<ゲスト>鍛治壮一さん・阿部昭三郎さん その2


初めてアフリカを訪れた萩尾さんにとって、動物たちの姿は驚くことが多かったとか。ライオンのハンティングという貴重な場面からスタートしたアフリカ旅行は、さらに続きます。

◆動物から学ぶこと
写真2
ライオンのハンティング(撮影:萩尾氏)

鍛治:これも珍しい写真でね、(写真2)前に噛み付いているのが大きいけれど、ライオンの子どもで、後ろがお母さんです。

萩尾:ああ、そうなんですか。兄弟かと思っていたけど、そうだったのか。

鍛治:どうして珍しいかというと、ハンティングが終わってから食べているあいだの写真は、わりとあるんですよ。捕まえてから食べる終わるのに、30分か場合によっては1時間ぐらいかかるから。だけど追いかけて、まさにパクッと食べるところはね、僕も16回行っているけど初めてですよ。追っかけて行く途中で失敗して、駄目になるのはよくあるけれど。あんなにハンティングが上手く行って、しかもあんまり遠くない所だったでしょ?

萩尾:わりと道のすぐそばで、うまくハンティングしてくれましたね。鍛治さんが、16回行って初めてだって言っているということは、滅多に見られないものを最初に見たのか。なんてラッキー。旅行の一番いいところが全部、あの最初のキャッチ! に集約されたのかも。

鍛治:それと動物の親子、とくにお母さんと子どもがいるシーンはいろいろ見たでしょ?

萩尾:はい、見ましたねえ。

写真3
チーターの親子

鍛治:今の写真はたまたまライオンですけど、さっき阿部さんが言っていたチーターの場合は、子どもの教育をするんですよね。ライオンは家族で子どもを守るし、餌を取りに行く時は、残った子どものお姉さんとか叔父さんとか叔母さんが守っているから大丈夫なんです。でもチーターは交尾する時はオスがいるけど、あとはどこかへ行っちゃって、いないんですよ。母子だけで暮らしている。おそらく道で親子が会ったって、父親も子どもも分かんないでしょう。お母さんはだいたい1年ちょっとは面倒をみます。見た目は同じぐらいの大きさだけど、クビのうしろに産毛があるから子どもだって分かります(写真2)。
生後、半年から1年くらい経つと、子どもにハンティングを教えます。テレビでも時々やってますけど、小さいレイヨウ類を使って練習します。見た目には鹿にそっくりだけど、その小さなレイヨウ類の子どもを、ネコが子どもを運ぶみたいにお母さんが首のところをくわえて来て、子どもの前にパタって落とす。もちろん傷つけてないですよ。するとレイヨウ類の子は小さくなって震えているけど、何秒たつと恐いからパッと逃げる。そうするとチータの子どもたちが追いかけて、前足で押さえるわけ。でも食べないんですよ。食べ方は知らないから。

写真4
トムソンガゼルを追う、チーター兄弟(撮影:鍛治氏)

萩尾:まだミルクだから?

鍛治:知らないというか、すぐ食べるものだと思わないから。同じことを5、6回やるので、10回に1回か2回は獲物も逃げおおせますけどね。数回、子ども達が繰り返すと、お母さんがのそのそ来て、獲物をガブッてやる。すると血が出るでから、やっとみんなわかる。

萩尾:「あ、これはご飯なんだ」

鍛治:ええ。そうやって教えないと、死んでしまう。お母さんがいなくなったあとの子どもは、餌がとれなくて痩せ細ってましたね。

萩尾:やっぱり学習するんですね。

◆ゾウのファミリー

鍛治:僕も行ってから気がついたんだけど、動物の行動は本に書いてあるとおりなんです。本に出てくることが、目の前で運が良いとその通りにおこるでしょ。たとえば、ゾウの群れは見ましたっけ?

萩尾:はい、ゾウの群れは何度も。ゾウもファミリーですねぇ。

鍛治:ええ、ゾウは必要以上にそばに行くと、リーダーのオスが鼻を上げて我々を威嚇するんですよ。

阿部:メスがリーダーの場合もありますけどね。

鍛治:それから本にあったのは、ずっと横に親子で2、30頭歩いて来ると、子どもが見えないように、向こうにいかせてしまうというんですよ。「あ、こっちだと子どもが見えるから」って、かなり離れたところで、小さい声で写真を撮るでしょ。でも時間がたつと何となく列の向こう側にやっちゃうんです。我々の見えないほうに。だから、「あ、本に書いてあるとおりだ」と思ってね。それからゾウは立ったまま寝るんですか?

阿部:そうですね。

鍛治:そう言われているけど、小さい子どもは疲れると、そこでゴロッて寝ちゃうの。そうすると周りの大人、お父さんやお母さんが、ずーっと子どもが起きるまで周りで立っているんです。本当にそうなのかなと思っていたことが、目の前で実現するんです。

写真5
ゾウのファミリー/マサイマラ(ケニア)で(撮影:鍛治氏)

萩尾:そうそう、ゾウはすごい大家族でいるんですよ。ゾウはオスは1匹で、お母さんが何匹もいるんですか、それともオスも何匹もいるんですか?

