<ゲスト>津原泰水さん(作家)


しばらくのあいだ「科学者とお茶を」をお休みし、ジュンク堂池袋店に開店した「萩尾望都のラララ書店」のトークイベントの様子を、ご紹介していきます。貴重な対談を、どうぞ、お楽しみください!
津原泰水(つはら やすみ)
1964年、広島県生まれ。89年に津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。《あたしのエイリアン》シリーズで一躍人気作家となるが、96年に少女小説を引退。97年、怪奇幻想小説『妖都』を発表。主な著書に『蘆屋家の崩壊』『ペニス』『少年トレチア』『綺譚集』など。近著に、世界観をあらゆるアーティストに開放するという試み《憑依都市》の、土台をなす一冊として書かれた『アクアポリスQ』がある。

◆萩尾望都、ミステリー小説に挑戦!

 
  大盛況の会場。300人の中から当選した、幸運な60名のお客様。
萩尾:ようこそいらっしゃいました。おしゃべりが得意ではないので、のんびりした話になると思いますが、手持ちぶさたでしたらコーヒーを飲んだりしてください。今回のゲスト、津原泰水先生です。

津原:津原泰水でございます。(会場拍手)

萩尾:ダンスを踊ってらっしゃいます(笑)(萩尾さん注*マイクのコードが津原さんにからまって、それをはずそうと、手をくるくるさせているのを見て、つい、ダンスのようだと思って、言ってしまいました。)

津原:一瞬、脳内が空白になりましたが・・・・・・。えーと、こちら本物の萩尾望都さんです(笑)。(会場拍手)

萩尾:今回は「人はなぜミステリーを読むのか」というタイトルをつけたのですが、昨日『本の旅人』という角川書店のPR誌を読んでいたら、「横溝正史ミステリー大賞」の募集を見つけたんです。『本の旅人』には、大島弓子さんが『グーグーだって猫である』という漫画の連載が載ってるので、毎号、読んでいるんですが、そこに、「賞金400万円」という文字がアップで飛び込んできて。一作書いて400万っていいなぁと思って。

津原:なるほど。その賞をいかにして萩尾望都が獲るかという?

萩尾:はい。津原先生にどうしたら400万円獲れるのか、アドバイスをいただけたら。

津原:お客さんに説明しておきますと、この対談、さっき久しぶりにお会いしたばかりで、打ちあわせもなにもしてないんですよ(笑)。そうですね、まず審査員とお友達になるのがいいのでは。とりあえず僕のほうでそこに載っておられる四人のうち三人までクリアできてますんで、萩尾さんに御紹介して。

萩尾:え、誰ですか?

津原:綾辻行人さん、桐野夏生さん、坂東眞砂子さん、このへんはなんとかくどけます。北村薫さんとは面識がないので、まあ三人の力で推していただくという。

萩尾:私は北村さんと桐野さんは読んだことがあるんですけど、坂東さんと綾辻さんはあまり読んだことがなくて。

津原:坂東さんの作風はですね、日本の土着的風土を背景にしてした伝奇が多く、東雅夫さんは「ホラー・ジャパネスク」と呼んでいますが、たとえば『死国』という作品は・・・・・・。

萩尾:あ、読みました。

津原:そうですか。じゃあ未読は綾辻さんだけですね。綾辻さんは館ものですね。ゴシックロマンからの流れと言っていいでしょう。よく密室状況が出てくるんですが、古典ミステリーとは違い、かなり人工的な空間の中で物語が展開すると思ってください。ところでゴシック小説というのは、なぜか人々が館から出ていかないんですよね。

萩尾:もしかして綾辻行人さんという方は、佐々木倫子さんが漫画にした、列車ものミステリーの作者?

津原:そうそう、トラベルミステリーの『月館〔つきだて〕の殺人』の原作者です。じゃあ全員の作風をご存知じゃないですか。作品も審査員の好みに合わせたほうが有利ですから、となると・・・・・・。

萩尾:まずね、密室ものでいくんですね。その密室には、坂東さん好みの古典的なオカルトが絡んでいる。

津原:はいはい。近所にお弁当工場もあるといいですね、桐野さんも審査員だから。

萩尾:そうですね、館のメイドさんがお弁当屋さんに勤めている。さて、北村さんは何にしましょう。

津原:「ときどき性格の変わるお嬢様がいる」みたいな。

萩尾:いいですね。本当は男だけど女の格好してる人がいたり。

津原:「館」でなくても新宿あたりで見かけますけどね(笑)。でもアイデアの一つとしては悪くないかも。

◆萩尾作品は構造がミステリー

津原:たとえば萩尾さんが作品をお書きになるとき、三題噺的な「あれとあれが組み合わさったら面白いかも」なんてところから、アイデアを発展させるということはありますか。

萩尾:友達との遊びでやったりはしますけど、仕事は仕事で、何かが降って来るのを待っています。

津原:でも普段から「こういうの小説に書いたら面白そうですよね」とか、よくおっしゃいますよね。無意識のうちに発想法を訓練されてるんでしょうか。

 
  店長として、開店イベントをおこなったあとなので、エプロン姿です
萩尾:突飛なことをすぐ考えるんですよ。だから、なるべく地に足をつけた生き方をしなきゃいけないなぁと思いつつ、いつも頭がどこかに舞い上がってしまうという。

津原:僕は執筆中に幾何学模様みたいな図を描くんです。当初はわりと正直に、一行めから順番に書いていく。そのうち図形がだんだんできあがって、「あ、これをまだ書いてないじゃないか」といったものが見えてくるという・・・・・・ところで話が飛んじゃっていいですか? 

