こよなく本を愛し、「読みたくなる」書評の書き手としても知られる人気作家ふたりが、本をどう読み、どう伝えるか、書評の難しさと喜びを語り合う。三浦しをんさんの最新エッセイ『三四郎はそれから門を出た』(ポプラ社)刊行記念として、7月26日に青山ブックセンター本店で開催されたトークイベントを、あますところなくご紹介します。
構成/板倉克子
撮影/根津千尋
※このトークイベントのショートバージョンは、10月に創刊したPR誌『アスタ』(ポプラ社)でもお楽しみいただけます。

   



司会 これまでお書きになった書評で、何か具体的に反響があったり、それがきっかけですごく読まれるようになったりということはありますか?

角田 書評に書いたことがきっかけで重版したという話は、ありましたね。本当のところはわからないですよ、たまたま同じタイミングで重版したのかもしれないですけど、そう言ってもらえることが四年に一回ぐらいあります。最近では、『「たからもの」って何ですか』(パロル舎)という画文集を、朝日新聞の「ブック・サーフィン」で紹介して、というのが、ちょうど三、四年前でした。

三浦 そういうとき、嬉しいですよね。

角田 しをんさんも、そういうこと、ありますか?

三浦 アナイス・ニンの『小鳥たち』(新潮文庫)は、そういうふうに言っていただきましたね。

角田 その書評、読みました! あれ、確かに読みたくなりました。

三浦 良かった、みんなのスケベ心をくすぐれて! って思ったんですけど(笑)、もちろん作品がすごく良かったのです。書評を読んで、その本を読んでみようと思う人がいてくれるなら、それで金メダルというか、書評を書く意味があるというか、報われますよね。

角田 そうですよね、嬉しいですよね。しをんさんは、電車やバスの中で本を読みながら泣いたり笑ったりすること、あります?

三浦 ありますね。これは本屋での話ですけど、友だちと連れ立って本屋へ行って別々に売り場を回っていると、その後、私はついぞ声をかけてもらえないんですよ。立ち読みしながら一人で笑っているらしく、「また笑ってる!」ってすっかり危険人物にされていて……(笑)。泣く方だと、いちばん最近では、『三四郎……』にも書いたんですけど、梨木香歩さんのエッセイを読んでいて、感極まりましたね。

角田 それは往来で、ですか?

三浦 電車の中でした。ああいうときは、どうしたら――?

角田 どうしてます、そういうときは?

三浦 構わず泣いてます。

角田 鼻をかむほど泣くこともありますか?

三浦 そこまではあまりないけれど、でも、ボロボロ泣いてますね。

角田 私もすごい泣きますね。「思い出し泣き」っていうのもあって。読んだ本のことを思い出しているうちに泣けてきて――。

三浦 へぇえええ?

角田 ――で、電車の中で誰かと目が合っちゃったりするとギョッとされるじゃないですか。「きっと失恋したと思われてるんだろうなー」などと思いながら、「思いたければ思え!」と(笑)。

三浦 どんな本を思い出して泣くんですか?

角田 たとえば江國香織さんの『デューク』の――あ、いま口にするだけで涙が(笑)――「ぼくもとても楽しかったよ」っていう台詞を思い出すとホロッと来ちゃうんですよ。ジョン・アービングも好きなので泣けてくるし、「思い出し泣き」する本、たくさんあります。でもね、ひねくれたことを言うようですが、心底、感動して泣く場合もありますけど、「うっそー!」って思いながらも涙が出るということは、あるんですよね。

三浦 ありますね。

角田 「こんなの、あたし、あんまり好きじゃないわー!」とか思いながらも感極まって泣いてること、ありますよね。

三浦 映画でもありますよね。「こんなにわかりやすい映画!」と呆れつつ、でも涙がダーッみたいな(笑)。こんなにわかりやすいもの、と思いつつ、泣かされてしまう本って好きですか?

角田 あ、嫌いです(笑)。嫌いというか――さっき言ったように、つまらない本はない、「嫌い」もひっくり返せば「好き」な訳で、その意味での「嫌い」です。

三浦 それって、作者の思うとおりに泣かされてしまった自分が悔しいんでしょうかね。負け惜しみなんでしょうか、そういうときに「嫌い」って思うのって。

角田 うーん……でも、誰もが絶対に泣く物語ってあるじゃないですか――。

三浦 犬が車にはねられて死んだり――。

角田 そうです、そうです。

三浦 ――それも可愛い犬が、飼い主のおばあさんをかばってはねられて死んだり。

角田 健気で無邪気な子どもがはねられて死ぬとか――。

三浦 「とうちゃーん!」とかって叫んだり――。



角田 無条件に人は泣く、どんなに汚れた心の持ち主でも泣く、ということは確かにあって、でも、そういう物語が成立しているからといってナンダ! という気持ちはあります。

