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お戒壇巡りって、ご存知でしょうか。
今日はどうしたのですかという私の問いに、女はそう切り出した。
あ、行かれたことがあるんですね。だったら話が早いです。アレは本当に真っ暗ですよねえ。中入っちゃうと何にも見えないんで、初めてだと皆さん驚かれますもんね。この間――そう、年の瀬の頃なんですけどね。特に酷かったんですよ。何って、観光客が。わかるんですけどね、キャー暗い、とか、後どれくらい? 後どれくらい? なんて騒がれると、興ざめしちゃうでしょう。だから私ちょっとおどかしてやろう、て思ったんです。うふふ、意味はないんですけどね、中頃まできたあたりで、にゃあ、なんて鳴いてやったんですよ。やだ先生、後ろなんか見て。私ですよ。上手いもんでしょう、鳴きマネ。ですから皆さん面白いくらい驚いてくれまして。今、猫の声したよね。何で? なあんて言って。つい面白くなっちゃいまして何度かにゃあにゃあ言ってたんですけどね、そしたらそのうち別な人もマネして鳴きはじめたんです。
にゃあにゃあ
にゃーん
にゃあにゃあにゃあにゃンにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにャ
さすがにやり過ぎでしたね。列の先頭あたりの人が錠前をがちゃがちゃ触る頃になっても、まだにゃあにゃあ言ってましたから。がちゃん、にゃあにゃあ、がちゃがちゃ、にゃああンてな具合で、ずうっと。
それでですね。気がついたのは、本堂から出た後だったんですけれど。
女は浅黒い腕を差し出した。
――痛みはしないんですが、いつまでたっても消えなくて。
腕には産毛の合間を縫うかの如くびっしりと、猫が引っ掻いたような跡が残されていた。
傷跡が幽かに放つ獣の臭いに眉を顰(ひそ)めると、女の眼は三日月形の、緩やかな弧を描く。
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阿丸まり(あまる・まり)
世界で一番善光寺に近い短期大学で学びはじめて早一年あまり。
月日の流れが急加速する毎日に、時折恐怖しております。 |
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