阿部:オスメス混合ですから。ライオンなどははっきりオスは一頭で、ハーレムのようにメスがついていきますが、ゾウの場合は、鍛治さんが言ったようにファミリーの団結力が強いですよね。だから、大ボスがいて、その子どもや孫まで一緒にずっとついて行くとか、その血縁に近いような親しいグループも一緒について行くことがありますね。だから多い群れは200頭とか300頭とかいます。

萩尾:そうそう、車で通るところは限られているんですけど、その道をゾウのファミリーがこう横切るんですね。大きなゾウが横切って、次に小さなゾウがやって来ると、もう可愛いもんだから、「あ、小さなゾウが来た」って言って、窓から乗り出してカメラをかまえて撮ろうとすると、「何すんねん!」って感じで前後のゾウがパオーって(笑)、鼻を振りあげて怒るんですよ。私が「ひえーっごめんなさい。」って言って、こう思わずこうカメラを引いてしゃがみ込んでいると、鍛治さんは、「あ、鼻上げた、鼻上げた」って言いながらカシャカシャ撮っているんですよね(笑)。こ、これは凄いなぁと思いました。やっぱり、親がちゃんと、子どもを守ろうとしている。それはね、ゾウに限らず、シマウマなんかでもそうでした。

阿部:そうですね。

萩尾:「あ、ちっちゃいのがいる」ってカメラを構えるだけで後ろからダダダーっと、たぶんお父さんでしょうね、ヒヒンヒヒンッて鳴きながら(笑)駆けつけて来て。「早く行かんか!」って感じで。何かあの、そんなふうにこう動物たちがこう生きて、生活している中に車なんかこう走らせて、「どうもすみません」って感じなんですけれど、でも国立公園になってるから、銃は持ってないわけだから、撃たれるの考えるとまだ車とカメラで堪忍してねって感じでした。でもほんとはねぇ、見て来たのに言ってはなんだけど、「人間はあんまり近寄らない方がいいんだろうなあ、生活のためには」と思いました。

阿部:そうですね。

◆規則正しい、アフリカでの生活

鍛治:萩尾さんは、普段はあまり早く起きないほうでしょ?

萩尾:はい。

鍛治:だからサファリに行っても、「昼過ぎまで寝てたら困るな」と思ったけど、時々早く起きましたよね(笑)。

萩尾:ああ、はい。集合時間は何時でしたっけ? ロッジの前に6時集合?

鍛治:赤道直下だから、だいたい日の出がいつも6時半頃なんですよね。それで6時に集合です。

萩尾:私はもう完全に夜型人間で、滅多に午前中には起きていなくて、たまに起きているときは、たいてい夜から寝ていなかったりするんです。誘われたときに、「サファリは朝からだ」と言われましたが、「朝ちょっと撮って、ご飯食べたあとはもう何にもなくて、夕方にまたちょっと見に行くだけ。昼間は暑くて動物は寝てるから、私たちもロッジで休んでればいいんだよ」と言われていたんです。
それで、朝はもう無理して、「はぁ!」とか言いながら起きて、サファリに出ました。サファリの中にマラ川という川が流れていて、川の向こうがタンザニアで私たちのいる側がケニアだったんですが、タンザニアからたくさんのヌーがやって来てマラ川を渡って、ケニアの草原にご飯を食べに来る――そういう移動の時期だったんですね。しかもマラ川は非常に長い川だからどこを渡るのかわからないんですが、たまたま去年はホテルのすぐそばの地域で、ものすごくたくさん集結していて、でも、いつ渡るかはわからない。
そしたら鍛治さんが、もうご飯を食べるのもそこそこに、「さあ行くぞ!」って、「え? お昼まで寝るんじゃなかったの?」「いやヌーが渡るかもしんない!」とか言って(笑)。
そこでで、待つ、行って待つ。待つ。一時間待つ、二時間待つ。でね、ヌーが集結してくると、私たちだけじゃなくて、何台も何台も車がずらーっと並んでとうせんぼしてるような状態になるから、「ヌーは用心して渡らないんじゃないかな?」という感じなんですよ。川岸のそばまでやって来てはまた引く、そばまでやって来て渡ろうかな? いややっぱりやめた、って感じで。これを何度もやってるうちにお昼になるんです。
「鍛治さんお昼になりました(笑)。ご飯食べに帰りませんか?」「ご飯食べに行ってるうちに渡るかもしれない、もうちょっとしたら」って(笑)。まあ、ご飯は食べに帰りましたけれども。

(次回更新日は5月3日です)
プロフィール
阿部昭三郎(あべしょうざぶろう)
映像作家。アフリカを中心に、動物たちの生態を撮りつづけている。
鍛治壮一(かじそういち)
毎日新聞社を経て、現在航空評論家として週刊ウイング誌にコラム「コクピット」を連載、新聞・テレビの解説でも活躍中。10年前からアフリカのサファリに熱中し、野生動物や大自然を撮影。著書に『ジェットパイロット』『コクピットの男』など多数。日本宇宙少年団理事。航空運行システム研究会常務理事。
 
 

【萩尾望都】
1949年福岡県生まれ。
1969年「ルルとミミ」でデビュー。『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞を受賞。『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫漫画賞を受賞。
際立ったアイデアと世界観、詩的なネーム、確かな画力に裏打ちされた美しい絵柄で、少女漫画の地平を広げてきた。また劇団夢の遊眠社のために『半神』を戯曲化するなど、さまざまなジャンルで活躍を続けている。


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