家に帰ると、母が突然まくし立てた。
「亀村に今日、ケーブルテレビの人が来たんだって。お店の取材でね。で、テレビの人に見られるとまずいっていうんで、おじいちゃんを部屋に閉じ込めてずっと隠してたんだってよ。ひどいことするわねえ」
亀村というのは、近所にある和菓子屋だ。そこのおじいちゃんが認知症だというのは、僕も前から知っていた。通学途中のバスの中から、横断歩道の前に青いパジャマで立っている老人の姿をよく見かけたものだ。信号が青になっても渡るでもなく、真っ直ぐ前を見つめて立ちつくしている……。
あのおじいちゃんが部屋に閉じ込められていたのか。物悲しい話だ。それを楽しそうに話す、うちの母親も困ったもんだが。
放送当日、母と僕はテレビの前に陣取った。
番組が始まった。リポーターが、お店の人にインタビューして、大福を頬張る。
「この人が二代目ね、この人が三代目で、あんたとそんなに年は変わらないはずだよ。あんたと違って、しっかりしてること」
と、母はやかましい。
番組も終わりに近づき、カメラは、店の中で手を振る亀村家の人を映しながら店を出た。
江戸紫色の自動ドアが閉まる。
(あっ……!)
自動ドアに映っているのは、カメラマンとリポーターと、そして、リポーターの隣にいるのは、亀村のおじいちゃんじゃないのか。
カメラがそのままパンして、リポーターを捉えた時には、おじいちゃんの姿は影も形もなかった。
番組が終わり、CMが始まる。
母は、じっと画面を見つめている。その横顔が、ひどく遠い。
数週間後に、亀村のおじいちゃんは亡くなった。自然死だ。珍しく口数の少ない母から、それを聞いた。



