『ポプラビーチ』で大好評連載中の「日々短歌」。新進気鋭の歌人の方々に、爽やかで心に残る素敵な短歌を日替りで披露していただいております。その中でひときわ異彩を放つ短歌を発表されていたのが、笹公人さん。カマイタチのように鋭い切れ味のギャグと魔可不思議な世界観で、“笹短歌”と呼ばれる独自のジャンルを築きつつあります。蜷川幸雄、久世光彦、和田誠、糸井重里ら各界の錚々たる顔ぶれがその才能を激賞する中、飄々と、でも貪欲に短歌の未知なる可能性を追い求める笹さんの、多層的で憑依されそうな魅力に迫る独占インタビューです。
(聞き手・構成/編集部)

――本日はよろしくお願いします。

 あ、こちらこそ。ところで、サイトウさんは広島出身ですか?

――いいえ、東京です。なぜですか?

 サイトウさんを見て、ふと「ヒロシマ」って浮かんだもので。たまに当たるんですよ、僕の出身地当て。ご家族もみなさん東京ですか?

――母は秋田で、祖父は台湾出身です。

 ああ、そうなんですか。だからサイトウさんは井上和香ちゃんにソックリなんですね。

――全然関係ないじゃないですか! 

 でもよく言われませんか?

――ええ……まあ、そうですね。

 ですよねぇ、よく似てますもんねぇ。

――まあ、それはそれとしてですね……笹さんの初の単行本である『念力家族』(インフォバーン)の推薦文を蜷川幸雄さんが書いていらっしゃいますよね。少し意外な感じがしたのですが、蜷川さんとはどういったお知り合いなんですか?

 浪人時代、僕が通っていた予備校に「特別授業」みたいなものがあって、その特別講師として蜷川さんがいらしたんです。それが11月くらいでもう受験シーズンの真っ只中で、しかも雨まで降ってて。結局蜷川さんの講義を受けた人が、とても少なかったんですよ。

――「世界のニナガワ」が来てるのに?

 そうなんです! すごくもったいない! でも僕はその講義にすごく感動したので、後日、御礼の手紙を書いたんです。そうしたら、ご丁寧にお返事をいただけたんですよ。「今度は戯曲を書いて送ってください」って。

――すごい! それで戯曲は書いたんですか?

 書いたんですけど、ぜんぜんダメだったみたいですね(笑)。まぁ、いま思うとひどい出来でした……。でも、短歌の方は最初からほめてくださっていたんです。それ以降ずっとお世話になっていて、それで推薦文をお願いしたわけなんです。

――「新しい才能はいつだって美しい!」と、推薦文で蜷川さんが大絶賛されてます。笹さんが短歌をはじめられたきっかけはなんだったのですか?

 僕が17歳のとき、寺山修司さんの没後10年だったんですよ。それでちょっとした「寺山修司ブーム」みたいになっていて、時流に乗っかって寺山さんの短歌を読んでみたんです。そうしたら「あ、おもしろいな」と思って。それで自分でも書いてみようと思って始めたんです。

――寺山さんのどの歌が、とくに印象に残ったのですか?

 「あたらしき仏壇買いに行きしまま行方不明のおとうとと鳥」ですね。これは『田園に死す』という土俗的なものをコンセプトにした歌集の中の一首なんですけど、この歌集に強い衝撃を受けました。

――寺山修司さんが「歌人・笹公人」の原点というわけですね。


どうすれば正解になるのかわからないので詩は難しい


――第2作品集の『念力姫』の中に「笹公人 17歳の詩集」として、詩が収録されていますが、笹さんは、短歌を始める前は詩を書いていらしたんですか?

 はい。あれ以外にもたくさん書いてるんですけど、恥ずかしくてとても人に見せられないです。

                  「笹公人 17歳の詩集」より『砂漠に埋めてくれ』


――個人的には、詩にもかなりハマったんですけど。今は書かないんですか?

 去年まで『SFマガジン』(早川書房)の連載で、短歌と一緒に詩を書いてたんですけど、ちょっと疲れるので……。

――じゃあ、短歌の方が作るのは楽なんですか?

