週刊てのひら怪談

2007年2月、字数制限800字の文学賞「ビーケーワン怪談大賞」から生まれた作品集が『てのひら怪談』として発売され、たちまち話題となり、その夏に開催された第5回の同賞は、質量ともに前年までを大きく上まわる活況を呈した。
2007年12月、第5回の応募作663編の中から選りすぐられた作品が、『てのひら怪談2』として早くも発売された。ここでは、その『てのひら怪談2』収録作家たちが新たに書き下ろした渾身の一作を、週替わりで2編ずつお送りしていきます。
800字怪談の精鋭が腕を競う『対の妖(ついのあやかし)』の諸相を、ご堪能ください!

怪奇研究家のUターン

 怪奇研究家の上申先生のステーションワゴンは、もので溢れかえっていた。つづらおりの山道だ。カーブを曲がる度に、私の膝を蹴る大きな壺がとても邪魔だった。
 「それで今日はどこの調査なんですか?」
 真正面を向いたまま、上申先生は答えた。
 「有名な都市伝説があるだろう? ほら、峠道で、女を轢いてしまうんだ。慌てて飛び出すがそこには誰もいない。運転手がほっと一安心して、前方を見るとそこは崖だった。落ちる寸前だったというわけだよ。ああ、誰かが自分を救ってくれた、と思っていると、どこからともなく声が聞こえるんだ。死ねばよかったのに、って」
 「それがここですか?」
 山を登り始めてもう一時間は経過した。民家はとっくになくなり、細くうねる道に入った。離合するポイントすらない。
 「ああ。噂の出どこは○県だったのだ」
 得意げな声だったが、少し震えていた。
 まあ、ヘッドライトの明かりしかない道が続いているのだ。噂がなくても何やら背筋がぞっとしてしまう。
 「ただね、場所の特定が――」
 と、言った瞬間、体が前につんのめった。大きな壺がバウンドして私の顎を直撃した。
 「ったぁ。どうしたんですか? 急に」
 先生はがくがく震えながら、ハンドルを握りしめていた。
 「何か飛び出してきた」
 「ええ?」
 私は腰を浮かせた。が、そこには何もなかった。飛び出し注意の看板の男の子がにこやかに笑っていただけだった。
 「先生、あれを見間違ったんでしょう」
 納得しかねる様子だったが、先生はアクセルを踏んだ。そして、離合ポイントでUターンした。
 「今日はなんだかエンジンの調子が悪い」
 私は何も言わなかった。帰り際さっきの看板が、「死亡事故発生現場」と書かれた素っ気無い立て看板になっていたことも。
 

プロフィール

伊予葉山(いよ・はやま)
9というのが私のNo.らしいです。自分のNo.を知りたい人がいたら、鉄常紗商店街に向かって下さい。道行く人にNo.をつけてくれる少女がいます。
ゆっくり歩かないと気づいてもらえません。

魔誘

 車を手に入れた友人が手当たり次第に仲間をドライブに誘っていたのだが、とうとう私にも番が回ってきたようだ。
 あいにく他の同行者が見つからず、男二人でのむさ苦しいドライブとあいなった。
 それでも日帰りながら普段ならなかなか行けない少し遠目の温泉につかり、楽しいことは楽しかった。
 帰りは遅くなってしまった。暗い中、山道の運転は心配だが、私は運転できないので友人に任すよりない。
 曲がりくねっているのにガードレールのまばらな寂しい山道を走っていると、友人が驚いたような声をあげた。
 「おい、今の見たか?」
 「何?」
 「誰か取り残されてたよな」
 「あ、女の人?」
 友人は車を止めた。ちょうど路肩が広かったのだ。後ろを振り返る。
 「でも、こんな夜に不自然だよな」友人はやけに早口だった。
 「いや、ドライブ中に喧嘩して置き去りにされたのかも」
 「そうか」
 友人が車をUターンさせ少し行くと、カーブを曲がらずに延長した位置に、女が浮いていた。
 何もないところに女が浮かんでいるのは、さっきのままだ。
 しかし、友人には路肩にでも立っているように見えているのだろう。教えてやりたいのだが、私はあれを見たときから、ずっと体が動かせず、声すら出せずにいた。友人が「何か知らぬもの」と話している時もずっと。

プロフィール

朱雀門出(すざくもん・いづる)
先日、クラゲの写真を貼ったフリップを手にし、「こいつの遺伝子を細胞に導入して……」とカメラに向かって説明するという希有な経験をしました。悪の組織の人のようなカメラ写りに、ちょっと凹んでおります。

最新記事

バックナンバーページはこちら

ポプラビーチを読んだ感想をぜひお寄せください。
皆さまのおたよりお待ちしております。
感想を送る
ポプラビーチトップへ戻る