三浦 書評の話からずれちゃいますけど、どうすればそうやって人を泣かせられる話が書けるのか、私にはわからないんですよ。

角田 え、私、しをんさんの本を読んで泣きましたよ。

三浦 あ、そうですか。

角田 『私が語りはじめた彼は』で泣きました。作者が泣かせようとしていないのに泣いてしまった。すごく好きな話です。

三浦 ありがとうございます。

角田 ちゃんと泣いてますよ。

三浦 そうですか、じゃあ大丈夫ですかねぇ(笑)。






司会 『三四郎…』の巻末には、しをんさんのお部屋のイラストが載っています。しをんさんのエッセイには、本であふれた火宅の話がよく出てきますが、実は案外おしゃれな部屋に住んでいらっしゃるのではないかという疑念があったので(笑)、どなたか漫画家の方に「お宅訪問」風のルポをお願いしようとしたところ、「お嫁にいけなくなります」と断わられてしまい、結局、イラストをつけるということで折り合ったのでした。でも、イラストを起こすために写真をいただいたら、実にきちんと片づいていて……。

三浦 いや、それはウソで、本当は大変なことになってるんですよ(笑)。そのイラストは、ファンタジックな再現なんです。

角田 でも、本でベッドを作ったりしてるじゃないですか、ダブルベッドを。

三浦 はい。

角田 で、それが崩れてシングルベッドになったり。

三浦 ええ。

角田 あ、あれはちょっとおかしい。おかしいですよ。というか、ありえへん(笑)!

三浦 角田さんの仕事場もたまに写真で拝見しますが、すごくきれいに片づいてるじゃないですか、本棚に整然と本が並んでて……。きれい好きなんですか?

角田 違うんですよ。私、発見したんですけど、部屋の中のある壁面を全部本棚にして、そこに本を平積みにしたりしないで、背をそろえて並べておけば、どんなに散らかっていても、きれいな仕事場に見えるんですよ。

三浦 じゃ、写真のマジックっていうことですか(笑)?

角田 そうです、そうです。

三浦 じゃあ、写らない部分はグシャッとなってるわけですか?

角田 なってますねぇ。

三浦 ほんとかなぁ。『三四郎……』のファンタジックなイラストの部屋では、ベッドには花柄のお布団がかかっていて、可愛い感じに描いていただいたんですけど、ほんとはこのベッド、半分くらいは山積みの本で占拠されてるんですよ。

角田 へ?

三浦 要は、寝る前に読んだ本が置いたままになってるんですけど、最初は枕元だけだったのに、どんどん積んでいった結果……。

角田 ベッドの上に?!



三浦 足元から頭まで、幅の半分くらいは本なんです。なので、いつもむくつけき男に添い寝されて寝苦しいような状態でして(笑)。

角田 じゃあ、シングルベッドがさらにハーフベッドに――。

三浦 そうです。

角田 その本は、いつ、どけるんですか?

三浦 それが問題なんですよー。

角田 大晦日とか?

三浦 そうすると、年に一度しかシーツを替えないことになりますよね(笑)。

角田 あ、そうか。私ね、寝るのがすごく好きなんですよ。ベッドって柔らかい場所じゃないですか、あらゆる構成物が。柔らかい所に硬いものがあるっていうのが信じられないんですよ。つまり、本はベッドの下とか床の上に置けばいいじゃないですか、ふわふわしたところに置かずに。本って当たると痛いじゃないですか。

三浦 そうなんですよ。しかも、山積みにしていると落ちてきて、危険でもあるんですよ。でも、寝る前に読み終わった本を片づけに寝床から出たりしたら、眠りが逃げていってしまうし、新たな本を取り出してきて、また読んでしまいますから……って、これはただの言い訳ですね。

角田 今のしをんさんの発言を聞きながら、世の中のあらゆるおかしなこと――私から見るとヘンに思える人の行動にも、すべて理屈があり、理由があり、必然があると思いました(笑)。

三浦 どーして、そう、悟りを開いた僧みたいなことになっちゃったんですか(笑)!

角田 同じような質問なんですけど、『三四郎……』を読むと、しをんさんは、いついかなるときも本を読んでるじゃないですか。で、私が聞きたいのはね、もっとも人に見せたくない恰好で本を読んでいるのは、どういうときですか? 私、今、こんな状態ですが本を読んでます、っていうの、ありますか?

三浦 玄関に入って、上がり口に座ってそのまま読んでたり――。

角田 え、ほんとに?!

