週刊てのひら怪談

2007年2月、字数制限800字の文学賞「ビーケーワン怪談大賞」から生まれた作品集が『てのひら怪談』として発売され、たちまち話題となり、その夏に開催された第5回の同賞は、質量ともに前年までを大きく上まわる活況を呈した。
2007年12月、第5回の応募作663編の中から選りすぐられた作品が、『てのひら怪談2』として早くも発売された。ここでは、その『てのひら怪談2』収録作家たちが新たに書き下ろした渾身の一作を、週替わりで2編ずつお送りしていきます。
800字怪談の精鋭が腕を競う『対の妖(ついのあやかし)』の諸相を、ご堪能ください!

閉じ込められて

 宮辻さんは公園のトイレに閉じ込められたことがある。
 「それは夜の九時になると自動的にロックされちゃうヤツなの。でも中からは普通に開けられるようになってるのね」
 しかし、手動のカギは壊れていた。
 「外に友達がいたんだけど、携帯がつながらなかったからドアを叩きまくったの」
 宮辻さんの異変に気付いた友人たちが、トイレの前に集まってくる。
 「……良子? なんかあったの?」
 「宮辻、本当に出られないのか?」
 「緊急用の電話は? つながらないって?」
 ガンッ。
 「ちょっと、やめなさいよ!」
 「バカ、宮辻が閉じ込められてるんだぞ」
 ドンッ、ガン、ガン。
 「まてって、今から警察に……」
 「――っ! ちょっと、見て。アレ……」
 「なんだぁ、アレ……?」
 外にいる友人たちの意識がそれた気がした。
 そして一時の静寂の後、立て続けに地の底から吼えるような絶叫が木霊(こだま)した。悲鳴の合間には、重い物がぶつかる音や乾いた音、何か湿ったものを撒き散らかすような音もした。
 「み、宮辻。絶対そこを出――」
 言い終わる前に「どずんっ」という鈍い音が、弱々しい友人の声を潰した。

 それでみんなは? と私が聞くと、
 「知らなかったって。あたしが閉じ込められていたなんて。だからたちの悪い夢でも見てたのよ。きっと……」
 宮辻さんは警報装置の作動で駆けつけた警備員に救出された。その時、中で半狂乱となっていた宮辻さんを見て、警備員は小さく「またか」と呟いたという。

プロフィール

痛田三(つうだ・みつ)
80年代生。偏食家なため、お脳の栄養バランスが極端に偏っている。好きな怪談作家は平山夢明。

夢に見るは美しき君の屍

 葬列がいく
 風になびく白い吹流しを 先頭にして
 紋白蝶のように踊る君を 最後にして
 葬列がいく
 風になびく白い吹流しを 先頭にして
 墓場に用意された 深い穴を目指して
 穴に降ろされた棺を 人は悲しげに見ている
 穴に落ちていく土を 君は微笑んで見ている
 泥饅頭ができると
 君はそのなかに 淡雪がとけるように 消えていった
 ぼくは 泥饅頭のそばに座り込み
 指先で 墓土をつまむ
 今夜 君の姿を 夢にみたくて
 指先で つまんだ墓土を ぼくは そっと口にふくむ
 夢に見るは 美しき君の屍
 白牡丹のような君ならば 屍となっても美しいことでしょう

プロフィール

高橋史絵(たかはし・ふみえ)
三歩あるけばすべてを忘れる酉年の生まれ。
常に朦朧として歩いているためか、三輪車からおばあちゃんのシルバーカーまでいろんなモノに轢かれた経験をもつ。

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