■プロフィール
山本譲司(やまもとじょうじ)1962年、北海道生まれ。菅直人(現民主党代表)の公設秘書を務め、都議会議員を経て、国政の場へ。衆議院議員2期目を迎えた2000年9月、秘書給与詐取事件により、懲役1年6ヶ月の実刑判決を受けた。事件と獄中内での出来事を当時の膨大な手紙や日記をたよりに、出所後まとめた著作『獄窓記』は、多くの読者の感動を呼び、新聞・テレビ等、取材の依頼も殺到中。現在、都内の障害者福祉施設にて、有償ボランティア活動に従事し、新しい夢に向かって一歩一歩足を踏み出し始めている。


政界での暮らしは、半分酔っていたようなもの

――『獄窓記』ですが、昨年12月の刊行以来、TVや新聞、雑誌で何度も取り上げられ、大変な反響を呼んでいますね。出版から4ヶ月で6刷を数え、このタイプの本としては、異例のヒットになっています。


山本 本当にありがたいことだと思います。素直にうれしいですね。

――山本さんがこの本を書こうと思われた、そもそものきっかけはなんですか?

山本 ここ数カ月くらい、折に触れて事件当時の自分の心境などをお話ししてきたんですが、事件の直後にここまで整理して考え、総括できていたのかといえば、実は全然できていなかった。私にとって10数年間の政界での暮らしというのは、自分の感覚が麻痺していたというか、お酒と同じで半分酔っていたようなものだと思うんです。その酔いが塀の中で一気に醒めたような気がするんですよね。ですから、行きつ戻りつぼんやりといろんなことを考えていました。考える時間には恵まれてますからね、塀の中は(笑)。それで刑期を終えて出所したんですけれども、よく考えてみると、きちんと自分のことを総括できていないんじゃないか、と。幸い、塀の中で記していた膨大な量の日記と、妻子や肉親とやりとりした手紙が手元に残っていましたから、それを元にして自分の考えというものをきちんと活字にしてアウトプットしようと思ったんです。過去の自分に対する明確な総括と、将来の自分に対する有効ないましめ、まあそんな思いで書き始めたんですね。

――本書にも書かれていますが、事件後の山本さんの身の処し方というのは、同じ罪で逮捕された他の議員たちと比肩すると、悄然としているように思えます。当たり前のことなんですが、なぜ罪を犯したのか、その原因のすべてを自分の内側へ求めようとしている。こうした心の動きは、ある意味で潔さのようなものを感じさせるのですが、ご自身としては改めて事件後の対応をどのようにとらえていらっしゃいますか。

山本 潔いうんぬんという評価が当たっているかというと、正直言って疑問なんですよ。なにより、有権者に対して無責任ではなかったのかと。一票一票投じてくれた有権者のことを考えたら、パッと議員を辞める、あるいは控訴をとりさげる、ということもそうですが、本当にあれでよかったのかな、ということは当時も思いましたし、今でもその気持ちは続いています。さらに国会や国会議員というのは、国民の税金によって成り立っているシステムですから、そういう意味ではすべての納税者のみなさんに申し訳ないという気持ちもありました。ですから、表面的には淡々と見えていた部分でも、やはり内面はかなり激しく揺れ動いていましたね。


自分自身の目標に輪郭がつきつつある


――本書では、山本さんが刑期を過ごした黒羽刑務所内での精緻な場面描写をはじめ、同囚の人々との会話や仕草のひとつひとつに至るまで、とても丁寧に描き込まれているのが印象的です。

山本 「ふだんの日記もあれくらい丁寧に書き込んでいるんですか」って、よく聞かれるんですが、実はそんなことはないんですよ(笑)。塀の中というのは本当に閉ざされた世界で、ほとんど情報が入ってこない。その分集中して考えられるし、邪念が入らない。ですから記憶がどんどん研ぎ澄まされるんでしょうね。「あのときの担当看守の一挙手一投足」とか「同囚の日々の表情の違い」のようなものは、今でもパッと思い浮かびます。

――なるほど。研ぎ澄まされた記憶による描写が、読み手の胸底にズシンと突き刺さるほどの圧倒的なリアリティへとつながっているんですね。また本書では「隔靴掻痒」「阿諛追従」「博引旁証」など、ふだん聞き慣れない四字熟語が多く使われていることも特徴的ですよね。

山本 刑務所からの手紙のやりとりというのは、字数制限があるんですよ。日記も冊数の制限がありますし。そうすると四字熟語を使えば、普通なら三行くらい使って書くことでも、わずか四文字で表現できるわけです。このアイデアを思いついたとき、「ああ、しめた」と思いましたね。これで子供への質問がもうひとつ書けるなと(笑)。

――四字熟語の本来の使い方を、刑務所の中で知ったとも言えますね。

山本 そうかもしれないですね。いい四字熟語を見つけたりすると、ひとりでほくそえんだりしてましたから(笑)。

――本書の大きな軸となっているのが、同囚の人々との交流、とくにさまざまな障害を抱えている囚人たちとの濃密な心のやりとりの描写です。一般的には障害を抱えている囚人の存在や、彼らの置かれている環境の実態など、知る機会はほとんどないといっていいと思います。その点でも、この本の持つ意味というものはとても大きい気がします。

