裁政治
“cracy”は「統治」。“democracy”の“demo”はギリシア語で「民衆」。
monogamy “gamy”は「結婚」、つまり、「一夫一婦制」のこと。
ちなみに「複婚制」は“polygamy”。“poly”は「たくさん」という意味なのだ。たとえば、太平洋中南部のハワイ、サモア、イースターなどなどの島々を「ポリネシア」というけど、これは「たくさんの島々」という意味。“nesia”はギリシア語語源の言葉で「島」。ほかにも、“polygon” は「多角形」。“gon”は「角形」というか「角」かな。ちょっと専門的になるけど、「過食症」は“polyphagia”。その他、ポリエチレン、ポリフェノール、ポリエステルなどなど、化学用語は数知れず。
monologue “logue”というのは「話、発話」のことで、これは「独白」という意味。芝居やなんかで、よく使われる「モノローグ」。
とまあ、“mono”だけでも目立ったものがこれくらいあって、まとめて覚えれば単語の10や20は軽い。
さて、次は2を表わす“di”……だが、英語では“du”のほうが多い。
dual 二重の
duel 決闘
duet 二重唱、二重奏
3を表わす“tri”については、日本語でもおなじみの単語が並ぶ。
trio トリオ
triangle 三角形
triple 三倍、三重
この単語の後半“ple”というのが「倍、重」という意味で、“multiple”というと、マルチにプルプルするから、「多様な、複合的な」という意味になる。じつは“simple”のプルもこれで、前半の“sim”というのが「1」を表わす数詞なのだ。
tripod 三脚
ただし発音に注意。「トリポッド」ではなく、「トライポッド」。“pod”は「脚」。というわけで、“tetrapod”は「四脚」、というか、これはこのまま「テトラポッド」。海岸なんかでよくお目にかかる、あれ。波を打ち消すのが役目、つまり護岸のために沈めてあるのであって、魚のすみかにするためではない。いい釣り場になるんだけど。
そして“tetragon”は、いうまでもなく「四角形」。また、三部作“trilogy”に対し、四部作は“tetralogy”。そしてジュースなんかが入っているテトラパックは、「四面体のパック」。ちょっと変わったところでは、スポーツの4種競技(馬術、射撃、水泳、競走)を “tetrathlon”という。これに対し、水泳、自転車、マラソンの3種をひとりでやるのを“triathlon”。
というふうに詳しくやっているときりがないので、次は、5を表わす“penta”。これはもう“pentagon”に代表してもらおう。小文字で始まると「五角形」だけど、大文字で始まると「アメリカ国防総省」のニックネーム。建物を上から見ると五角形になっているから。
6と7の“hexa”“hepta”はスキップして、次は8の“octa”。
octopus タコ、“pus”はいうまでもなく「脚」。
octave オクターブ、8度音階
次は10を表わす“deca”(“deci”)について。
decade 10年
decimal system, decimal scale 十進法
decimal classification 図書館の10進分類法
ただ“deca”“deci”は10分の1を表わすこともある。
deciliter デシリットル、10分の1リットル、つまり100 cc
decimal 小数
さて、10が出てきたので、100も覚えておこう。“cent”“centi”がこれにあたる。これらもまた100分の1の意味を持っている。
centenary 100周年記念
centennium 100年、1世紀
centipede ムカデ、つまり100の足で、日本語と発想はまったく同じ。“pede”も“ped”も“pod”も、さっき出てきた“pus”と同じで、脚・足を表わす。“pedal”「ペダル」という言葉もここから。
cent 100分の1ドル
centimeter センチ、100分の1メートル
また、1000、1000分の1は“milli”
millimeter ミリ、1000分の1メートル
このあたりで日本人は損をしている。というのも、小学校でよく出る問題に「メートル、センチ、ミリ」の換算があるのだが、これは欧米では問題にならない。というのも、「センチ」というのは「センチメートル」であって、「100分の1メートル」であり、「ミリ」というのは「ミリメートル」であって、「1000分の1メートル」なのだから、そもそも「1メートルは何センチですか」という問題は成立しない……はずなのに、なぜか、むこうでも算数で出たりする。不思議だ。が、日本人はハンディを負っているのはまちがいない。
しかしなんといっても、“milli”なら、“millennium”(1000年、千年祭)かな。日本でも西暦2000年のときはあちこちで「ミレイニアム」の行事が相次いだし。ただ要注意なのは、西暦2000年はまだ20世紀で、21世紀は2001年から。えーー、なんで? という声があがりそうだし、筒井康隆はこのへんをうまくつかまえて、「じつはこれは10進法じゃなくて、11進法なんだ」なんて短編も書いている……けど、まあ、しょうがないかな。もし2000年を21世紀にしたら、1世紀の最初の年が紀元0年になっちゃうんだから。紀元0年という年はないよね、やっぱり。紀元1年の前の年は紀元前1年なんだから。これって、数直線を書いてみればわかるけど、なんか変なのだ……というか、そもそも「0」なんて数字が変なのかも。
ところで、「オクタ」は8と書いたけど、これから生じた“October”は「8の月」だから、8月?
もちろん、そうではない。が、ローマ時代、ある時期までは、“October”は「8月」だった。それがなぜ、10月になってしまったのか。
それをいえば、次の9を表わす“nona”にしても、これから生まれた“November”はもともと「9月」で、10を表わす“deca”から生まれた“December”も、もともと「10月」……なんで?
さて、この話は次回に続く!
第16回 英単語には数字がいっぱい!
金原瑞人(かねはら・みずひと)
1954年、岡山県生まれ。法政大学社会学部教授。翻訳家。ヤングアダルトの分野を中心に精力的に翻訳活動を行ない、訳書は300点近い。エッセイや評論などでも活躍。おもな訳書に『豚の死なない日』(ロバート・ニュートン・ペック)、『満たされぬ道』(ベン・オクリ)、『青空のむこう』(アレックス・シアラー)、『ブラッカムの爆撃機』(ロバート・ウェストール)、『リビアの小さな赤い実』(ヒシャーム・マタール)、『武器よさらば』(アーネスト・ヘミングウェイ)、『国のない男』(カート・ヴォネガット)など。著書に『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』『大人になれないまま成熟するために』などがある。