三浦 はい。本を買って帰宅して、「あー、やれやれ」って荷物を置いて、ブーツなどちょっと脱ぎにくい靴を脱ぐのに腰をおろしたとたん、買ったばかりの本をガサッと取り出して、玄関のドアに向かったままの姿勢で……。で、「あれ、私は今どうしたんだろう?!」ってふいに我に返ったり。

角田 (爆笑)

三浦 あとは、寝っ転がってケツを掻きながらとか、そういうことは当然、あるわけですけど(笑)。お風呂で読みますか?

角田 はい、読みますね。

三浦 私、それがわからないんですよー。私はお風呂では読まないんです。お風呂とトイレでは読まないんです。読者の方から、「お風呂で半身浴をしながら読んでいたら、ふやけてしまったので、もう一冊、買いました」などという非常にありがたいメールをいただくことはあるんですけど。私、お風呂とトイレでぐずぐずしてるのが大の苦手なんですよ。

角田 でもね、これもいわば表裏一体なんですよ。私たちは風呂嫌いペアで、いくらでも風呂に入らないでいられるんですけど(笑)、風呂がだいっきらいなので、だから本を持って入るんですよ。そうすると、カラスの行水にならないんです。



三浦 なるほど! いくら嫌いでも、エサがあれば風呂に入る、と。

角田 そうです、そうです。お風呂の蓋を折って、本が濡れないようにタオルを置いて、そうやって読んでいると、三分くらいはお湯に浸かれるんです。

三浦 えー、短い。三分ですかぁ?

角田 でも三分を三セットやれば――。

三浦 それでも九分ですよ(笑)。

角田 体を洗う時間も含めれば、人並みに三十分の入浴ができるんです(笑)。

三浦 私は湯舟に浸かるのがイヤでたまらないので、シャワーなんです。湯舟が屈葬用の棺桶くらいせまいっていうこともあって、冬も――。

角田 屈葬……(笑)!

三浦 さすがにシャワー浴びながらは読めないですね。あとは、どんなときに読みますか?

角田 ご飯を食べながら読みますね、一人のときは。あと、換気扇の下でタバコを吸うときに、読みます。

三浦 それ、私もします、します。ところで本を読むとき、しおりはどういうのを使ってますか?

角田 『三四郎……』を読んで、自分の属する派がわかったんですが、帯を折って使っています。

三浦 「はさみ込む派」ですね。ところがこの本にはしおりがないんですよね。

角田 あ、ほんとだ。わざとですか?

司会 違うんです。私も本をつくっている途中で気づいたんです。「ある程度の厚さの本にしおりがないのは、なんて気が利かないんだろう」というくだりを校正しながら、しおりをつけるのを忘れたことに気づいて息を呑んだのでした。でも、しおりの芯を入れるのは手作業で、定価にも大きくひびくため、泣く泣くしおりなしでいくことに……。

三浦 それを聞いたとき、爆笑してしまいました。だって、本の中でこんなにびしびしと指摘しているのに、自分の本はどーなんだ! と。でも、それがまたいいかなー、と常にポジティブ思考ですね(笑)。

司会 そうですね、みなさんにツッコむ余地を与えた本ということで(笑)。




三浦しをん
(みうらしをん)
1976年東京生まれ。2000年、書き下ろし長編小説『格闘する者に○』でデビュー。小説に『月魚』、『秘密の花園』、『私が語りはじめた彼は』、『むかしのはなし』、『まほろ駅前多田便利軒』(第135回直木賞)、近刊に『風が強く吹いている』エッセイに『妄想炸裂』『しをんのしおり』『人生激場』『桃色トワイライト』などがある。
  角田光代
(かくたみつよ)
1967年神奈川県生まれ。90年『幸福な遊戯』でデビュー以来、『まどろむUFO』(野間文芸新人賞)、『ぼくはきみのおにいさん』(坪田譲治文学賞)、『空中庭園』(婦人公論文芸賞)、『対岸の彼女』(第132回直木賞)、『ロック母』(川端康成文学賞)など作品多数。紀行文やエッセイも人気。

『三四郎はそれから門を出た』
著:三浦しをん
定価:1,680円(本体:1,600円)
ページ数:306頁

『まほろ駅前多田便利軒』で第135回直木賞を受賞した著者による、初のブックガイド&カルチャーエッセイ集です。好評のため連載が2年半まで延びた、朝日新聞の連載「三四郎はそれから門を出た」をはじめ、『anan』の連載エッセイや新聞雑誌の原稿も収録。「活字中毒」を自認する、人気作家の秘密の日常をお楽しみください。エッセイにたびたび登場する、著者の仕事場をイラストに起こした「火宅拝見」(書下ろし)も収録した、豪華な一冊です。