半歩遅れて登ってくる友人と二人、言葉も無くただ頂上を目指していた。中学生最後の登山競争。三十年以上続く学校行事だ。運動部のやつらは、さっさと僕らを追い抜き駆け上がって行った。苔むした大きな岩や、太い木の根っこがあちこちに顔を出す山道を駆け上がるのは、普段運動に縁の無いものにはこたえる。でも、参加しなければ体育の成績にひびくのだ。登り始めてすぐ、走るのは諦めた。ともかく頂上にたどり着けばいいのだ。足を止めると動けなくなるので、ただ前だけを見て、黙々と落ち葉を踏みしめ登る。後ろから来た何人かにまた抜かされた。タオルで流れる汗を拭う。顔を上げると大きな岩が突き出ているのが見えた。
急に足元の落ち葉がざわざわと波打ち、くるくると舞い上がった。真後ろで足音が止まり、僕もタオルを握ったまま立ち止まった。
真っ赤な花が一面に描かれたふんわりとした長いスカートを翻しながら、ぴょんと岩の陰から一人の女が現れた。足元の落ち葉をスカートの裾で巻き上げながら、ものすごい速さで下りてくる。僕は、右足を一歩後ろへ引いて道をあけた。すれ違いざま、女の長い髪が僕の頬を撫でた。
右腕にしがみついている友人と二人、地面を滑るように下りていく女の後ろ姿を見送った。女は、あっという間に小さくなって見えなくなった。
汗がいっぺんに引いていくのがわかった。二人顔を見合し、同時に駆け出した。木の根に足を取られながら、先を争うように登った。胸がドキドキと音をたてているのは、走っているからなのか、それとも女の髪の香りの所為(せい)なのか。こんなに走ったのは、小学生の時近所の犬に追いかけられて以来だ。運動部のやつらが下りてきた。後もう少しで頂上だ。
去年よりずっといい順位の書かれた紙をもらい、二人黙って山を下りた。



