連載『運命の女に気をつけろ』はこちら
「後輩キャラ」が誕生するまで

沢村  『火星の倉庫 (*1) 』の東京公演、お疲れ様でした。 12月8日に拝見したんですけど、個人的には、『 平凡なウェーイ (*2) 』や『 サマータイムマシン・ブルース (*3) 』、 『 Windows5000 (*4) 』 に並ぶ傑作が誕生したな、と感じました。

酒井  どうもありがとうございます。確かに今回は、お客さんの反応がすごくいいですね。終演後楽屋に来てくれた知り合いの方とかも、テンションが高かった。正直、終演後のぼくらは、力尽きてグッタリしてるんですけど(苦笑)

沢村 今回は新しい役柄に挑戦されてましたね。

酒井 初めてと言っていいくらいの「ボケ役」なので、ゴールが見えた今でもまだドキドキしてますね。加減がよくわからなくて。

沢村 ヨーロッパ企画の舞台は 2003 年の『サマータイムマシン・ブルース 2003 』から全部観てますけど、酒井さんはたしかに普段はツッコミ役で、知的なイメージの役が多い。でも今回は違いますね。いつもと同じに見せかけておいて、実はすごく怖いものを秘めているという。いやあ、まさかあそこで××するとは思わなかった! もしかすると、今回の登場人物の中でいちばんワルですよね。しかもすっとぼけている。酒井さんの新たな魅力を見た気がします。

酒井 ありがとうございます。

沢村  ぼくが「ヨーロッパ企画」を観るようになってから何人か新しい役者さんが加わってますけど、酒井さんは初期メンバーというか、 大学生のときに入られたんですよね。

酒井 はい。「同志社小劇場」という学内サークルの劇団内ユニットとして始まった「ヨーロッパ企画」の第 2 回公演を観て、「入れてください」って言いにいきました。当時ぼくは大学に入りたてで、高校時代から演劇をやっていたこともあって、かなり調子に乗っていたんです。ぼく自身はそこまで覚えてないんですけど、先輩たちに言わせると、「こいつとだけは一緒にやるまい」と思ったらしい(笑)。そこで、なんとか頼みこんで、とりあえず舞台美術スタッフとして入れてもらいました。本当は役者をやりかったんですけど。

沢村  今や、「ヨーロッパ企画」の舞台で欠かせぬキャラの酒井さんが? 想像できないなぁ。

酒井  「 ぼくがこれまで観た中で 5 本の指に入ります」くらい言ってたらしいんですよ。第 4 回公演で役者が足りなくなって急きょ出てくれみたいな話になったとき、先輩たちの中で結構もめたとか。その事実を、わりと最近聞いたんですけど(苦笑)。で、次の第 5 回公演からほぼフルで出させてもらってますが、ようやくポジションを確立できたというか、自分の立ち位置に確信を持てたのは、 1 、 2 年経ってからですね。いわゆる「後輩キャラ」とか、頭でっかちなキャラで周囲の全員からいじられたりへこまされたりっていう役をあてがわれることが多くて、「自分はこれやな」と。

沢村 20歳前後で「人間ができてる」ヤツなんていませんよ。 若いときって、自分がまだ定まってないし、勘違いして人とぶつかってしまうのもしょうがないですよね。

酒井 ちょっと「無敵感」みたいな感覚があるんですよね。そんな自分が、完全に「ヨーロッパ企画」に人間を矯正されたと言いますか、しつけられたと言いますか。先輩たちに出鼻をくじかれて。

沢村 でも、それでよかったんでしょう?

酒井 そうですね。あのままだったら、プライドの高い、しょうもない大人ができあがっていたのではないかという思いもありつつ……。

沢村 人は誰でも、「青さ」やプライドを叩きつぶされてへこむ時期があるものですが、酒井さんにとって、ヨーロッパ企画の人たちがその役でよかったんじゃないですか。シャレがわかる人たちだし、ちょっと噛み合わない相手でも自分たちの懐に入れてしまうという度量の広さがある。結局、いまや酒井さんはみんなに認められて欠かせない存在になっているわけで、それは酒井さんの努力の賜物と言うしかないですし。

酒井  でも 最近、これは構ってくれてるという一線を越えて、「いじめ」になってると感じるときもありますけどね(苦笑)。そういうとき、先輩たちに「これはいじめですよ」と申告するようになりました。歯止めがきかなくなると怖いので、ちょっとずつ抑制はかけていかないと。あんまり聞いてもらえてない気もするんですけど(笑)