 そうですね。短歌は「五・七・五・七・七」という定型がありますから、そこにあてはめてしまえばとりあえず形にはなるので。詩はどうすれば正解になるのか、形になるのかがわかりづらいじゃないですか。だからすごく悩んじゃうんですよ。

『念力家族』(インフォバーン)より五首





――笹さんは、短歌のなかでとても意識的に笑いを求めているような気がするのですが。

 笑いは求めてますね。ただ、四コマ漫画のように四コマ目でオチになってすぐに忘れ去られるような笑いではなくて、読んだあとにジーンときたり、なにか考えさせられたりするような笑いを意識して作ってます。

――ということは、お笑いには興味が?

 大好きです。歌人よりむしろお笑い芸人になりたかったくらいですから……。

――そうなんですか。ちなみに好きなお笑い芸人は誰ですか?

 やっぱりたけしさんが基本にあって、あとは爆笑問題とダウンタウンの松ちゃんは別格ですね。芸人にならなかったのは、爆笑問題のネタを見てショックを受けて「ああ、これは(お笑いでは)勝てないな」と思ったからなんです。

――でも今は、フィールドは違いますけど、笑いのクオリティは彼らと互角なのでは?

 そんなことはないですよ(笑)。たまに時事ネタのネタが爆笑問題の太田さんとかぶるときはありますけど。ただ、短歌というのは単なる笑いだけではなくて「叙情」も必要になってきますから、純粋に笑いを求めるジャンルとしては向かないと思いますね。漫才だとボケにツッコミをかぶせることでより質の高い笑いを生み出せるのですが、短歌だとボケしかできないじゃないですか。ツッコミができないというところに、じれったさを感じますね。読んでいる人にツッコんでもらうしかないので。

――笹さんの短歌って何回読んでも、新鮮な面白さがあるんですよ。私がハマったのが「オランダの超能力者が~」なんです。あのオランダの超能力者ってクロワゼット(※1)のことですよね?


『念力姫』(KKベストセラーズ)より


 そうです。クロワゼットは、僕が生まれた頃に来日して話題になっていたので、リアルタイムでは知らないんですけどね。子どもの頃、つのだじろうさんの『うしろの百太郎』とか『恐怖新聞』といったオカルト漫画にメチャクチャハマッていたので、その影響でオカルトネタは多いと思います。だから僕が好きなYMOとかピンク・レディーも、とくにリアルタイムで知っているというわけではないのですが、彼らが活躍していた1970年代~80年代初期というのは、日本のカルチャーがいちばん成熟していた黄金時代だと思うんです。その時代をコンセプトにして作ったのが『念力姫』なんです。


伝統につながりつつ新しいものを追及していく


――笹さんの最新作品集が『念力図鑑』ですよね。オビ文がまたすごくて糸井重里さん。

 はい。糸井さんが『念力家族』を読んでくださっているというありがたい情報を仕入れたので、ぜひ『念力図鑑』のオビを、ということでお願いしたところ快諾していただいて。僕はパルコのコピーはもちろん、エッセイや、矢野顕子さんの『春咲小紅』、ジュリーの『TOKIO』など、糸井さんの作詞とかも好きなので、糸井さんにオビ文を書いていただけるなんて、本当に光栄だと思っています。

――言葉に対する感覚というのが、少し糸井さんと似ているかもしれませんね。

 ええ、かなり影響を受けていると思います。

『念力図鑑』(幻冬舎)より五首





――笹さんって、短歌の世界では一見異端なのかな思ってしまうのですが、ちゃんと(※2)結社に属してらっしゃるんですよね。

 はい、「未来」という短歌結社に所属しています。そこでも賞をいただいたりしてますしね。意外と正統派なんですよ。

――結社に入ってらっしゃる方の年齢層というのは?

 高いです。平均で60歳くらいじゃないですか。はじめて結社の歌会に参加したとき、間違って迷い込んできたと思われましたから。若い世代で、結社まで入ってやろうという人は少ないですね。

――『念力』三部作に収録しているような作品と、結社で詠む短歌とは作り方を変えたりするんですか?

 あそこに収録しているものは結社用ですね。

――ああ、そうなんですか。結社の方は笹さんの革新的な短歌を見て拒否反応を示したりはしないのですか?

