怪奇研究家の上申先生のステーションワゴンは、もので溢れかえっていた。つづらおりの山道だ。カーブを曲がる度に、私の膝を蹴る大きな壺がとても邪魔だった。
「それで今日はどこの調査なんですか?」
真正面を向いたまま、上申先生は答えた。
「有名な都市伝説があるだろう? ほら、峠道で、女を轢いてしまうんだ。慌てて飛び出すがそこには誰もいない。運転手がほっと一安心して、前方を見るとそこは崖だった。落ちる寸前だったというわけだよ。ああ、誰かが自分を救ってくれた、と思っていると、どこからともなく声が聞こえるんだ。死ねばよかったのに、って」
「それがここですか?」
山を登り始めてもう一時間は経過した。民家はとっくになくなり、細くうねる道に入った。離合するポイントすらない。
「ああ。噂の出どこは○県だったのだ」
得意げな声だったが、少し震えていた。
まあ、ヘッドライトの明かりしかない道が続いているのだ。噂がなくても何やら背筋がぞっとしてしまう。
「ただね、場所の特定が――」
と、言った瞬間、体が前につんのめった。大きな壺がバウンドして私の顎を直撃した。
「ったぁ。どうしたんですか? 急に」
先生はがくがく震えながら、ハンドルを握りしめていた。
「何か飛び出してきた」
「ええ?」
私は腰を浮かせた。が、そこには何もなかった。飛び出し注意の看板の男の子がにこやかに笑っていただけだった。
「先生、あれを見間違ったんでしょう」
納得しかねる様子だったが、先生はアクセルを踏んだ。そして、離合ポイントでUターンした。
「今日はなんだかエンジンの調子が悪い」
私は何も言わなかった。帰り際さっきの看板が、「死亡事故発生現場」と書かれた素っ気無い立て看板になっていたことも。



