第4回 「未来のベストセラー誕生の瞬間を見に行く!!
〜酒飲み書店員の会 潜入ルポ〜」

本日の舞台:千葉県船橋市某居酒屋



ポスト本屋大賞を探して

 唐突ですが皆さん、「本屋大賞」はご存知でしょうか? 第一回の『博士の愛した数式』に始まり、この4月にはいよいよ第五回の大賞作が発表されます。これまでの受賞作全てがベストセラーとなり映像化され、書店の店頭を賑わせました。全国の書店員が選ぶこの賞、年を重ねる毎に盛り上がりを見せていますが、文芸書単行本を選ぶ本屋大賞だけでは物足りない!文庫本だって発掘すればもっとたくさんの面白い本がある!顔の見える仲間たちと一致団結して惚れ込んだ一冊を仕掛けたい!こうした趣旨で結成されたのが、「千葉の酒飲み書店員の会」(通称「千葉会」)です。『ワセダ三畳青春記』(高野秀行著、集英社文庫)や『笑う招き猫』(山本幸久著、集英社文庫)などは、この「千葉会」が発掘し、千葉会だけでも共に1000冊以上の驚異的な売上げを記録し、ベストセラーに育て上げた作品。地域性の強い組織でありながらも出版業界で注目を集めている集団なのです。
 千葉エリア(千葉、船橋、松戸など)に勤務する文庫担当の書店員約10人たちが店の垣根を越え、月一回船橋駅周辺の居酒屋に集結し、千葉担当の出版社営業マンを巻き込んで売りたい本について語り合う、そんな会が三年も継続するだけでも奇跡なのですが、実際に大賞本を選考して結果を出しているそのパワーの源は一体どこにあるのでしょうか?今回は特別に許可を得まして10月某日に行われた「千葉会」に潜入。その熱き舞台裏の一部をご紹介したいと思います。

文庫スター誕生!


 さて時間は19時15分。集合場所はJR船橋駅改札前。通勤・通学帰りでごった返す駅でも、際立ったオーラを放って目立つ集団、それが千葉会メンバーでした。出版社営業マンを入れて総勢約30名。この会、ダラダラなんてしていません。集合時間に間に合わなければ現地集合。てきぱきと10分後には会場となる居酒屋に直行。今回の例会は初の試みです。基本的には、毎回書店員たちが売りたい本を持ち寄るのですが、今回は出版社営業担当10人がそれぞれにオススメ本をプレゼンテーション。参加書店員7名が、よし、自分の店で売ってやろう!と思った商品に手を挙げて最高得票の作品を参加書店全店で仕掛けよう、という段取りです。名づけて“文庫スター誕生!”。営業マンたちの緊張した面持ちであった理由がわかりました。
 会場はすでに熱気に溢れています。準備も着々と進められ、壁沿いにずらりと並んだ強者揃いの書店員たち。その手には、100円ショップで買ってきた箸にテープで貼られた書店名の札が握り締められています。これは責任重大。乾杯の音頭もそこそこに熱戦スタート!! 机に並べられたビールもコース料理もそっちのけでプレゼンが進みます。居酒屋の店員さんも何事が始ったのかと呆気にとられています。持ち時間は説明に3分、質疑応答に2分の合計5分。時計の針を刻む音が聞こえてきそうな緊迫感が漂う中、酒飲み書店員の趣味を知り尽くした営業マンたちの熱弁は続きます。自作のPOPを披露する者、ただ若さに任せて情熱をぶちまける者、きっちりと資料を用意し坦々と言葉を伝える者、軽妙なトークで笑いを取ってムードをかっさらう者・・・さすがは芸達者の千葉担当者たち。一瞬たりとも場を退屈にはさせません。ジャンルもエッセイ、海外文学、ミステリー、ノンフィクションと多様に渡り、あらゆる文庫本が次々と紹介されていきます。この何でもアリの勢いが会を一層盛り上げます。



 日々の業務の中で、売れる本と売れない本とを瞬時に見定めなければならないシビアな書店店頭を預かるメンバーたちの評価は非常に厳しい!好き嫌いももちろんはっきりと意思表示。絶対売れない! その本キライ! 本音の野次が飛び交います。何部刷ったか? 実績はあるのか? などなど質問も鋭く質問者に浴びせられ酒に酔っている暇はありません。札が全部あがった満票があれば、虚しく0票もありました。生理的に受け付けない作品には札が裏返しになりマイナス票も。ルールはその場で作られてゆき、その都度爆笑。
 ついに10名のプレゼンが終了し結果は角川書店推薦の『症例A』が満票で文句なし大賞、かと思ったら大どんでん返しで2位の東京創元社推薦の『パイド・パイパー』との決戦投票に。その方が面白かろう、との単純理由で、なんと結果は逆転。その場を楽しんでしまおうというノリの良さで、大いに沸いたまま会はお開きとなりました。



未来のベストセラーを作るのは“楽しむ書店員”


 身近な町の書店員たちの力の結集が、素晴らしい本を読者に伝えてくれます。今回は、取材という形で幸運にもベストセラーの卵が産み落とされた瞬間を目の当たりにすることができました。千葉会成功の秘密を、取りまとめ役でもある堀江良文堂書店松戸店の高坂さんに聞くと、「どんなに勢いがついてもメンバーは顔の見える範囲にとどめること」と仰っていました。業務多忙な上で一匹狼的なメンバーたちをまとめるのは並大抵ではないはずです。高坂さんのような求心力のある存在と、同じ目的を持って集う書店員たちの情熱が千葉会を存続させているようです。酒飲み、といってもいきなりワイワイ飲み始める訳ではありません。やるべき事をやり遂げ、達成感を持って乾杯をする。本当の意味で酒の美味い飲み方を知っている仲間たちなのかもしれません。意欲のある書店員たちが互いを刺激しあって高めあう、これから書店が生き残っていく上で必要な要素がここにあると感じました。「酒飲み書店員の会」のように、楽しんでいる書店員が存在する限り出版文化は滅びません。同じ悩みを持つ書店員仲間の一人として危機感を忘れずに持ちつつも、ささやかな安堵を胸に会場を後にしました。






POP王(ぽっぷおう)
某書店勤務のカリスマ店員。毎日平均1冊は読破するバイタリティを持つ。これまで書き上げたポップはなんと1500枚以上! 本屋大賞創設メンバーの1人でもある、大の本好き。著書に『POP王の本! グッドセラー100&ポップ裏話』(新風舎)がある。


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