<ゲスト>鍛治壮一さん・阿部昭三郎さん その3


最初の人類といわれる「ルーシー」が見つかったのはアフリカ。アフリカは人類の故郷といってもいい場所だ。アフリカの太陽、アフリカの雨について、萩尾さんが思ったことは?

◆ アフリカの太陽


鍛治:朝日も見ましたよね。

萩尾:はい、見ましたね。

鍛治:サバンナの大平原があるでしょ。地平線があって。地平線のむこうから大きな太陽があがってくるのね。

写真6
サバンナに沈む太陽とヌー(撮影:鍛治氏)

萩尾:太陽がすごーく、すごーく大きいです。うん。

鍛治:そこにキリンか何かいたら、もう万歳なんだけど、向こうにも都合があるからねえ。

萩尾:キリンの都合が(笑)。

鍛治:いない時はしょうがないから、「あのア力シアの木木の横から太陽が出るのを侍とう」とか、考えるんだけど。

萩尾:アフリカに行ったら、必ずあんな大きな朝日と夕日が毎日見えるのかな――と思ったらそうでもなくて。地平線のほうが曇って見れない日もけっこうあって、「ああ、夕日や朝日を撮るのも大変なんだな」と思いました。

鍛治:朝日はすぐ昇っちゃう感じがするでしょ。昇ると空の色が昼間と同じになっちゃうから。夕日のほうは少しずつ降りて、色が変わって赤くなったりするけど。

萩尾:そうそう。面白かったです。太陽が上がったり下りたりするだけで、毎日、太陽が空に絵を描いているみたいで、非常にきれいでした。

◆アフリカは人類の故郷

鍛治:アフリカで、将来の作品に何か関係のあるような、ひらめきを得ましたか?

萩尾:何かあるといいですけどね〜(笑)。まだ、どうなるか、わからないですね。

鍛治:人の受け売りだけど、人類の歴史は700万年って言われてるでしょ。御存知のとおり、人間はチンパンジーから分かれたんじゃなくて、共通の祖先から分かれて、人間が出てきたけれど、人類は700万年のうち500万年はアフリカにいたんだもんね。

萩尾:ああ、そうですね。骨とか見つかっていますもんね。

鍛治:そういう意味では、アフリカに惹かれるのは手前味噌じゃないような気がするんですよ。

萩尾:何というんでしょうか、広いんですよね。飛行場があるナイロビはちゃんとした都市で、そこから車で走って走って国立公園に行くと、都市文明と自然の落差にびっくりするんです。一方では自動車を作るまでの文明とか文化を発達させるようになった人間がいて、その一方では大地を行ったりしながら生きてる動物がいる、ということに。「神様は何を考えてるのかな?」というか、進化が悪いわけじゃないけど、「どうして人間って進化しちゃったのかな」とか、そんなことも考えてしまいます。

鍛治:阿部さんと私は、亡くなった小倉寛太郎さんが作った「サバンナクラブ」の会員なんですが、我々の仲間じゃ、アフリカに行くことを「里帰り」っていう人が多いんですよ。「今年も里帰りします。」って。
その言い方が、ちょっとキザだなって気がして、僕はあんまり使わなかったんだけど、この前、チンパンジーの研究の第一人者である西田利貞さんの『人間性はどこから来たか』という本を読んで気づいたことがあって。その本の最後で、あるアメリカ人の学者が、「人間には好む場所があって、それはサバンナだ」と言っているんですよ。日本人が庭園を好んだり、盆栽なんかが好きだというのは、人間の脳の中にそういう記憶があるからだ、というようなことを書いている。強引な説かもしれないけれど、「そういう意味なら里帰りっていうことも悪くないんじゃないかな」って、最近は思っています。
(注:『人間性はどこから来たか−−サル学からのアプローチ』西田 京都大学学術出版会 )

◆アフリカの雨

萩尾:アフリカでは雨も凄いのが降りました。いきなり降るんです、雨。公園内は舗装してないから、あっという間に道路が川になります。で、へたに車がはまっちゃうと抜け出せないから、黒い雲が出て来たとなると、ドライバーの人が必死で「さあもう今日は帰ろう」って感じで走り始めるんですけど、雨が追いついて来ますね。

鍛治:さる有名なカメラマンの奥さんが、「アフリカのサバンナの中じゃ、雨は降るんじゃなくて来るんだ」というふうに表現してましたね。

萩尾:雲があるところにだけ雨が降っていて、こう、塊になって動いて来るんですよね。なぜあんなに集中するんでしょうね――って、なぜってことはないか。でも日本では見ない風景。ときどき黒い雲が天気雨をタタタッて降らせることはあるけれど……。

阿部:夏場、東京でもずっと乾燥が続いて、「ひと雨来ないかな」という時に、夕立がありますよね。夕立が来た瞬間って、匂いがしませんか?

