週刊てのひら怪談

新たな書き手が、続々登場!「てのひら怪談」ムーヴメント、益々拡大中。
 今年2月の刊行以来、新聞各紙や雑誌などで相次ぎ紹介され、関係者の予想を超えた拡がりを見せている800字の怪談集『てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選』。
 6月には、東京・西荻窪にて、本書の編者である加門七海さん、福澤徹三さん、東雅夫さんをはじめ、歌人の穂村弘さん、ライターの北尾トロさん、作家の京極夏彦さんと平山夢明さんをゲストに迎え、「西荻てのひら怪談」と銘打つイベントが行われました。
 このイベントに先立って「西荻窪にまつわる800字以内の怪談」を一般公募したところ、お題の特殊さにもかかわらず121編もの応募作が寄せられました。
 優秀作品を当日、会場で選出し、『西荻てのひら怪談カードブック』に掲載しましたが、応募作の中には、このまま埋もれさせるには惜しい多くの逸品が、まだまだありました。
 そこで、今回から”週刊てのひら怪談・特別編【西荻シリーズ】”と題して、イベントで紹介しきれなかった秀作・力作・怪作の数々を、例によって相通ずるモチーフによる二篇一対の形でお届けして参ります。
 拡がり続ける「てのひら怪談」の世界に御注目ください!

西荻窪怪談十三句

子は消えて鵺の背を焼く西日かな

 

踏切や西瓜落として妊婦去る

 

屋根高し 姉は西日に殺される

 

降りてみる誰も使わぬ西階段

 

産み月の妻荻叢に這い入りぬ

 

両眼の縫い針錆びぬ荻の声

 

荻に足を取られて拾う大鎌や

 

荻盛り一村やがて消えにけり

 

発着の跡サイケなり荻野原

 

水無月に立つ死神の笑窪かな

 

姿見の触れてはならぬ窪みかな

 

窪深しかつてアダムの胸の骨

 

ガウディ忌窪地の家は子を孕む

プロフィール

猟奇句会(りょうきくかい)
1997年結成の怪奇俳句愛好会。現在はmixiコミュニティ「猟奇の句(怪奇俳句創作&鑑賞)」にて細々と活動中。メンバーの一人、松本楽志の呼びかけで西荻窪を織り込んだ怪奇俳句をメンバーが書き、十三句を厳選。

をぎをぎ

 知人で漫画家の舞さんは西荻窪に住んでいる。お化けが沢山出る漫画を描いていて、アシスタントはいない。怖い話ばかりを描いているのに、とても怖がりで昼間の明るい時間にしか仕事が出来ないという。
 「薄暗くて何だか昼とは思えないの、おまけにじめじめしてて怖いから来て。」私の携帯電話の留守電に、半泣きの声で舞さんがそんな言葉を残していたのは、薄暗い長梅雨の日のことだった。
 「貴女はいいかも知れないけど、今日は平日よ。仕事も遅くなりそうだし、帰りにちょっと顔を見せるけど、お化けを描いてる人が梅雨に怯えたりしないの。」昼休み、繋がらない彼女の携帯に、私はそんな苦笑交じりのメッセージを残した。
 その晩、私が彼女の仕事場へ行ったのは七時過ぎだったと思う。「どう、仕事はかどってる?」彼女の仕事場には鍵はいつも掛かっていなかったので、躊躇(ためら)わずにドアを開けて中に入り、そして、私は言葉を失った。
 「あ……。」白い荻が描かれている。それも窓ガラス、天井、壁紙、そこら中に。水気を含んだ筆で描かれたのか、絵の具が所々垂れている部分もあるのに、画材らしきものは見当たらず、舞さんも何処にも居なかった。
 「何これ……?」よく見ると荻はざわざわざわと動いていた、まるで白い手のように。
 溜まらず大声を出してその場を逃げ出し、私は家に帰った。そして、その日から舞さんを見た人はいない。蒸発したのだ。
 荻は風になびく姿が霊魂を招き寄せるように見えることから、「をぐ(招)」が「おぎ」に変化したものといわれている。彼女は、何かに招かれて何処かへ消えてしまったのだろうか。あの時、もし私がすぐに駆けつけていたらどうなっただろう。そう考えた後、私も一緒に招かれていたかもしれないと思い、ぶるっと身もだえをして肩を抱いた。

プロフィール

田辺青蛙(たなべ・せいあ)
河童の仮装をする祭りがあるという情報を知って、とある神社へ電話をかけてみたところ、ここ数年参加者がいないということでした。あと、どうでもいい情報ですが冬場は妖怪仲間からもらった蛙の着ぐるみで寝ています

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