<ゲスト>鍛治壮一さん・阿部昭三郎さん 最終回


世界各地を旅してきた萩尾さんが、アフリカで心に残ったものとは? 
最終回の今回は、会場の皆さんからの質問にお答えします。

◆会場からの質問


萩尾:まったりと会話をしていますが、そろそろ質問タイムにいきたいと思います。3人のうちの誰でもいいですし、アフリカに限らず、何かあったらどうぞ(笑)。

質問者1:チーターが車や人間に近付いてくる映像をよく見ますが、あれは人間に守ってもらおうとしているんでしょうか?

萩尾:そういえばチーターって、よく車に乗りますよね? あれは何故?

阿部:チーターのお母さん次第ですね。さっき鍛治さんも言っていたけど、教育ハンティングといって、早く乳離れをして一人前にさせるために、食べ方を教えます。そういう時に車が来ると、親が逃げないで車の日陰に来て寝る場合があるんです。萩尾さんも話していたけれど、日中、暑い時はやっぱり動物も寝たいわけです。でも木がないと、日陰がないから寝られない。親がそこに寝れば、子どもも安心して車のそばに来るじゃないですか。それを毎日繰り返していると、「ああ人間て、そう恐くないんだ」「車は恐くないんだ」と思うようになる。
そうすると、子どもは親以上に早く慣れますから、今度は獲物を狙う時に木がなければ「そうだ、便利なものがある」って、車に乗ってくるんですよ。というのも草が高いと、獲物が見えないんです。シマウマやヌーは、背丈は1mちょっとあるんですけども、チーターはせいぜい50センチくらいですから。
鍛治さんの車に初めてチーターが乗っかって来たら、びっくりして車の蓋を(開閉できる天井の屋根)閉めちゃった。でも、乗ってくるのは馴れてるチーターで「仲良くしようよ」って、来るんです。普通は、私達が動物の世界に「お邪魔します」って、入って行くんですが、チーターのほうから来てくれたんだから、歓迎しなきゃいけない。なのに、蓋を閉めちゃうってことは、友好を無視してるんですね。

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阿部さんのサファリカーに飛び乗ってきたチーター

萩尾:ええ、鍛治さんでもそんなことが(笑)?

阿部:最近は違いますよ。もう堂々とね、チーターの顔いっぱいにレンズを向けて撮っています。

鍛治:とはいえ野生動物だから、「わー!」と女性が騒いだりすると、チーターも威嚇しますけれど。だから静かにはしてないとね。阿部さんが言われたとおり、チーターにとっては高いものは岩の上と同じなんですよ。岩の日陰というつもりで、車の下に入ってくるんです。そういう時は、こちらが動けなくなることもあるし。
それから初めに言うのを忘れたけど、車のことは知っています。車に乗っている人間は無害というふうに、チーターも親子代々、思っている。だから車から降りたりしたら、身構えるか逃げるかしますよね。原則として、我々は降りちゃいけないんで、男の人が「おしっこしたい」って降りると、身構えるか逃げますよ。

萩尾:車から離れると一人の人間だから、これはちょっと「おいしそうだな」とか「ああ食べてみようかな」とか(笑)。

阿部:ああ、あの質問から脱線しましたけれど、「絶対」ということが一つだけあります。チーターでもライオンでも、彼等のほうから人間に寄って来た場合はかまわないけれど、「あー可愛い」って、ライオンの赤ちゃんを人間が抱いたとしますね。これはその赤ちゃんを殺しのたと同じです。人間の臭いがついたら、親は殺しますから。ゴリラの場合も、ゴリラから人間に、「おい遊ぼうよ」と、手をかける時があるんですよ。これはお互いのコミュニケーションができています。でも人間から向かって行くと、自分が襲われるって気持ちになってワッと噛みますから。これはもう野生の中の鉄則だと思いますね。

質問者2:萩尾先生にお伺いしたいんですが、若い頃から世界中を旅行されたと思うんですけど、旅行好きの方は最後にはアフリカに行きつくと言いますが、やはりその心境になったのでしょうか。もしも宇宙に行けるようになったら、宇宙にも行きたいとお考えでしょうか。

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阿部さんのサフ車を止めると、土産物売りがやってくる。あとの楽しみに、買わない萩尾さん。(撮影:鍛治氏)

萩尾:はい、そうですね。これまで都市に旅行していたんですけれど、ほんと何にもない、草原だけのところで、動物と一緒にいるのはとても新鮮な体験だったので、これから「ペンギンしかいない南極とか行ってみたいな」って気分には、ちょっとなっています。宇宙はもっと何にもないでしょう、衛星の軌道に乗って地球を見てみたいという感じは、ものすごくあります。ただその前には、宇宙に行ったとたんに溶け出すカルシウムをどうやって補給すればいいのかとか(笑)、いろいろ、クリアしなきゃなんない問題があって、夢のまた夢という感じです。

鍛治:もちろんアフリカは遠いけど、そこにいる動物は何万年も生きている。時間の旅と距離の旅と両方辿れるんじゃないか、という気がして、行く理由にしてるですけれど。

萩尾:そうです、そうです。「ああ、ずーっと変わらないものがあるんだなぁ」っていう、不思議な感じになりますね。

鍛治:もうひとつ、僕が質問していいですか? アフリカ、また行きたくないですか(笑)?

萩尾:いや、行きたいですねー(笑)。タンザニアもお薦めと言うので、そこにも行ってみたいと思います。
(2006年1月)

プロフィール
阿部昭三郎(あべしょうざぶろう)
映像作家。アフリカを中心に、動物たちの生態を撮りつづけている。
鍛治壮一(かじそういち)
毎日新聞社を経て、現在航空評論家として週刊ウイング誌にコラム「コクピット」を連載、新聞・テレビの解説でも活躍中。10年前からアフリカのサファリに熱中し、野生動物や大自然を撮影。著書に『ジェットパイロット』『コクピットの男』など多数。日本宇宙少年団理事。航空運行システム研究会常務理事。
 
 

【萩尾望都】
1949年福岡県生まれ。
1969年「ルルとミミ」でデビュー。『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞を受賞。『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫漫画賞を受賞。
際立ったアイデアと世界観、詩的なネーム、確かな画力に裏打ちされた美しい絵柄で、少女漫画の地平を広げてきた。また劇団夢の遊眠社のために『半神』を戯曲化するなど、さまざまなジャンルで活躍を続けている。


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