「男だらけの劇団」の楽しさ

沢村 外から見ていると、そういうスレスレのやりとりがすごく面白いんですよ。ヨーロッパ企画のファンの人たちの中には、もしかすると酒井さんが本当にいじめられてるんじゃないかと心配している人もいるかも知れないけど(笑)、そうじゃなくて、もはや一つの関係性として確立しているというか、「芸」の域に達しているんじゃないかと。そういう関係性は、舞台の上にももちろん表れてるし、イベントやラジオ番組や、ヨーロッパ企画のウェブサイトからもにじみ出ている。そういう酒井さんの立ち位置が面白いなと思ってすごくイマジネーションがかき立てられて、それで『運命の女に気をつけろ~劇団・北多摩モリブデッツ、怒濤の 36 日間』という小説ができてしまった。読んでいただいてわかったと思いますけど、主人公・松野の立ち位置は完全に酒井さんなわけです。

酒井 ああ、あの「後輩キャラ」の(笑)。ぼくは「ヨーロッパ企画」しか劇団を知りませんけど、主人公に限らず、「こういう人、劇団におるな」とか「なるほど、こういうことありそうやな」と思いました。劇団の内実って、どうやって調べられたんですか?

沢村 元々はそんなに演劇を見るほうではなかったんですけど、「ヨーロッパ企画」を観てから本格的に演劇の世界に興味を持ち始めて、小劇場系の劇団を見るようになって……。最初は想像で書き始めて、その後、友人を介して「ヨーロッパ企画」の皆さんと触れ合う機会を持てたので、そこから感じたことを取り入れていきました。あとは、「ポかリン記憶舎 (*5) 」を主宰する友人に頼んで舞台裏やワークショップを見せてもらったり、終演後に舞台を取り壊すのを手伝わせてもらったりして、そういう体験も盛り込みました。

酒井 なるほど。やはり取材的なことをされたんですね。読んでいてリアリティーがありました。

沢村 本職の役者さんにそう感じていただけたなら嬉しいですね。ヨーロッパ企画を見始めた頃、役者の皆さんがあまり「女性ずれ」していないイメージが強かったので(笑)、ここにものすごい美人女優が入ってきたらどうなるんだろうという思考実験から物語が始まっていって、取材によってリアリティーを補強していった感覚です。

酒井  沢村さんが観にきてくれるようになった頃って、うちの舞台でどんどん 女子が出なくなっていった時期なんです。このままだと、本当に女子がいなくなって男だけの劇団になるのではと、ヒシヒシと感じていました。

沢村 確かに、あの頃の舞台は女っ気が皆無でしたね。もしかすると、「男の子の世界」に共感する人たちがこぞって見に来てたのかも知れない。いまはまた違う世界観になってますから、あの時代が懐かしい人もいるかも知れませんね。

酒井 『ムーミン (*6) 』なんて、登場人物がまさに男だけで、作り上げる段階でも男ばかりで煮詰まった記憶しかないんですけど、うちの古くからのメンバーはみんな、すっごく好きなんですよ(笑)。 『 サマータイムマシン・ブルース 』 より好きだという人が多い。

沢村 『ロードランナーズ・ハイ (*7) 』も男だけですよね。皆さんはあの頃の作品を「童貞三部作」と呼んだりしてるみたいですけど、それがぴったりというか。大人になりきれない男の子たちへのいとおしさがあふれてる感じがします。

酒井 月並みな言い方ですけど、男同士だとすごく楽なんですよね。もちろん「先輩」「後輩」はあるんですが、基本的に気を遣わないでいい。男同士で遊ぶのと、女の人と遊ぶのって、まったく違うじゃないですか。大学生の頃って、女の子と遊びたい気持ちのほうが断然強いのに、正直、男同士で遊ぶほうがおもしろくて。一度「男の味」を知ってしまうと、女の子と遊ぶときに「めんどくさいなぁ」というのが出ちゃう。でも、男同士でいると、結局女の子の話をしたりはするんですけどね(笑)

ヤバい女優が男同士の関係性を脅かす?

沢村  女の子のお話が出たところで (笑)、ちょっと恋愛についてうかがいたいんですが。 今回書いた小説は、劇団内の恋愛模様が重要なモチーフになっているので。 やっぱり、「劇団内恋愛」というのはよくあるんですか?