萩尾:飛ばしてください。どうぞ、飛ばしましょう。

津原:夏に完結した『バルバラ異界』ですが、以前、軽い感じで描いているとおっしゃっていましたよね。あの作品のどこが軽いんですかという話題です。萩尾さんにとって『バルバラ』は軽量級?

萩尾:過去のことは忘れました(笑)。

津原:「これで軽いなんてことはないだろう」と思いながら読んでいたら、「やっぱりぜんぜん軽くなかった」という。すごい話ですね。

萩尾:すいません。なんか、土壇場でひっくり返してしまって。

津原:ちょっとミステリー的でした、って強引につなげたりして(笑)。しかし真面目な話、萩尾さんの作品は常にミステリー的な構造を内包していると思うんですよ。最後まで読まないと全体が見通せないといった部分が必ずある。にもかかわらずなぜ萩尾さんの作品は「ミステリー」と呼ばれないのかなと、ちょっと考えたことがあるんです。おそらく探偵役がいないからではないかと。

萩尾:ああ、そうか。

津原:萩尾作品においては探偵役は読者自身なんですよ。

萩尾:やっぱり、シャーロック・ホームズとワトソン君が必要なんですね。

津原:ミステリーにはたぶん必要です。

萩尾:それはいいポイントですね。有名どころのミステリーには二人組がいますよね。コント55号みたいな。

津原:そうですね(笑)。コント55号が面白いのはですね、ってなんの話をしてるんだろう。いいや。坂上二郎さんは完全にアドリブなんですよ。で、萩本欽一さんがツッコミとして二郎さんを苛めているうちに、なんだか自分自身を苛んでいるような、一種の自虐芸になっていく。探偵と聞き役との関係にもそんな部分がありますよね。ホームズはついつい自分を苛めてしまうのに、ワトソン君はわりと平然としてる。

萩尾:そういえば、そうですね。一見「そうじゃないよ、ワトソン君」とか言って、いつもワトソンがばかにされて、ドジ踏んでるような感じがしますけど、実際はワトソンのほうが鷹揚なタイプの人で。

津原:ぼろぼろになるのはホームズなんですよね。それをかばい続けるワトソンっていう図式が、ちょっと腐った心の持ち主が読むとなんとなく同性愛っぽいという(笑)。その辺もポイントらしいですよ。

萩尾:あ、そうか。腐った心の持ち主が読むってことも考えに入れて。

津原:それはそうです。読者には神聖な心の持ち主もいれば、腐った人も相当いるはずですから。ところで面白いもので、いかにも同人誌でパロってくれと言わんばかりのニュアンスの作品というのは、絶対にパロってもらえないんだそうです。「男同士の色恋なんか冗談じゃない!」って主張しているような作品こそが美味しいとか。そこにこそ滋味があると。

◆探偵のキャラクター

萩尾:なるほど。他にダブルのキャスティングで面白いペアっていますか? なんかいそうな感じがするんですけど、すぐに思い出せない。

津原:日本の小説で有名なのは、島田荘司さんの御手洗潔〔みたらいきよし〕と、石岡君でしたっけ(会場に確認)。あと京極夏彦さんの京極堂と関口くん。

萩尾:あの二人は延々延々延々延々、会話してますよね。

津原:漫画では信じられないことでしょうが、小説だとそれが成立してしまうんですよね。漫画でずーっとしゃべってるというと・・・・・・ま、『ビーバップハイスクール』なんかは意外と大半が会話で成立していますけれど。でもそういうのは例外で、現実には会話の場面であっても、回想の内容を絵として表現するのが漫画ですよね。

萩尾:そうですね。会話だけ続けると編集から、ちょっとここカットして番外編にして、とかね。意見やチェックがはいります。

津原:そうか、あとで番外編として。はいはい、そうでしたか。

萩尾:おまけで。

 
  テンポよくお話をする、津原泰水さん
津原:「僕の父親はどこそこに行っちゃったんだ」という断片があとで膨らんで、「おーっ」と読者が萌えると(笑)。そうか、そういう事情が。

萩尾:今の、一人で納得しているのは何に対して?

津原:いや、その、ほら、世にオスカー好きは数知れず。

萩尾:ああ、はい。

津原:いま会場で頷きのウェーヴが起きていますが、端的に言えば「オスカー萌え」ですよ。

萩尾:ああ、萌えているんですか。ああそうだったのかぁ。

津原:僕がですか? いや正直、そういう気持ちなしに読んでいたとは言いきれませんが、話を戻しましょう。つまり萩尾さんが描かれる番外編というのは、あとからの補足ではなくて、もともと作品の一部だけれどその時は描ききれなかった部分、ということになりますね。

萩尾:そうですね。ちょっと脇のストーリーに入るから、メインからはずすんだけど、でも好きな話だから、いつか書きたいなと思って。『訪問者』などは、まあ、それで描いたんですけど。

(次回更新日は3月24日です)
 
 

【萩尾望都】
1949年福岡県生まれ。
1969年「ルルとミミ」でデビュー。『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞を受賞。『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫漫画賞を受賞。
際立ったアイデアと世界観、詩的なネーム、確かな画力に裏打ちされた美しい絵柄で、少女漫画の地平を広げてきた。また劇団夢の遊眠社のために『半神』を戯曲化するなど、さまざまなジャンルで活躍を続けている。


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