週刊てのひら怪談

新たな書き手が、続々登場!「てのひら怪談」ムーヴメント、益々拡大中。
 今年2月の刊行以来、新聞各紙や雑誌などで相次ぎ紹介され、関係者の予想を超えた拡がりを見せている800字の怪談集『てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選』。
 6月には、東京・西荻窪にて、本書の編者である加門七海さん、福澤徹三さん、東雅夫さんをはじめ、歌人の穂村弘さん、ライターの北尾トロさん、作家の京極夏彦さんと平山夢明さんをゲストに迎え、「西荻てのひら怪談」と銘打つイベントが行われました。
 このイベントに先立って「西荻窪にまつわる800字以内の怪談」を一般公募したところ、お題の特殊さにもかかわらず121編もの応募作が寄せられました。
 優秀作品を当日、会場で選出し、『西荻てのひら怪談カードブック』に掲載しましたが、応募作の中には、このまま埋もれさせるには惜しい多くの逸品が、まだまだありました。
 そこで、今回から”週刊てのひら怪談・特別編【西荻シリーズ】”と題して、イベントで紹介しきれなかった秀作・力作・怪作の数々を、例によって相通ずるモチーフによる二篇一対の形でお届けして参ります。
 拡がり続ける「てのひら怪談」の世界に御注目ください!

西荻てのひら怪談

「西萩で怪談のイベントがあるそうやな」
 「ほう、イベントみたいな洒落たもん、萩ノ茶屋でやんのんかいな」
 「誰が大阪の西萩の話してんねん。東京の西荻窪や」
 「おえ。萩と荻は字が違うで。西荻や」
 「ほんまや。えらい違いや」
 「それはええとして、お前、行くんか?」
 「お前もどうや。怪談好き同士」
 「まあ、ええけど、どないしていくんや。新幹線やんな」
 「そや。東京まで行くやろ。ほんで、中央線に乗り換えるんや。会場は駅前にあるこけし屋いうとこらしいで」
 「まあ、それぐらいやったら行けんこともないな。四時間もあったら着けるやろ」
  ええ加減な参加もあったもので、要予約のイベントということも知らずに、この二人、イベント当日に新幹線に飛び乗りました。道中もわいわいアホなことを言いながらですので、あっという間に東京に着きます。駅構内でも案内板を見ながら何とか中央線快速に乗り換えます。
 「なあ、三十分くらいで着くはずやんな」
 「そのはずや」
 「せやけど、一時間前に着いてブラブラするつもりやったのにもう開始時刻やんか」
 「うそ? さっき乗ったばっかりやで」
 「せやけど、時計はそないなっとる」
 「けど、まだどこの駅にも着いてへんで」
 「そういや、なんで俺らだけやねん」
 「乗るときは、ようけおったやんな」
 「知らん。覚えてへん。それに、見てみ、外の景色もようわからん」
 「何やこれ、お前の生命線の上を走っとんのちゃうか」
 「ほんまや。俺がおんのは、俺の掌やんか」
 「あかん。お前の生命線尽きるで」
 「うわっ、これ……」
 

 

プロフィール

朱雀門出(すざくもん・いづる)
今月は出張が多く、このページがアップされる頃には弘前にいます。弘前では、TVで放送中に目が開いたと騒ぎになった生首の描かれた掛け軸のある、正伝寺を訪ねるのを楽しみにしています。全然仕事と関係ないですけど……。

てのひらを返すように

 非常に紛らわしいことに。と世界の終わりの魔法使いは前置きした。
 西荻窪という住所はこの世にない。あるのはJR中央線を挟んで南北に存在する、西荻南と西荻北である。しかし、荻窪駅と吉祥寺駅に挟まれた西荻の駅は西荻窪駅と名づけられ、駅周辺の施設や店舗にもまた西荻窪店と名づけられたものが散見される。これと同じことは、西荻にも言える。西荻窪駅周辺には、西荻店の名を冠する店舗も数多く存在するのだ。西荻窪と西荻、果たしてどちらが後から出来たかは、明確なところではないが、ここでは西荻と称したいと思う。そう、西荻の地をすっぽりと覆い隠すようにして、もうひとつの西荻があることは今さら言うまでもない。
 もうひとつの西荻についても語ろう。それは――たちの集まる町だ。現実に存在する西荻に軒を連ねる、百とも二百とも言われている骨董品店や古書店に支えられるようにして存在している。――たちはモノに宿り、ひとの身にあっては叶わぬような長き時を経たモノに宿るのが一般的だ。特に――たちが好んで宿るのは、名匠が一生を賭して、この世に生み出したようなモノだ。かような性格を持った――たちが、かようなモノに宿るのか。それともかようなモノの影響を受けて、――たちはかような性格になるのか。それは定かではないが、少なくともかようなモノに宿った――たちの性格が、著しく好戦的で、しかし思慮深く計算高いことは周知の事実だろう。
 此度の――たちの作戦は実に巧妙だ。と世界の終わりの魔法使いは嘆息した。
 西荻を主題とした物語を、人間の手を借りて募集し、優れたる作品があれば、その力を借りて西荻を転覆させ、もうひとつの西荻をこそ現実の西荻にさせるとは……。厭らしいほどに綿密で、ひとを食った作戦ではないか。
 

 

プロフィール

秋山真琴(あきやま・まこと)
1984年生まれ、東京都町田市在住。怪談の極意とは語らないことと見つけたり! と、閃いて以来、手振り身振りによる怪談を模索している。

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