週刊てのひら怪談

新たな書き手が、続々登場!「てのひら怪談」ムーヴメント、益々拡大中。
 今年2月の刊行以来、新聞各紙や雑誌などで相次ぎ紹介され、関係者の予想を超えた拡がりを見せている800字の怪談集『てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選』。
 6月には、東京・西荻窪にて、本書の編者である加門七海さん、福澤徹三さん、東雅夫さんをはじめ、歌人の穂村弘さん、ライターの北尾トロさん、作家の京極夏彦さんと平山夢明さんをゲストに迎え、「西荻てのひら怪談」と銘打つイベントが行われました。
 このイベントに先立って「西荻窪にまつわる800字以内の怪談」を一般公募したところ、お題の特殊さにもかかわらず121編もの応募作が寄せられました。
 優秀作品を当日、会場で選出し、『西荻てのひら怪談カードブック』に掲載しましたが、応募作の中には、このまま埋もれさせるには惜しい多くの逸品が、まだまだありました。
 そこで、今回から”週刊てのひら怪談・特別編【西荻シリーズ】”と題して、イベントで紹介しきれなかった秀作・力作・怪作の数々を、例によって相通ずるモチーフによる二篇一対の形でお届けして参ります。
 拡がり続ける「てのひら怪談」の世界に御注目ください!

西荻はどこですか?

 太田道灌はこっちの道だという。豊嶋泰経に聞くと「あいつ信用ならない」って。道灌に嘘付かれたことあるみたい。「オレの日記見てみるか? ちゃんと書いてあるぜ」道灌が言うと「その日記が怪しいってんだよ」ちょっと、ちょっと、ちょっとちょっと。喧嘩しないでよ。松庵稲荷の狐のミイラは「ほおら、人間なんてこれだから」いやいや、こんなこともあるんだって。道灌も悪い奴じゃないんだけど、時代がさ、悪いのよ。うん。宮前中学内の墓におわす春日満右衛門さんからも「人間だって捨てたもんじゃないと思う」とコメントを頂戴した。遠くは奈良まで百五十里。往復一ヶ月以上かかって、お神霊をいただいて来た満右衛門さんに言われると言葉の重みが違います。でもさあ、道はどっちだ。行くのは奈良じゃない。「どこ行くにしても、まずは水だろ」とは源頼朝の弁。いらないもん。自動販売機でお茶買うから。「いや、やっぱ、湧き水だって。オレ得意よ。善福寺池の水源見つけたのオレだし」ロハスとか、エコとか頼朝言い出す。困ったなあ。「霊の世界はあーる」ああっ。丹波さん。そうだ。あなたがいらした。「いや。道はひとつではない」いえ、あたしが聞きたいのは……「秋祭りには皆さん、万障お繰り合わせの上我が家へ」うぅぅぅっ。秋まで待てない。「親類のお城の跡地に遊園地できたんだけど。そこまでの道じゃ駄目?」親切にも豊嶋泰経が言ってくれた。もうなんか、いいかな。遊園地楽しそうだし。「ただで入れてくれる?」と聞いたら豊嶋の殿様「んなわけないだろ」って。なんだ商売かよ。ちぇっ。

プロフィール

平金魚(たいら・きんぎょ)
これを書いた直後は完璧だと思ったのですが、今読み返してみるとわけわかんないですね。すいません。何が何やらとお思いの方、【註釈編】を参考になさって下さい。

案内(あない)する

 西荻窪の駅を出ると犬の溜り場があって、制服を着た犬のお巡りさんが目的地まで案内してくれる。この辺は猫路地が多いので、知らない人は迷ってしまう。猫路地に迷い込むと、人は突然、塀の上から落っこちたり、二階の窓から他人の部屋へ入り込む、打ったばかりのコンクリートに足跡をつけて作業員に怒鳴られる、ようやく抜けたかと思うとアパートの階段の下で、今度は鼠スープのラーメンを前に恍惚(うっとり)している猫と出くわす破目になる。どれもこれも猫の悪戯で、善福寺池に棲む三本足の鯨に呑まれるよりは遥かにましだが、それでも猫の毛毟(けむし)り遊びの相手なんかさせられては堪らない。悪気はなくても猫の悪戯には危険きわまりないものが多いのだ。昔、龍道仙人(ピンクの象のモデルになったとされる。五百歳を越えてなお桃色の頬をしていたのだとか)が化け猫の八十吉と遊んでいて、過って食われてしまったと伝わる猫櫓(冬は炬燵、夏は日陰の昼寝場所になる。一度に百匹の猫が乗れるという、人間には幻の巨大な櫓)があったのもこの辺りである。
 路地を抜けると、猫の妖気を当て込んで大挙して押しかけてきた連中が商店街を作っている。由緒正しい天狗の蕎麦屋、猪八戒(ちよはつかい)の甥が営むとんかつ屋はまだしも、禁書ばかり並べた逸(はぐ)れ陰陽師の古書店や、客を掌大に縮めて食らう牛頭の主人が開いたミニギャラリー、古美術といえば聞こえはいいが古道具の皮を被った付喪神(つくもがみ)、魑魅魍魎の巣窟となると危(やば)いだけでは済まない。しかし、犬のお巡りさんがいれば安心だ。怪しげな幽霊組織の勧誘員につきまとわれることもない。
 で、犬のお巡りさんは路面を叩く軽い爪の音を響かせながら先導してくれる。「あないする」と背中に書かれた制服の文字が頼もしい。鼻面を振り向けて、ウーゥ、お巡りさんが唸った。どうもこっちは駄目らしい。
 東京タワーより大きそうな黄色いこけしの姿が闇に滲んで茫(ぼう)っと見える。

プロフィール

不狼児(ふろうじ)
世界陸上を録画して、一日遅れで早送りしながら見てました。競技だけならこれほど面白いものはないです。何かに追われるように跳んだり走ったりする選手の波動を浴びて、夏バテも少し解消されそうです。

最新記事

ポプラビーチを読んだ感想をぜひお寄せください。
皆さまのおたよりお待ちしております。
感想を送る
ポプラビーチトップへ戻る