山本 そういっていただけると、とてもうれしいですね。一般刑務所に重い障害を抱えた人たちがいるというのは私自身とても驚きでしたし、その驚きと同時にこうした刑務所の現実というものを伝えたいという思いがあったんです。ある意味でこの本というのは自分観察記なんですが、あのとき私自身が彼らによって確かに浄化された部分があるんです。彼らと出会ったからこそ今の自分があると思っていますし、いいか悪いかは別として、いま私が携わっている活動の源泉になっていることも事実です。この本が発売されてから、いろんな方にお手紙や感想をいただくんですが、ご自分が障害者であったり、障害者を家族に持つ方であったり、障害者施設で働いている方、行刑施設で働いている方や保護司の方など、本当にいろんな方から「よくぞこの現実を知らせてくれました。この問題を今後どうしていくのか、あなたに期待しています」と、おっしゃっていただいたんです。これは本当にうれしいことで、ぼんやりとしていた自分自身のこれからの目標というのも、そうした声をいただくことによってだんだん輪郭がつきつつある、という感じなんです。

 

「囚人の立場から見えた現実」を読んでほしい


――政治家という肩書きがなくとも、幅広く重厚な活動を行なっている人たちがたくさんいらっしゃいます。山本さんも、そうした活動を続けていこうという希望はありますか。

山本 もちろんあります。もしかしたら、今の日本や社会の現状を憂う気分というのは、政治家のとき以上にあるかもしれませんね。とくに私が痛感しているのは、これまで政治の現場で見てきた福祉に対する政策というものが実に皮相だった、ということなんです。国会というところは、世の中が見えていそうで見えていない。刑務所というのは、世の中が見えなさそうで、実はよく見えているところなんです(笑)。ですから福祉の現場の話などは、立法や行政の場に関わっている人たちにどんどん伝えていこうと思っています。

――これからの山本さんの「未来予想図」を教えてください。

山本 現在の制度では、障害のある受刑者が刑期を終えて出所したときに、何のケアもなくポンと放り出されてしまうのが現実なんです。そうではなくて、出所する前に社会復帰に向けた訓練をしてもらうための制度や施設、「障害を抱えた受刑者の出所後のシェルター」と私は呼んでいるんですが、そうしたものを作りたいと考えています。それが当面の目標ですね。それと同時に、来年監獄法の改正があるんですが、それに向かっていろんな意見を発信できればと思っています。

――100年近く野ざらしにされてきた「悪名高き法律」ですね。

山本 法律というのは、だいたい根っこのところは、政治家や利権団体の利害関係で作られたり改正されたりするものですから、監獄法にだれも手をつけてこなかったというのは、立法機関としての政治の怠慢ではありますが、ある意味で当然のことだったと思いますね。刑務所改革をしたから票が増えるとはおそらく誰も思っていないでしょうし。けれど、実はそうではなくて、現在の再犯率が五割を超えていることを考えれば、今後の社会へのリスクを軽減する、将来の行政コストを軽減するという意味では、刑務所改革は国家的な課題だと思います。犯罪を犯した人というのは、貧困だとか劣悪な家庭環境だとか、いろんな悪条件がたまたま重なることで、不幸にも犯罪へと結びついてしまう場合が数多くあります。もちろん、そうした犯罪に巻き込まれる被害者はさらに不幸なわけですが。新たな加害者や被害者を生み出してしまうような現状を変えるため、放置されてきた法律をそろそろ見直そうという気運がようやくもりあがってきたんですね。それに対して私のような者が意見を申し上げるのはおこがましいと思いつつも、塀の中で実際に体験したことをお話ししたり、その体験を通して提案したいこともいろいろありますので。

――では最後に、『獄窓記』をこれからどんな方に読んでもらいたいですか?

山本 できれば日本全国あらゆる方に読んでもらいたいですね(笑)。まあ、ひとつは行刑関係者といいますか、刑務官の方たちだとか保護司の方たちに、「囚人の立場から見えた現実」というものを、笑いながらでも読んでもらえれば。それと、あまり現場がわかっていらっしゃらない法務省の中枢にいる方たちにも読んでもらいたいですね。さらには福祉関係者。でも、いちばん読んでもらいたいのは、現職の議員や政治家をめざしている方たちですね。僕みたいな失敗をしないように(笑)。

 

構成/文 編集部
 

『獄窓記』

山本譲司 著
定価:1,575円(本体:1,500円)
判型:四六版上製
ページ数:391頁

秘書給与流用事件で実刑判決を受けた元衆議院議員・山本譲司の獄中記。事件への悔悟、残してきた家族への思慕、恩人への弔意、人生への懊悩。獄窓から望む勇壮なる那須連山に、幾重にも思いを馳せる。そして著者はある決意へと至る。

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