 そうですね、たまに保守的な方から「こんなのマンガみたいじゃないか」とか批判されたりはしますけど。

――今でも、結社の歌会には定期的に出てらっしゃるんですか?

 はい。歌会に出て、他人の歌を見て、また他人に自分の歌を見てもらうことによって、はじめて作品を相対化できるようになるのだと思うんです。いい歌、よくない歌という基準も、そうした歌会でもまれることによって、ようやく身につけられるものだと思いますから。

――結社の歌会にも出つつ、新しい活動の場をどんどん広げていく。笹さんは意識的にこのふたつを両立させようと考えているのですか。

 そうですね。やはり伝統につながっているということは大事だと思うんです。歌壇でも通用するし、短歌を知らない人たちにも楽しんでもらえる歌づくりというのが僕のスタンスですから。石川啄木も寺山修司もそうでしたからね。

――では最後に。笹さんは、これからどういう活動をしていきたいと考えてらっしゃいますか?

 僕はこれまで「短歌でもここまでできるんだ」という、短歌の可能性を証明したいと思って頑張ってきた部分があるんです。その気持ちはいまも変わりません。だからこれからも「短歌っておもしろいよ」っていうことを一般の方にも示しつつ、自分は自分でさらに新しいものを追及していきたいという気持ちはあります。

――確かに、笹さんが歌壇に現れたことで、短歌の裾野がずいぶんと広がったような気がします。

 そう言っていただけると、とてもうれしいです。そうなりたいなと思っているので。
僕くらいの世代だと、寺山修司さんとか俵万智さんを読んで短歌を始めたっていう人が多いんですよね。だから今の若い世代の人たちには「笹公人の歌を読んで、短歌を始めた」って言ってもらいたいですね。


――歌人という肩書きは、これからもずっと背負っていかれますか?

 できればそうしたいですね。もしかしたら、小説も書くかもしれないですけど。

――えっ、小説も書かれるんですか?

 はい、20歳くらいのときに書いたものがあって、『念力姫』に入れる予定だったんですけど、担当編集者がオビ文を書いてくださった久世光彦さんに「なんだね、あれは?」と言われたみたいで、それがきっかけで結局カットされたんですけど(笑)。

――どんな小説なんですか?

 変態児童文学です。すごく無口で謎めいてるクラスメイトを訪ねたら、その彼が烏帽子を被って命がけの舞を披露するというストーリーです。ちなみにタイトルは『昼下がりの儀式』です。

――久世さんの理解を超えてそうなエキセントリックな小説ですね。

 ええ。久世さんが絶句したらしいですから(笑)。


※1 クロワゼット   オランダの超能力者。76年に来日し、当時行方不明となっていた少女が「ダムで水死している」と透視。『水曜スペシャル』(テレビ朝日系)のスタッフがダムを捜索したところ、氏の透視どおり、少女の水死体を発見した。この模様は番組でも放送され、当時大変な話題となった。
※2 結社   機関誌の発行を第一の目的とした歌人集団。主宰と呼ぶべき指導者的存在を持ち、選歌制度を中心に置く教育機関としての役割を持つ。

笹公人(ささ・きみひと)
1975年、東京生まれ。14歳の頃にYMOに衝撃を受け、音楽に開眼。17歳の頃に寺山修司の短歌を読んだことがきっかけで作歌をはじめる。学生時代はテクノポップユニット「宇宙ヤング」の活動をはじめ、小説・戯曲の創作活動に励む。99年「未来短歌会」に入会し、岡井隆氏に師事。2003年、処女歌集『念力家族』(インフォバーン)を刊行。04年、未来年間賞を受賞。主な著作に『念力姫』(KKベストセラーズ)、『念力図鑑』(幻冬舎)がある。
「爆笑問題のススメ」(日本テレビ系)短歌コーナーのスーパーバイザーを務める。
公式HP:http://www.uchu-young.net/sasa/
「笹公人の短歌ブログ」:http://www.j-wave.co.jp/blog/mp_tanka/

最新刊『念力図鑑』好評発売中!
(幻冬舎、1200円)

笹公人さんが、「爆笑問題のススメ」(日本テレビ系)
http://www.stv.ne.jp/tv/susume/index.html に出演します。
放送日:日本テレビ(NTV)
9月16日(金)26:28~26:58の予定です。
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