私が勤めているアパレル会社で社員旅行に行った時の話です。
社員旅行の内容は、本社に朝、集合してバスで特急の停まる駅まで行ってから、特急に乗り換えて観光地で下車し、そこの温泉で一泊して帰る、というものでした。
会社から乗るバスには女性のバスガイドさんが添乗員として乗っていました。ガイドさんは、女の私が見ても見惚れるくらい綺麗な方で、繊細で優しそうな雰囲気の方でした。
車中では会社の皆とガイドさんは、唄ったりゲームをしたりして楽しく過ごしました。
ところが出発してから三十分ほど経過したあたりで、バスが赤信号で急停車したのですが、ガイドさんはその瞬間、荒い呼吸をしはじめ、「お前ら、早く降りろ! 体中が痛くなるだろ!」と充血した目を剥いて、口角泡を飛ばしながら怒鳴りだしました。あまりの急変振りに、皆、戸惑いましたが、それにも構わずガイドさんは「早く降りろ! お前ら乗ると苦しくなる! 命令に邪魔入る!」と頭を抱えて支離滅裂な言葉を叫び続けます。
見かねた営業部長がどうして降りないといけないのか、と諫めるように声を掛けると、
「お前、ガキがいる癖にシートなんかに座るな!」そう言って部長の脇までゆくと、腕を引っ張って強引に立たせようとします。
バスはすぐに停車し、ガイドさんは、運転手が呼んだ救急車で運ばれてゆきました。
気分がすっかり損なわれましたが、とりあえずバスは再発進し、私達は駅で特急に乗り換えました。ところがその後、列車はブレーキ命令系統の障害で脱線事故を起し、四十五名が負傷し、十名の方が亡くなられました。
幸い私達は体の打撲だけで済みましたが、営業部長だけが運悪くシートに挟まれて、圧死してしまいました。私は入院していたので聞いた話ですが、部長には、八歳になるお子さんがいらっしったそうで、葬儀中のご遺族の悲嘆は、正視し難いものだったそうです。