萩尾:雨の匂いがしますよね。

阿部:動物は30キロ先の匂いを嗅ぐと言われていて、風で雨の匂いを嗅ぎつけるんですよ。そうすると、けもの道を通って、水分があるほうへ一目散に向かっていく。本能的にそうなんですね。サバンナの風は絶えず吹いているけれど、雨は必ず恵みです。裸足で歩いたら棘の上を歩いてるような地面も、いったん雨が降ると本当に柔らかくなりますから。        
 今回、萩尾さんが偶然の中にもあれだけ見事に撮った理由は、雨が降って止んだんですよね。道はぐちゃぐちゃですけれども、草は当然柔らかくて、ヌーやシマウマにとってはもってこいの場所だった。

萩尾:肉食獣も面白いんだけど、シマウマなんかの草食獣が何頭も群れをなして、きれいな草原で、ずーっと草を食べているのなんか、見ていてすごくなごむんですよ。背中に鳥が何羽もとまったりして。「いやー綺麗ですね、鍛治さん」って言ったら、鍛治さんが「うーんいいねぇ。なごむねぇ。うふふ、うふふ、ライオン来ないかな〜」って(笑)。

会場:(笑)

鍛治:これ私が言うより萩尾さんに聞こう。萩尾さん、この写真(写真8)は覚えてる?

写真7
サバンナの時間が止まった。キリン達は15分過ぎても微動だにしない(撮影:鍛治氏)

萩尾:はい、覚えてます。十何頭かのキリンが、15分ぐらいじーっとして動かないんですよね。

鍛治:首がこうなったらこのまま、全然動かないわけ。こうなったらこのまま。

萩尾:キリンのオブジェが並んでる草原に、いきなり出くわしたって感じで。

鍛治:驚いて、ケニア人のドライバーに「眠ってるの?」って聞いたら「休んでるの。レスティング」。あの時ね、サバンナで時間が止まったように感じましたね。

阿部:そうねえ。キリンとゾウはね、襲われる率が低いんですよ。

萩尾:大きいからですか?

阿部:まずキリンは背が高いから、天敵が来ればわかります。すると子どもを逃がして、自分はあんまり動かないで、相手がライオンであってもじっと見てますね。キリンには角がって、ちょっとぶつけられただけでも、もの凄く痛い。ナイロビにはキリンを集めたジラフセンターがあって、餌を買って、キリンに食べさせる場所もあるんですよ。そこでちょっと触ったぐらいでも、拳骨で殴られたような感じで本当に痛いんですよ。

萩尾:骨ですよね、あそこ。

阿部:ええ。息子なんかこぶができたぐらい。キリンの足で蹴っ飛ばしたら、ライオンも死んじゃいますよ。今年から来年、萩尾さんはじめ天敵と一緒に行かない時にですね、ライオンがキリンをハンティングするところをどうしても撮っておきたいんです。というのも世界で、まだ撮影されてないんですよ。襲っている途中はあるんですよ。5頭で襲って、やっと捕まえるんだけど、蹴られちゃうんです。5頭いるのは何故かというと、4頭のライオンが足を1本ずつ、すれから尾っぽもつかむから。それでもキリンにはね飛ばされるんですから、なかなか難しいけれど、ハンティングはするんですよ。何故ならたまにキリンの死骸がある。だから、その穴場に天敵がいない時に行って、自分で撮ってみたいと思っているんですけどね。

萩尾:キリンは首があんなに長いから、首に噛みつこうと思ったら、かなりジャンプしなきゃいけないですね。

阿部:あれは、届かないですね(笑)。だから子どもはやられるんですよ。

萩尾:あ、子どもはちっちゃいから。

阿部:涙が出るほど感動しながら、ビデオを回したことがあるんですが、ヌーの出産で、      ちょうど赤ちゃんが産まれてきて半分お腹から出て来ている。そこにハイエナが来て、赤ちゃんを食べようとするんです。赤ちゃんは柔らかくて頭ごと食べられるじゃないですか。   
 すると生まれる瞬間はね、親は必死に守るわけですよ、態度を変えて。で、何をやったかというとハイエナに自分のからだを噛みつかしている。血が出てきても、力んでその子どもを一生懸命出しているんですよ。母性本能というか、人間も動物も同じじゃないですか? 女性の方が愛情深いんじゃないかなぁと思うんですよ。だって動物はだいたい子育てはメスがやってますもんね。さっき鍛治さんが言ったけれど、オスは交尾したらいなくなっちゃうんですから。キリンとゾウは、さっき萩尾さんが言ってたように、子どもがいる時には兄弟と親が囲んで守りますけどね。

萩尾:子どもを中心に群れを作ってモクモクモクモクと歩いているのを見ると、理屈も何もないですよね。「いいなぁ」と思います。

(次回更新日は5月10日です)
プロフィール
阿部昭三郎(あべしょうざぶろう)
映像作家。アフリカを中心に、動物たちの生態を撮りつづけている。
鍛治壮一(かじそういち)
毎日新聞社を経て、現在航空評論家として週刊ウイング誌にコラム「コクピット」を連載、新聞・テレビの解説でも活躍中。10年前からアフリカのサファリに熱中し、野生動物や大自然を撮影。著書に『ジェットパイロット』『コクピットの男』など多数。日本宇宙少年団理事。航空運行システム研究会常務理事。
 
 

【萩尾望都】
1949年福岡県生まれ。
1969年「ルルとミミ」でデビュー。『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞を受賞。『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫漫画賞を受賞。
際立ったアイデアと世界観、詩的なネーム、確かな画力に裏打ちされた美しい絵柄で、少女漫画の地平を広げてきた。また劇団夢の遊眠社のために『半神』を戯曲化するなど、さまざまなジャンルで活躍を続けている。


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