週刊てのひら怪談

2007年2月、字数制限800字の文学賞「ビーケーワン怪談大賞」から生まれた作品集が『てのひら怪談』として発売され、たちまち話題となり、その夏に開催された第5回の同賞は、質量ともに前年までを大きく上まわる活況を呈した。
2007年12月、第5回の応募作663編の中から選りすぐられた作品が、『てのひら怪談2』として早くも発売された。ここでは、その『てのひら怪談2』収録作家たちが新たに書き下ろした渾身の一作を、週替わりで2編ずつお送りしていきます。
800字怪談の精鋭が腕を競う『対の妖(ついのあやかし)』の諸相を、ご堪能ください!

聞こえていますか?

 私が勤めているアパレル会社で社員旅行に行った時の話です。
 社員旅行の内容は、本社に朝、集合してバスで特急の停まる駅まで行ってから、特急に乗り換えて観光地で下車し、そこの温泉で一泊して帰る、というものでした。
 会社から乗るバスには女性のバスガイドさんが添乗員として乗っていました。ガイドさんは、女の私が見ても見惚れるくらい綺麗な方で、繊細で優しそうな雰囲気の方でした。
 車中では会社の皆とガイドさんは、唄ったりゲームをしたりして楽しく過ごしました。
 ところが出発してから三十分ほど経過したあたりで、バスが赤信号で急停車したのですが、ガイドさんはその瞬間、荒い呼吸をしはじめ、「お前ら、早く降りろ! 体中が痛くなるだろ!」と充血した目を剥いて、口角泡を飛ばしながら怒鳴りだしました。あまりの急変振りに、皆、戸惑いましたが、それにも構わずガイドさんは「早く降りろ! お前ら乗ると苦しくなる! 命令に邪魔入る!」と頭を抱えて支離滅裂な言葉を叫び続けます。
 見かねた営業部長がどうして降りないといけないのか、と諫めるように声を掛けると、
 「お前、ガキがいる癖にシートなんかに座るな!」そう言って部長の脇までゆくと、腕を引っ張って強引に立たせようとします。 
 バスはすぐに停車し、ガイドさんは、運転手が呼んだ救急車で運ばれてゆきました。
 気分がすっかり損なわれましたが、とりあえずバスは再発進し、私達は駅で特急に乗り換えました。ところがその後、列車はブレーキ命令系統の障害で脱線事故を起し、四十五名が負傷し、十名の方が亡くなられました。
 幸い私達は体の打撲だけで済みましたが、営業部長だけが運悪くシートに挟まれて、圧死してしまいました。私は入院していたので聞いた話ですが、部長には、八歳になるお子さんがいらっしったそうで、葬儀中のご遺族の悲嘆は、正視し難いものだったそうです。

プロフィール

池田和尋(いけだ・かずひろ)
英国人を父に持つ為、幼年期を英国ですごす。神戸清心女学院卒。趣味は野鳥の観察とスキューバダイビング。ただし、ジャンキーの為、重度の妄言、虚言癖あり。

白い人

 その日、私は仕事で浜松へ向かうことになった。急なことで、新幹線の車内で読む本の用意がなく、東京駅の売店で、間に合わせに文庫本を購入したがまるで趣味に合わず、あきらめて眠ろうとしたが、後ろの席の女が声高にしゃべっているのが、どうにも耳について寝つけなかった。
 「生理前って体調が悪くなるでしょう? 私の場合はね、目の端に小さな白い人が浮かぶの。陰陽師が式神を使う時の白い紙の人形(ひとがた)ってわかる? そういうのがちらちら飛ぶの。生理が始まるとぴたりと見えなくなるんだけど、気になるじゃない? 母に相談したら顔をしかめて気にするなっていうばかりで……。友達にも随分相談したわ。でも親身になってくれた人ほど疎遠になるの。親が離婚して転校したり、病気で入院してしまったり。大学病院で検査もしてもらったけど、原因不明」
 私はいつの間にか女の話に耳を傾けていた。妻も生理前はよく体調を崩す。ホルモンバランスの関係らしいが、女性が犯罪を犯す時は生理前が多いという説もあるそうだ。
 「近所のおばあちゃんのお医者さんが(病気ではないけど心当たりがあるから調べてみる)っていってくれたけど……翌日全焼したの。その病院。おばあちゃん先生も亡くなって。それ以来人に話すの止めてたんだけど、そうするとね、増えるのよ。その白い人が。前が見えなくなるくらいに。だからね、こうして見ず知らずの人に話すようにしているの」
 その声は私のすぐ後ろで聞こえた。まるで座席に顔を寄せて話しているように。私は何故だかぞっとして、振り返ることもせずトイレに立った。
 気持ちを落ち着かせて席に戻ると、後ろの席には誰もおらず、そこには(ご迷惑おかけしたらごめんなさい)と書かれた紙切れが残されていた。

プロフィール

六條靖子(ろくじょう・やすこ)
1966年東京都出身。“地味な”広告制作が仕事です。旅行関連の仕事が多いのですが、古い温泉や山奥の秘湯っていろいろありますよ。機会があればぜひご披露したいものです。

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