酒井 まぁ、劇団内で付き合うというのは、演劇界ではどちらかというと、わりとポピュラーなイメージだと思うんですよ。『運命の女に気をつけろ』ほどではないにせよ。恋愛はともかく、男同士の関係性ができあがりすぎているくらいできあがっている点は、「ヨーロッパ企画」と小説の「 北多摩モリブデッツ」は似ているかもしれませんね 。

沢村 もし女性問題が起きて劇団内が気まずくなったとしても、男同士の絆はそれを乗り越えられるのかどうか? この小説ではそれがどんどん試される展開になっていく(笑)。まあ、この小説のヒロインの安堂夏姫のような「ファム・ファタル」が本当にいたら、たまったもんじゃないでしょうけど。

酒井 あいつがきたらヤバいですよぉ。おもろいと思うけど、ヤバいですね。

沢村 その「ヤバさ」を読者に楽しんでもらえたら最高です(笑)。この作品は決して「モデル小説」ではないですけど、主人公のイメージはモロに酒井さんからお借りしてしまいました。今さらですがどうかご了承ください。

酒井 いえいえ、それはもちろん、はい(笑)。「ヤバい女優」ですら憎めへんヤツに描かれているあたり、ぼくはわりと好きです。あと、実際の芝居の作り方って、演劇ファンからすると見たいところだと思うので、そのあたりもおすすめですね。

沢村 どうもありがとうございます。インスピレーションを与えてくださったヨーロッパ企画の皆さんに、ひたすら感謝です。次回の公演予定はいつ頃ですか?

酒井 2008 年の 5 月から 8 月にかけて、全国をまわる予定です。

沢村 今から楽しみにしてます! あと、酒井さんの個人的なインフォメーションなんてありますか?

酒井 ものすごく個人的で申し訳ないんですけど……。「ヨーロッパ企画」の WEB サイト内で「 酒井ロボティクス研究所 」なるものを運営してるのですが、年末までに 1 日あたりの閲覧者数が 100 人を超えないと「研究内容をロボット以外のものに変更」という危機に直面してます。『ポプラビーチ』読者の皆さんに、ぜひ、アクセスしていただければ!

沢村 「酒井ロボティクス研究所」、ちょっとマニアックではあるけれど(笑)、心温まるいいサイトだと思いますよ。存続を、心から祈っております。ぼくも毎日アクセスしますよ!(笑) 今日はどうもありがとうございました。

酒井  こちらこそ、どうもありがとうございました。

( 2007年12月10日 ポプラ社にて)



*1『火星の倉庫』
第 25回公演作品(2007年)。11月から12月にかけて、京都・福岡・東京・大阪にて公演を行う。
*2『 平凡なウェーイ 』
第 17回公演作品(2005年)
*3『 サマータイムマシン・ブルース 』
2005年に映画化され、「代表作」に推す声も多い。初演は第8回公演作品(2001年)。2003年の第13回公演で再演され、2005年の第18回公演で再々演された。
*4 『 Windows5000 』
第 20 回公演作品( 2006 年)
*5 「ポかリン記憶舎」
1997年より活動する劇団。98年に戯曲『Pictures』で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞するなど、作・演出の主宰、明神慈が紡ぎ出す独特の作品世界に定評がある。
*6『ムーミン』
第15回公演作品(2004年)
*7『ロードランナーズ・ハイ』
第11回公演作品(2002年)。この作品と『サマータイムマシンブルース』、『ムーミン』が「童貞三部作」と称されている。


沢村鐵(さわむら・てつ)
1970年岩手県生まれ。2000年、地方都市の中学校を舞台にした青春ミステリー長編『雨の鎮魂歌〈レクイエム〉』(幻冬舎)を発表し、注目を集める。共著に『ピュアフル・アンソロジー Kiss.』(ピュアフル文庫)がある。
ウェブサイト:「沢村鐵の フィラメント」
http://www.t-sawamura.net/

酒井善史(さかい・よしふみ)
1981年京都府生まれ。高校時代より演劇を始める。99年、大学入学とともに劇団「同志社小劇場」に入団し、翌年退団。2000年、第5回公演『苦悩のピラミッダー』より「ヨーロッパ企画」に参加し、以後全作品に出演。役者と舞台美術を務める。映画『交渉人 真下正義』『サマータイムマシン・ブルース』に出演。
ウェブサイト:「酒井ロボティクス研究所」
http://www.europe-studio.net/robotics/

●ヨーロッパ企画
演劇公演のほか、各種イベント開催、 DVD製作、ホームページ企画、雑誌連載、テレビ・ラジオ番組出演など、「劇団」という枠を超えた幅広い活動を展開中の「企画集団」。98年、同志社大学演劇サークル「同志社小劇場」内におけるユニット結成を経て、翌年独立。群像コメディを得意とし、2006年秋の『ブルーバーズ・ブリーダーズ』では札幌・東京・米原・京都・大阪・福山・福岡の7都市で6600人を動員するなど、京都を拠点にしつつ全国へ活動の場を拡げている。2005年には代表作『サマータイムマシン・ブルース』が本広克行監督によって映画化された。
ウェブサイト:
「ヨーロッパ企画」http://www.europe-kikaku.com/
「 Europe Studio」http://www.europe-studio.net/